初めての親子喧嘩
『ハッハハァ!やはりオマエは貧弱な出来損ないだな!俺はまだ傷一つ負ってないぜぇ!』
18階と19階の狭間、右腕を欠損した上に全身切り傷まみれの状態のミートロンリネスが自分の現実を見ないまま僕を煽る。
「……ロンリネスさん、いい加減現実を見てほしいな」
親子喧嘩開始から数分経った頃、僕はミートロンリネスではなくロンリネスさん本人にそう語りかけた。
18階にて魔道具に組み込まれたまま目を閉じるロンリネスさんの眉が、一瞬動いた気がした。
『俺は負けてねぇ!社会にも!現実にも!息子にも!俺は、強いんだ!立派なんだ!』
それから数分後、もはや頭のみになったミートロンリネスが僕に強がりを言いったきた。
確かに、他のミートの名を冠した魔物たちに比べればミートロンリネスは格段に強い。
しかし、その強さはロングネックドラゴンと同じくらいだったため、彼は僕に致命的な傷を負わせることはできなかった。
「……さよなら」
僕はミートロンリネスの首をブレシンガで一刀両断し、魔物としての消滅を確認した。
18階につながる階段に向かおうとした、その直後であった。
『まだ、まだだ!俺はまだ、終わっていない!俺の人生はまだ詰んでいない!俺はまだ逆転できるんだあああああ!』
先ほどよりも若い上に少し現実のロンリネスさんに体格が近くなったミートロンリネスが、部屋を侵食する肉片から生まれてきた。
『そのとおりだ!偉大なロンリネス様の心を苦しめたイドルは、さっさと死んでね!』
「マテリアの……ミート……」
それと同時に、マテリアを模した魔物『ミートマテリア』も僕を罵倒しながら近くの肉片から生まれてきた。
『女に養われければ生きてきないヒモめ!ロンリネス様は自分の足で立ち上がったんだぞ!』
マテリアの姿を模した魔物が、マテリアによく似た声で僕の悪口を言う。
その光景を見た僕の瞳から、水滴が滴る。
『アハハハ!なっさけないなぁ!男のくせに泣くなんて!!帰って弱い男に腰を振るマテリアちゃんのおっぱいでも飲んでなぁ!!』
『ジャキン……!』
ミートロンリネスが煽ったその時、僕は思わずミートマテリアを切り捨てた。
もう我慢できなかった。
これ以上愛する人を侮辱されるのが。
「ふざけるな……この、クソ親父がぁ!」
『あーあー。感情に飲まれて乱心してやがる。なっさけなーい!』
「……孤児院で乱心して暴れたあなたが言えたことじゃないよね、ロンリネス!」
僕は知っていた。
ロンリネスが暗殺未遂の件で逮捕されて釈放された後、孤児院で乱心を起こして暴れたことを。
昔から彼はそうだった。
自分のことは棚上げにして、自分と似たところがある人間を激しく罵倒する。
そうすることでしか、安心を得られない哀れな人間。
それがロンリネス・グレートアイという男であった。
きっと、成人前の僕が嫌いだったのもかつて魔力が使えなかった自分と重ね合わせてしまったのだろう。
『ああ、あっ、ワァーーー!!死ね!死ね!死ねぇ!』
『ザシュウウウウウ!!』
僕は、乱心を起こしながら後先考えず剣を振り回して迫って来るミートロンリネスを、上下真っ二つにする。
今度は上下バラバラになった直後に魔物としての生を終えて消滅した。
僕が階段を飛び降りて18階の床を踏んだとき、17階につながる階段から数十体の同じ外見の魔物が出てきた。
彼らは皆、普段の僕と同じ姿と昔の僕のような気弱そうな表情をしていた。
彼らの魔物としての種族名は、『ミートイドル』であった。
『お前はなぁ、すぐに人間に搾取されて一生を終わる雑魚なんだよ!ホラ、だからこんなにいっぱい居るんだよ!』
いつの間にまた生まれていたミートロンリネスが大量のミートイドルに視線を向けつつ、僕を煽る。
今度のミートロンリネスは、より若い20代くらいの外見年齢とより現実に近い体格を持っていた。
『いけーー!女に養われている雑魚イドルども!』
『『『イッーーーードル!』』』
まるで獣のような掛け声をあげ、数十体のミートイドルが僕めがけてやってくる。
『ブレシンガ、一斉殲滅に適した形になります』
ブレシンガが音声ガイドと共に刃渡り3.5メトールの長い刃物になる。
僕はそれを横に振り、自分を模した雑兵を一斉に切り伏せた。
『クソッ!なんで、なんでオマエはそうやって俺よりも……』
ミートロンリネスがロンリネスさんを背に、これまでは見せなかったような卑屈な表情を一瞬見せる。
『俺は、俺は、騎士になりたい!騎士に、騎士にならない、騎士に!騎士に!騎士にならないと誰にも!誰にも!』
そして、まるで故障した音声を流すタイプの魔道具のような喋り方をミートロンリネスが泣きながらした直後。
『誰にも肯定されず、愛してもらえないんだあああああああああ!』
心の奥底からの叫びと共に、ミートロンリネスの身体から翼のように6本の触手が生え、肉片がますます部屋を侵食していった。
「うぐっ……魔力がどんどん吸われていく」
ヘカトンイドルから抜け出した時点で7割くらい残っていた体内魔力が、一気に3割程度になる。
おそらく、紫の肉片が持つ性質なのだろう。
これは厄介だ。
体内魔力が尽きれば、魔力がまた体内に溜まるまでは肉体変化ができない。
『こうなれば、愛されて肯定されているオマエだけでも、ここで殺してやる!』
そう息巻くミートロンリネスからは、これまでよりも何倍も強い気迫を感じた。
ならば、僕も最大限の力で返り討ちにするだけだ。
「改造身体、六翼、六腕、熾天阿修羅態!」
僕の身体は6本腕と6枚の翼を持った形態『熾天阿修羅態』へと変貌していく。
肉体変化魔術は一度効果が出て身体が変形した後は、その変化の維持に魔力は必要ない。
もちろん、その応用で出した強大な分身であるヘカトンイドルも同様である。
ならば、すべて吸収されないうちにここで一気に変化するのが最善の手。
そう僕は判断したのだ。
『グアアアアアア!!イドルウウウウウ!!』
六本の触手が僕を捕らえようと襲い掛かって来る。
しかし、僕はそれをブレシンガで切り捨て、6枚の翼の機動力で一気にミートロンリネスに距離を詰める。
それから、4本の腕を精神鎮静効果のある毒を注入できる毒針に変え、ミートロンリネスに打ち込む。
そして、大人しくなり始めたミートロンリネスの額に、僕は剣を突き刺した。
「超越神業、オーバーナイト……!」
『アアッ、アガッ!』
しばらくして、ミートロンリネスは消え去った。
しかし、直後にロンリネスさんが組み込まれている装置から肉片があふれ出て、またミートロンリネスが生まれた。
『ボクは……この世界に生まれたくなかった……』
今度のミートロンリネスは、僕と同じくらいの外見年齢と細身の体格を持ち、武器も敵意も全く持っていなかった。
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