第1話 訳あり親子は日本へ

 今日、数年前に異世界へ旅立った娘が、急に子供連れで帰省するという。

 戦争があったという異世界から、娘が無事に帰省するのは非常に喜ばしい。

 だが、未婚のまま子連れで帰省するというのには、連絡を受けてからそれなりの時間があっても、未だに戸惑いが隠せない。

 何でも、情勢が不安定な向こうでの戸籍はどうにかどさくさ紛れに出来たが、今後の安全性を鑑みて、娘が知る平和な日本での滞在機会も作っておけたらということらしい。

 ゆくゆくは、自分達の子供として育てたいのだろう。


 早々に独り立ちを始めた娘に頼られる事は、この先は更に少なくなることは目に見える。

 どんな形であれ、子供の親として協力できるのなら。喜んで協力しよう。


 それが、茨の道だとしても、見届けよう。善し悪しはあれど、それを幸せと選んだのであれば。


 娘の兄である息子からは、馬鹿なことをと。末の妹を止めようと言われたが、真ん中の妹と妻からは猛反対を食らっていたな。

 世間からすれば、損はすれど、利益はないのかもしれない。


 …馬鹿なことかもしれない。ただ、信念をもって、一途で真っ直ぐな事が出切るからこそ、馬鹿と言われるのかもな。

 できるのは、惜しみ無く協力出来ることをするだけだろう。うん。




 妹が久し振りに帰ってくるらしい。兄としては嬉しいことだが、心配だ。

 どうも、血の繋がらない子を引き取り、育てるつもりらしい。

 その為に、色々と手段を選ばなかったらしいが、あと僅かとはいえ、まだ未成年者Age 19なのにだ。せめて、社会的に大人になって経験を積むべき時だと思っていたのに。

 俺が兄として出来ることは、俺達夫婦には子供はまだ居ないが、一時だけ、数年間でも、妻を説得すれば預かれると思っていた。

 だが、目論みは思わぬ反対で潰えた。義妹達と妻と継母と、三者三様で責められた。




 ふふふ、お義母様、かぁ。私も憧れたなぁ。

 血の繋がりがあってないような連れ子の私達なのに、お互いにどう接したら良いのかも手探りだった。でも、それがあったから、今があるし。

 妹もそれが出来るって、思えたのかも。

 よし、出来る出来ないを考えるより、やりたいって想いを応援して上げるか。

 経験者の経験値、活かせるなら活かさなきゃ、ね。

 まずは、お義父さんとお兄ちゃんの説得を。お義姉ちゃんも味方につけてっと。


 着々と包囲同盟を確立されている。




 寝る子は育つ。

 こっちに来たばかりで、物珍しさで興奮しきりだったって言ってたし、よく寝るのは良いこと。

 さて、起きたら朝ごはんが食べられるようにしておいてあげないと。

 寝た子が起きてくるのを心待ちに、くつくつと、トントン拍子を刻みながらいつもの手順でごはんを作る。


 特別だけど、これからの当たり前を。当たり前だけど、特別な存在のために。




 目が覚めたら、知らないおうち?

 ねぇね、となりでねてた。ゆさゆさ、ユサユサ。


「…(;>_<;んー)、あと五分…」


 これは…、オキナイ。あともっともっと時間がたたないと。

 ボクはしってる。ママがおこさないとおきられないことを。


『ママ? ママ? ママどこ~?』


 返事がない、ドコニモイナイよーだ。でも、ダレカいるおとがする。

 …さがしてみよう。そ~しよ~!


 ママ、ミーツケタ~!


『ママ~! おはよー!』


 後ろから抱っこ!




「きゃっ!」


 足にしがみつかれて驚いたけど、その訳はすぐにわかった。


「あ、目が覚めたかな? おはよう。朝起きたら、まずは顔を洗おうね」

『…ママ? おはよう!』


 なんだかキョトンとしてるけど、こわがったり驚いてはないみたい。


「洗面台はこっちだよ」


 手を引くと、戸惑ってるけど素直についてくる。あっ! 火は止めとかないと。




 顔を洗われ、優しく、やさしく、そっと拭いてもらって、髪をすいてもらう。

 いつもとおなじ? おなじなのに、チガウ?


 じー、ぢぢー、ジヂジヂジー?


「ふぁー。ママ、オハヨー」


 ねぇね、オッキシタ。


『ねぇね、ママがへん?』

「おはよう。目が覚めたかな?」

「あ! …うぅー、おはようございますぅ」


 ねぇね、ようすがへん?


「はい、おはよう。気にしないで。いつもみたいにでいいのよ。ここもあなたのお家と一緒だから」

「は、はい。でも…」

「急には難しい、かな?」


 ママのおかお、クモタ?


『ねぇね、どったの?』

「うぅん、えっと。まって、かおを洗ってから」


 とことこ歩く姉の後をついて、いっしょ。


「えっと、この人はね。ママのママなの」

『ママのママ? =ママママ?』

「そう、ママママであってる。ママママだけど、伝わらないママママ、だからね?」


 ママママぎゅっとして、じっと見つめて、


『…ママママ?』

「???」


 姉の方を振り返り、ウッタエル。


 独り言を呟く様子に疑問がある様子でうかがわれる。


 何かを求められているかをさっし、


「えっと、ママのママだから、ママママでいいの? って言ってます」

「ママママ?」

「はい、えっと。もう一人のママのママが、ママママって呼んでって…」

『ママママ?』


 もっかい目でうったえてみる。


「…はぁ~い、ママママですよ~」


 ハグで答えが返ってきた。


『ママママ~』

「ん~! かわいい!」

「えっと、伝わって?」

「んー、分からないけど。何となく、かな?」

「わぁー、良かったねw」

「一緒に、おいで」

「えっと、えい!」


 片手でもう一人もハグ。三人でハグはぐ。


 この子は、言葉が話せない代わりに、その言葉に載せられた心を詠むことができて、資質がある人とは会話ができるって話だけど、そんなに特別でも何でもないのかな?

 私には資質がないみたいだけど、こんなに慕ってくれるなら、できなくても困らないかも。代わりの方法は、一つじゃない。これからでも、見つけられるはず。

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