第4話 突撃。
バスの乗客はもう殆どいない。この先は終点まで行かない限りは海と工場と大型トラックが並んだ地帯だからだ。平日の夕方にバスで海浜公園に行くアングラーなんてこの辺りにはいないし。
(とか考えてたらガッツリ寝ちゃってたわ…)
15分くらい寝てた筈だが、やはり後輩君はアタシが意中のギャル先輩(不本意な呼び名なんですけど)だと気付いていなかったし、他人に寄り掛かられても気にしないで放っていた。彼の目線は未だ窓の外だけを捉えている。
(只の変わった子なのか…はたまたそう演じてる優男君なのか…初めてのタイプだな)
そこそこモテるし、アタシはアタシを好きになった奴を中々無碍に出来ない。故に付き合った男の数は2桁を優に超えている。
最も、元カレ達が大事にしていたのは『あのギャル先輩と付き合ってる自分のステータス』であって、詰まるところアタシ
(人間そんなもんだし、気にもしてないけどね?)
例え下らない高校生のエゴや承認欲求やステータスの為であっても、男と女が好き合う行為というのはアタシの中では素晴らしき青春の1ページ足り得るのだ。
(この子も、付き合い出したらおっぱい触らせてとかヤらせてとかお猿さんみたいになるのかな?)
好奇心は猫を何とやら…ま、そんなもんよ人生。
『ピンポーン。次、止まります』
女性のアナウンスが次の停留所をロックオンした事を告げる。押したのは隣の後輩君だった。
流石に起き上がり、久しく涎を拭って正面に向き直る。
(シャイな子みたいだし、あんまりグイグイ行って刺激しても可哀そうかも)
そんな事を思いながらも、やはり「一風変わった子でも、男としての格は普通なのか?」というありきたりな好奇心は加速し続ける。
ブレーキが掛かりバスが停車、そして車両真ん中のドアが開き車内に御光が差す。当然、アタシは降りない…本来は。
「発車します。おつかやりっさい」
訛りを感じさせるアナウンスと共に、バスは煙を上げながらアタシの停留所に向けてアタシを置き去りにして旅立っていった。
「え、ベアトリーチェ…?」
バスを勝手に見送ったアタシは、背後の後輩君に向き直る。いつもと違って、後輩君は赤面してはいなかった。ただ、急に小説の世界に迷い込んだ小さい子どもみたいに困った顔を浮かべてアタシに手を伸ばしていた。
「ベアトリーチェって…もしかしてアタシ?」
「あぁ…えっと、違うんですか?」
「確かに目の色青いけど、クォーターの日本人だよ。そんな偉人みたいな名前じゃないな」
アタシは素っ頓狂なリアルに生きてる後輩君の手を取った。頭の中でヨルシカの青春ソングが流れる。
「いこっか」
「へえあ!? ちょ…」
後輩君のムスカ大佐みたいな声は今でもよく憶えてる。そんな彼の手を引いて、アタシは海浜公園目指して走り出した。
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