第20話 その筋で有名なヤツ
自己紹介を済ませ、自分の身の上話をケイコさんに聞いてもらい、一息ついたのか、ミユキはゆっくりと店内を見回します。
すると、壁際の奥、年季の入った黒い机に上体を乗り出し、タブレットを操作している、妙なブルテリアが目に入ります。
その周りでは、
「あれが、噂の駄犬さんよ。」
ケイコさんが身を乗り出し、そっとミユキに耳打ちしてきます。
「駄犬さんとも、お話しできるのよ。
やってみる?」
ケイコさんはニコニコしている。
「はい!」
ミユキが答えると、ケイコさんはニコニコしながら彼女を促して、ブルテリアの所へやって来ます。
「こんにちは、ター君。」
「わん!」
ケイコさんの挨拶にブルテリアもやわらかい声で答え返します。
「実は、この子が貴方と話したいって…。」
ケイコさんに促され、俯いた姿勢のミユキが進み出てきます。
モジモジしている少女を気にする風もなく、タブレットを操作するブルテリア。
『こんにちは、お嬢さん。』
読み上げソフトの声にびっくりして、ミユキが顔を上げると、ブルテリアが彼女の顔を見つめてきます。
「こ、こんにちは。」
やっとのことで、返事をするミユキ。
『楽しい時間をお過ごしいただけましたか?』
「は、はい…とても…。」
『それは何よりです。』
すらすらと会話が成立する不思議な感覚。
ミユキが首をかしげていると、ミカが傍に来て、ミユキに身体をすり寄らせます。
ミカの所作にミユキがびっくりしていると、読み上げソフトの声が話を続ける。
『いままで、ご苦労が絶えなかったようですね。』
「!!」
ミユキはびっくりして声を失ってしまい、ケイコさんも満足気な笑顔で何度も頷いています。
『もう大丈夫ですよ。
ミカも、そう言ってます。』
「わん!」
ミカが穏やかに吠えます。
『それに、貴女には頼もしい騎士が就いているようですし。』
読み上げソフトの声に、ミユキがハッとして振り返ると、テーブルの上で鳩胸姿で威張っているたれ耳ウサギが居ます。
「そうですね。」
ミユキはブルテリアに向き直ると、クスクス笑い出します。
『今後とも、ご縁が有ると良いですね。
また、貴女の騎士とともに遊びに来て下さいね。』
「わぅ。」
そう言って、ブルテリアは話を閉じました。
「驚いたでしょ?」
「ええ、とっても!」
自席に戻り、お茶を楽しみながら、先程まで体験していた事で、談議も熱くなっているケイコさんとミユキ。
「でも、本当に日本語で流暢に会話されるんですね。
Youtubeで拝見した時は、半信半疑だったんですよ、絶対細工が有るって。」
「フフフ、そうね。
慣れたとは言え、今だに私も驚かされることが多いのよね。」
「そうなんですかぁ!!」
身を乗り出して質問してくるミユキと、にこやかに答えるケイコさん。
近所の席の人達も、二人の会話に聞き耳を立て、心ここにあらず状態のようです。
それでは、この喫茶店が、何を間違ってYoutubeに登場することになったのか?
その辺のくだりをご紹介致しましょう。
木之本夫妻が、
まぁ、私の貯金はそこそこ残っていた事もあり、慌てて顧客を募る必要なありませんでした。
たまに来られるトオル夫婦やスーパーのお仲間さんなど、新しく出来た知己からの縁を徐々に増やしていけば良い事なのです。
しかし、夫婦には
徐々に疲弊する木之本夫妻の身を心配し、一計を案じる必要も出てきました。
さて、私にも
(こんな事で、バズるのだったら、私をダシに客引きやればいいじゃないか!)
至極当然の帰結を持って、店舗アピール手段になるのではないかと、木之本夫妻へ私は提案したのですが…。
「そんな…
これ以上、ター君にすがる訳にはいかない。」
カスミは戸惑い
『生活のためだ。
気にする事は無い。』
「し…しかし…。」
私が強く進言してみても、タケシまで躊躇する始末。
これでは、折角のチャンスを無駄にしてしまいます。
『それでは、”私の成長日記”ということで、定期投稿してみてはどうだろうか?』
ペットの成長日記であれば、彼らの抵抗も和らぐことでしょう。
おまけに、ここは『ペット同伴の喫茶店』、自前のペットの成長日記などは、ペットの世話も店舗活動の一貫としてセットで売り出せ、店の評判も広がるというものです。
「そ…それなら…。」
戸惑いながらも、”成長日記”で有ればいいのではとカスミはタケシに語りかけ、ようやく合意に至るのでした。
さて、そんなこんなで出来上がった”成長日記”の輝かしい第一日目、そこに掲載された動画には”スマホを軽やかに操作するブルテリア”!!
早速動画はバズってしまい、合成画像説など諸説を含め、実に賑やかなコメントが付きまくる動画となり、『PV』や『いいね』がうなぎ登りに上昇を続けてしまいます。
おまけに舞台となったのは、
お陰様で、動画が掲載されて以降、客足は日に日に増え始め、最近などは、店外でお客様にお待ちいただくような事態まで発生してしまいました。
「タツローや、儲かっておるようじゃのぉ~。」
『いえいえ、お奉行様のお目溢しが有っての事にございますぅ~。』
「クックックッ。
そちも悪よのぉ~。」
『滅相もございません。』
今回の計画に入れ知恵をしたミユ、チャンネル売上の一部を上納することになった私。
スタート初期こそ、収入は僅かなものでしたが、『PV』や『いいね』がうなぎ登りになり始めた頃から、ミユの計画が狂い出します。
「お姉ちゃ~~ん、助けてぇ~~!」
収入が月収の半分に近づくに連れ、ミユの悲鳴はケイコさんの耳にも届くようになります。
「このままだと、役所を首になっちゃうぅ~~。」
「まったく、欲の皮を突っ張るからよ!」
ケイコさんにたしなめられるミユさん。
結局ケイコさんが一枚噛むことで、ミユさんの収入問題は解決、ケイコさん自身は濡れ手に粟で副収入をゲット。
これでようやく、三方良し?で諸々の問題は収まるのでした。
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