第1話 訳あり親子は日本へ
今日、数年前に異世界へ旅立った娘が、急に子供連れで帰省するという。
戦争があったという異世界から、娘が無事に帰省するのは非常に喜ばしい。
だが、未婚のまま子連れで帰省するというのには、連絡を受けてからそれなりの時間があっても、未だに戸惑いが隠せない。
何でも、情勢が不安定な向こうでの戸籍は
ゆくゆくは、自分達の子供として育てたいのだろう。
早々に独り立ちを始めた娘に頼られる事は、この先は更に少なくなることは目に見える。
どんな形であれ、子供の親として協力できるのなら。喜んで協力しよう。
それが、茨の道だとしても、見届けよう。善し悪しはあれど、それを幸せと選んだのであれば。
娘の兄である息子からは、馬鹿なことをと。末の妹を止めようと言われたが、真ん中の妹と妻からは猛反対を食らっていたな。
世間からすれば、損はすれど、利益はないのかもしれない。
…馬鹿なことかもしれない。ただ、信念をもって、一途で真っ直ぐな事が出切るからこそ、馬鹿と言われるのかもな。
できるのは、惜しみ無く協力出来ることをするだけだろう。うん。
妹が久し振りに帰ってくるらしい。兄としては嬉しいことだが、心配だ。
どうも、血の繋がらない子を引き取り、育てるつもりらしい。
その為に、色々と手段を選ばなかったらしいが、あと僅かとはいえ、まだ
俺が兄として出来ることは、俺達夫婦には子供はまだ居ないが、一時だけ、数年間でも、妻を説得すれば預かれると思っていた。
だが、目論みは思わぬ反対で潰えた。義妹達と妻と継母と、三者三様で責められた。
ふふふ、お義母様、かぁ。私も憧れたなぁ。
血の繋がりがあってないような連れ子の私達なのに、お互いにどう接したら良いのかも手探りだった。でも、それがあったから、今があるし。
妹もそれが出来るって、思えたのかも。
よし、出来る出来ないを考えるより、やりたいって想いを応援して上げるか。
経験者の経験値、活かせるなら活かさなきゃ、ね。
まずは、お義父さんとお兄ちゃんの説得を。お義姉ちゃんも味方につけてっと。
着々と包囲同盟を確立されている。
寝る子は育つ。
こっちに来たばかりで、物珍しさで興奮しきりだったって言ってたし、よく寝るのは良いこと。
さて、起きたら朝ごはんが食べられるようにしておいてあげないと。
寝た子が起きてくるのを心待ちに、くつくつと、トントン拍子を刻みながらいつもの手順でごはんを作る。
特別だけど、これからの当たり前を。当たり前だけど、特別な存在のために。
目が覚めたら、知らないおうち?
ねぇね、となりでねてた。ゆさゆさ、ユサユサ。
「…(
これは…、オキナイ。あともっともっと時間がたたないと。
ボクはしってる。ママがおこさないとおきられないことを。
『ママ? ママ? ママどこ~?』
返事がない、ドコニモイナイよーだ。でも、ダレカいるおとがする。
…さがしてみよう。そ~しよ~!
ママ、ミーツケタ~!
『ママ~! おはよー!』
後ろから抱っこ!
「きゃっ!」
足にしがみつかれて驚いたけど、その訳はすぐにわかった。
「あ、目が覚めたかな? おはよう。朝起きたら、まずは顔を洗おうね」
『…ママ? おはよう!』
なんだかキョトンとしてるけど、こわがったり驚いてはないみたい。
「洗面台はこっちだよ」
手を引くと、戸惑ってるけど素直についてくる。あっ! 火は止めとかないと。
顔を洗われ、優しく、やさしく、そっと拭いてもらって、髪をすいてもらう。
いつもとおなじ? おなじなのに、チガウ?
じー、ぢぢー、ジヂジヂジー?
「ふぁー。ママ、オハヨー」
ねぇね、オッキシタ。
『ねぇね、ママがへん?』
「おはよう。目が覚めたかな?」
「あ! …うぅー、おはようございますぅ」
ねぇね、ようすがへん?
「はい、おはよう。気にしないで。いつもみたいにでいいのよ。ここもあなたのお家と一緒だから」
「は、はい。でも…」
「急には難しい、かな?」
ママのおかお、クモタ?
『ねぇね、どったの?』
「うぅん、えっと。まって、かおを洗ってから」
とことこ歩く姉の後をついて、いっしょ。
「えっと、この人はね。ママのママなの」
『ママのママ? =ママママ?』
「そう、ママママであってる。ママママだけど、伝わらないママママ、だからね?」
ママママぎゅっとして、じっと見つめて、
『…ママママ?』
「???」
姉の方を振り返り、ウッタエル。
独り言を呟く様子に疑問がある様子でうかがわれる。
何かを求められているかをさっし、
「えっと、ママのママだから、ママママでいいの? って言ってます」
「ママママ?」
「はい、えっと。もう一人のママのママが、ママママって呼んでって…」
『ママママ?』
もっかい目でうったえてみる。
「…はぁ~い、ママママですよ~」
ハグで答えが返ってきた。
『ママママ~』
「ん~! かわいい!」
「えっと、伝わって?」
「んー、分からないけど。何となく、かな?」
「わぁー、良かったねw」
「一緒に、おいで」
「えっと、えい!」
片手でもう一人もハグ。三人でハグはぐ。
この子は、言葉が話せない代わりに、その言葉に載せられた心を詠むことができて、資質がある人とは会話ができるって話だけど、そんなに特別でも何でもないのかな?
私には資質がないみたいだけど、こんなに慕ってくれるなら、できなくても困らないかも。代わりの方法は、一つじゃない。これからでも、見つけられるはず。
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