ACT2 大脱走 ~THE GREAT ESCAPE FROM田邊~
昼休み――。
手っ取り早く弁当を食べたぼくは、例の箱を開けるために屋上へむかった(教室で騒いでると、先生にばれるからね)。
階段を次々とのぼり、やっとのことで屋上に到着。
よし、さっさと開けてみよう。
かけられていたひもを外し、箱を開ける。
すると――中には、古ぼけた巻物が入っていた。たぶん、平安時代の貴族とかが持ってるやつだ。
ぼくは、巻物を手に取って読んでみる。
巻物を開くと、よく判らない文章が書いてあった。筆で書かれているので、どういうことが書いてあるのかはさっぱり判らない。
右手で紙を繰って、読み進めていく。
やはりよく判らない文章がコチャコチャと書きこまれているだけだった。
うーん……。
顔を近づけて解読を試みるが、よく判らない。――なにかのお経とかだろうか?
すると、突然背中に衝撃。
ふり向くと、ドヤ顔で腰に手を当て、こちらを見下ろす男子生徒が立っていた。「こんにちは、間宮一樹君!」
こ、こいつは!
ドヤ顔の生徒の名前は、田邊勇助。
田邊は授業中でも五十メートル走中でも居眠りをするほどの寝坊助だが、成績優秀で頭脳明晰という、変なやつだ。
また、田邊は映画同好会会長を名乗り、秘密裏に映画撮影を行っているらしい。
そして、その映画撮影現場は過酷を極めており、当事者達は、「うさぎ跳びで校庭三十週させられた」「裏山の崖から飛び降りろといわれた」「限界まで昼食を我慢させられた」と語っている――田邊は、とにかくヤバいやつだ!
ぼくの直感が、「こいつとは関わるな!」という信号を出している。
ぼくは、脱兎の如く逃げの姿勢をとる。
こいつが立っているから、塔屋からの脱出は不可能。ならば、フェンスを越えて降りるしかない!
巻物を箱にしまってから、ズボンのポケットにねじ込む。
次に学生服の内ポケットの中から、軍手を取り出して手にはめる。軍手の内側にすべりどめがついているから、建物の上り下りをする時に便利だ。
そして、ぼくは近くのフェンスをよじ登って、あ~らよっと! と、こえる。
ぼくの様子を見て、田邊がきいてきた。
「何するつもりなんです?」
ぼくは、適当に誤魔化す。「いやー、ちょっとね。最近体がなまってきてるから、運動にいいかなって思って」
「ふーん、そーですか。冒険家の子孫も、大変ですねー」
……いや、「ふーん」で済ませられるものなのか? 同級生が、屋上のフェンスをよじ登ってるんだぞ(まあ、ぼく的には色々詮索してこないほうが有難いんだけどね)。
ぼくは屋上のはしに手だけでしがみついて、三階の様子をうかがう。
ちょうど、屋上の真下の理科室の窓が全開になっていた。すきまは五十センチ程度で、しくじることは許されない。もちろん、こんな局面は何回か経験済みだから、だいじょうぶ!
ぼくは勢いをつけて、理科室の窓へとダイブする。
「あ! 何やってるんですか!」
田邊が屋上で叫ぶ。
ぼくは、理科室に足から着地。
全身でバランスを取って、さっきの勢いを殺す。
その一連のできごとを、第一理科室にいた化学オタクの化野先生が、ポーカーフェイスで見ていた。
どうやら実験中らしく、化野先生の手元の薬品がジュワジュワいっている。
「おい、間宮……おまえ、何やってるんだ?」
「やー、あははー」
ぼくは左上を見て、なんとかいいわけをひねり出す。
「今朝のテレビの星占いで、アクション映画の物真似をしてみよう! っていう項目が、ありまして……」
怪訝そうに、化野先生の眉がひそめられる。でも、そこは化学オタクの化野先生だ。
先生はすぐに実験に戻った。
スポイト――じゃなくて、こまごめピペットを操作しながら、先生がいう。
「ちなみに俺はおとめ座なんだが、おとめ座はどんな結果だったんだ?」
「おとめ座ですか? あー、どうだったかな? 忘れちゃいました」
あははー、とぼくは笑ってごまかす。
……ていうか化野先生、ぶっきらぼうな人なのにおとめ座なんだな。
人は見かけによらないということを感じたところで、上のほうからバタバタという足音がきこえた。
うわっ、田邊だ!
第一理科室と第二理科室は、薬品室でつながっている。そこから第二理科室にいって、逃げよう。
ぼくは、あわてて化野先生に訊ねる。
「第二理科室の鍵って、今あいてますか?」
「ああ、あいてるが……」
化野先生が答えたのと同時に、第一理科室の扉がガラリと開けられた。
ぼくは、勢いよく薬品室に飛び込む。
その直後に、田邊が現れた。
「すいませーん! さっき、間宮一樹とかいうアホがいたと思うんですけど、心当たりありませんか?」
「ああ、あるぞ。さっき、窓から入ってきた」
普段は無口な化野先生にしては珍しく、ペラペラとしゃべりはじめる。
なんで、こういう時に限ってよくしゃべるんだ! 先生が下手なことをいう前に、手を打たねば!
ぼくは薬品室を見回し、何か使えそうなものがないか探す。
すると、棚のはしっこにラムネ菓子のびんが転がっていた。あと、オレンジ色の太い輪ゴム。両者とも年季の入った物だ。おそらく、昔いた先生が勝手に持ち込んだのだろう。
ぼくは左の親指に輪ゴムをかけ、びんから取り出したラムネを、パチンコの要領でその真ん中にセットする。
片目をつぶり、狙いを澄ます。
思いっきり輪ゴムを引っ張って、化野先生の手元の試験管中の液体にラムネを命中させた。
じゅわじゅわ~!
ラムネと液体が反応して、泡がみるみるうちに立っていく。
「おい、どうなってる!」
化野先生があわあわしながらいうが、その間も泡は広がっていく。そして、田邊にぴしゃりといいつけた。
「田邊! 薬品室からキムワイプを持ってこい!」
すごい剣幕に、田邊がガクガクと蒼白い顔で頷く(ちなみにキムワイプというのは、実験用のティッシュみたいな物のことだ)。
さて、やつが薬品室にやって来る前に、ぼくは退散するとしよう。
素早く薬品室を出て、ぼくは第二理科室を通り、廊下へ脱出する。
そして、優雅な足取りで階段を降り、自分の教室へ戻る。
化野先生がかなりご立腹だったから、田邊もしばらくは追ってこれないだろう。
ふう~。
ようやく、安泰――。
バック・トゥ・ザ・大冒険! 博多たかは @takaha4649
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。バック・トゥ・ザ・大冒険!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます