第21話 明日に向かって
今週も
私はいつもの席で客人との他愛ない会話に付き合い、
私たちの子どもたちは、日がな一日、何故か私にだけジャレついてきます。
そう言えば、木之本家にも待望の
もっとも、身重になるであろうカスミについては、早晩
タケシは調理担当、ミカは退治屋さん、私も二足歩行は得意ではありますが、トレー片手に接客出来るほどの器用さは持ち合わせておりません。
もはや、
そんなわけで、本日募集していた
本来であれば、店主たるタケシが取り仕切るべきところなのですが、何故か私とミカも同席する事になってしまいました。
カスミのお願いという事であれば、止む無く参加さざるを得ない、私とミカ。
ところで、面接希望者として、誰がやって来るのでしょうか?
私たちには聞かされていません。
タケシも聞きそびれているようです。
段取りを整えたカスミだけが、面接希望者の名前を知っています。
が、カスミは初期のツワリで絶賛お休み中なので、お話を出来るような状況ではありません。
『タケシよぉ~。
せめて、名前ぐらいは確認しような。』
「す、すまん。」
ブルテリアにツッコミを受けるタケシの滑稽なやり取りなど、ミカは気にする風もなく、扉の向こうを眺めています。
さて、三人がカウンター席で待つこと半時程が立った頃でしょうか。
不意にミカが立ち上がり、扉を眺めながら私に話しかけてきました。
「来たわよ、お客様。」
私も扉に意識を集中すると…面接希望者の影が見えてきます。
「ん?」
希望者以外にも、誰かいるように見受けられます。
「ま、まさか?」
ミカに視線を向けると、彼女がニヤリと私に笑い返してきます。
やがて、扉が開くと一人の学生服姿の少女が入ってきます。
「こんにちは!」
たれ耳ウサギを胸に抱き、いつか私と会話をしたあの少女です。
「本日、面接のお約束でお伺いしました、
よろしくお願いします。」
深々と頭を下げるミユキちゃん。
「どうぞ。」
タケシに促され、ミユキちゃんは席に着き、たれ耳ウサギも机の上に箱座りします。
「それでは…。」
ミユキちゃんの面接が始まった横では、たれ耳ウサギが私たちに話しかけてきます。
「私の
「それは、私たちの決める事じゃないわ。
店主たる、タケシの仕事よ!」
ミカがたしなめてみせますが、たれ耳ウサギは気にする風もなく、言葉を重ねてきます。
「わしも、何がしかの応援に入り、彼女の応援をしていく所存じゃ!」
「大丈夫かしら?」
ミカは悪戯っぽく笑って見せれば
「騎士の名誉にかけて!」
鼻息荒く、胸を張ってみせる、たれ耳ウサギ。
「…どうだろうか?
タツロー。」
不意に私に話を振ってくるタケシ、彼にも一抹の不安が有ったのでしょう。
全員の視線が私に降り注いできます。
私は、おもむろにタブレットを取り寄せ、文章を打ち込んでいく事にします。
『協力いただけるのは、有難い事です。』
全員の視線に安堵の色が漂います。
『ただし、条件があります。』
私の要らない一言で、場の空気は一変し、緊張が否応なく高まってきます。
全員を十分に焦らしたところで、私は条件を提示しました。
『うさ子と一緒に勤務する事!』
この一言で、場の空気は一気に緩み、全員が笑い出してしまいます。
一頻り、笑い声が木霊した後、
「小僧、
「こちらこそ、よろしくお願いします。
頼りになる騎士殿。」
「うむ!」
私の横では、ミカがコロコロ笑い。
一連の所作を見ていたタケシとミユキちゃんもニコニコしています。
私は、タツロー。
わんこに転生してしまった、元人間です。
前世では、家族も含め、希薄な人間関係の中で生きてきました。
今、こうして美人の
あまつさえ、VTuberとしてのデビューも果たし、今や時の
前世で失ったものは、確かにあったかもしれませんが、今の私は補って余りある
あぁ、飼い犬に降格した事は、残念な事なのかもしれませんが、家族も増えたし、何より大好きなミカが今日も綺麗なので、後悔などは微塵も感じていません。
Fin
吾輩は犬になってしまった たんぜべ なた。 @nabedon2022
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