第6話 初めての告白。
(ドアを開ける音→ヒサメさんの声がリビングから聞こえてくる)
「おかえりー。今日は結構早かったんだね。…後輩に任せて帰って来た? (少し嬉しそうに)そっか、人に任せられるようになったんだね。偉いぞー、少年」
(ソファーにいるヒサメさんの横に座る貴方)
「(左から)確か、不安で中々放っておけないって悩んでいた例の後輩君だろう? 僕が聞いていた限りだと大丈夫そうだって言ってた子。…そっか、僕を信じてくれたんだ…(嬉しそうに呟く声)そっか…」
(手を叩くヒサメさん)
「今日はね、じゃん。そう、オリーブオイル♪ 美肌成分がたっぷりのマッサージ用の奴だから安心しておくれよ」
(ヒサメさんがソファーの上で座り直して正座する衣擦れの音)
「ささ。(膝をペチペチとヒサメさんが叩く音)僕の膝にいつもの様にゆったりとごろーんして♪ (髪がヒサメさんの膝と擦れる音)最近は、逆にもう君の頭が乗っている方がしっくりくる感覚すらあるな〜!」
(ヒサメさんがオイルを手に垂らして馴染ませる水音)
「(目と鼻の先でオイルに包まれた手と手が擦れる音)(演技臭い感じで)…それでは施術の方を始めていきますね、お客様☆ まずは顎先からお顔の輪郭をなぞるように…(スリスリした水音)…フフ、いやさ。何だか少し恥ずかしいなぁと改めて思ってしまってね。(心底楽しそうに)照れ隠しくらいするさ、ぼくだって♪ スリ、スリ…スリスリ〜」
「次は君自慢のお餅みたいなほっぺを…そんなに太ってない? ハハハ、失敬失敬☆ では、オイルを揉み込むように(水音がほっぺの辺りでくるくると周る)クルクル…クル、クル…流石にまだ眠ってはいないよね? (穏やかな小さい話声)それとなく聞いていてくれればいいんだけど…(囁くような話し声)実は僕、このアパートのオーナーなんだ♪ …そんなに目を開けたらオイルが染みちゃうぞ? 続けるよ。一昨年くらいの事だったと思うんだけど、お祖父様が亡くなってね? それで、お祖父様の莫大な遺産を巡って謂わゆるお家騒動って奴が起こってさ」
(ヒサメさんがオイルを足して手に馴染ませる水音)
「(少し悲しそうに囁く声)大好きだった皆がお金の為に汚くて酷い言葉を掛け合ったり、平気で沢山の嘘をついたりと惨憺たる状況に囲まれてしまってね…(穏やかな調子に戻る)それで、何故だか騒動から1番離れていた僕の元にほとんどの遺産が入ってしまってね。なんで? どうしてって思ったよ。1人でずっと、ずーーっとね」
(目元やこめかみをマッサージする水音)
「目を閉じていてね…(震える溜息)すぅー…はぁ。(穏やかな囁き声)それからはもう酷いものだったよ。ギャンブルと酒に逃げ続ける日々…人が怖かったんだ、僕に向けられた言葉の1つ1つが本当なのか嘘なのか。人間不信って奴に陥ってしまって…そうして何で生きてるのかも分からない抜け殻みたいな僕を、放っておかなかった人が1人だけいてね」
(オイルに塗れた手が両耳を包み込む音)
「(優しい囁き)…君だ」
(両耳が解放され、耳全体を優しく揉み込むヌチャヌチャした水音)
「この人は一体何がしたいんだろう? 彼から見れば僕は、だらけた非生産的な人間だろうにって。ずーと、親切にしてくれるその裏の事ばかり考えていた…それで、君が得意だという料理を食べたときにあ、おいしいって呟いたら」
「(愛おしそうな囁き)君が無邪気に微笑んでた」
「その笑顔を見て思い出したんだ、人は人の為に真心から頑張れるんだって。
…そうだよ♪ 君が出会って間もないあの時に見せてくれた笑顔。あの笑顔のおかげで今僕は笑えているんだ。本当にありがとう」
(マッサージが終わりタオルを取り出して耳についたオイルを拭き取るヒサメさん)
「この間の焼き肉の時の質問に答えよう。どうして僕が君の部屋に入り浸って疲れている君に色々するのか…簡単だよ。(とても穏やかな調子で)疲れて絶望している時の僕の姿に重なったのさ、君の姿が。きっと…いつか君の善意は悪い人に悪用されてしまう。そうなれば君の笑顔はカケラも残さずに消えてしまうだろう。そんな事は許せない、だから僕なりに君に出来ることをしたかった…それだけなんだ。身勝手だったかな?」
「(いつもの調子に戻って)君がどうしたいか、どうなりたいかも全部君自身が選んで決めるものだ。今の話を聞いて、僕のことを我儘な暴走女だと思ったのなら正直にそう言って欲しい。部屋を片付けてエアコンを直したら僕はここを出ていくよ。実はこのアパート以外にも何個か建物を持っていてね☆」
「(とても優しい囁き声で)でもどうかこれだけは、忘れないで欲しい。
何よりも第一に、自分のことを大切にして欲しい。自分の心と身体と未来、それが何よりも大事だって事だけは絶対に」
(動揺するヒサメさんの息)
「(悲しさを隠すように楽しそうに)…そっか、僕ほど我儘な暴走機関車は見た事がない、正直振り回されてばかりな気がする…か。(泣き出してしまいそうな声)そっか、そうだよね! ごめんね、本当に…え? (心底困惑する震えた声で)本当に放っておけない人だ…?? え、え? なになに、その決意したような目は」
(起き上がってポケットから箱を取り出す貴方)
「え、は? …お見せしよう、努力の成果を?」
(箱が開く軽い音)
「(ひどく動揺するヒサメさんの声)ゆ、指輪…? え、え?? 本当、なの?本当の本気で…? 僕はこれからも、君のそばにいてもいいのかい…??」
(深い深い深呼吸をするヒサメさん)
「(泣き出してしまいそうな声)はぁ…本当に君は、笑顔の素敵な人だな」
隣の部屋のギャンブラーな生活力0のイケメンお姉さんの世話を焼いていたら、癒したいと強引に迫ってくるのだが。 溶くアメンドウ @47amygdala
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます