最強の生物、理想のロンリネスと遭遇する
「みんな、急に内部に潜む魔物の数が増えている!気を付けて!」
ナイトネス内部に侵入した時、憂眼を生成していた僕は魔物数の急な増加を視認した。
「種族名を教えてください!」
隣にいるロバートさんのリクエストに応え、僕はそれぞれの魔物に付いていた種族名を読み上げる。
「ミートザナミ、ミートコドック、ミートエンマラジャ……」
「その名前、安楽会の幹部連中と同じじゃ……!透視で見たところ、姿まで似ている!」
ハンズさんが謎の魔物についての情報を教えつつ、覚悟を決めたような顔をする。
ハンズさんの年齢的に、安楽会の怖さを実際に知っているからだろう。
そんな中、突如として僕たちがいるフロアに上がっていく魔物がいることに僕は気付いた。
「みんな!ミートゴブリノキオがこっちに来ている!」
次の瞬間、全身が紫の肉塊で構成された鼻の大きめの人間男性を模した魔物が階段を上って表れてきた。
『あざっす~!この度はロンリネス様の牙城に来てくださり感謝っス!』
「邪魔だっ!」
バシュッ!
ミートゴブリノキオが挨拶する間も無く、トトキさんが瞬時に彼を切り伏せた。
「やはり、本物よりは弱いの。同世代の兵士いわく、ゴブリノキオは魔道具で攻撃を3発ほど耐えたのち、凄まじい速さで逃げるのが得意だったらしい」
ハンズさんがゴブリノキオの解説をしているのを聞きながらも、僕たちはロンリネスさんのいる中間層にまで向かうべく、歩みを進めていった。
「アイツ、安楽会第五部隊隊長のエンマラジャにソックリじゃ!」
僕たちが侵入した階層よりも3階下の階にて、僕たちは冠をかぶった男性を模した肉塊の魔物『ミートエンマラジャ』に遭遇した。
『なぜ、ウソを付き不徳を行う者が豊かになるのだ!裁き殺してやる!』
「言動も本物ソックリじゃ!ならばドジョー!大きく円を描くようにブーメランを投げろ!」
「オリャア!」
ハンズさんのとっさの指示でドジョーさんがブーメランを投げる。
『清廉潔白バリア!すべてはロンリネス様のために!』
ドジョーのブーメランが彼の手元に戻る前、ミートエンマラジャがバリアを生成した。
そして、ドジョーのブーメランがそのバリアに刺さって止まった。
「これは、本物も使用していたという清廉潔白バリア!ウソをついた人間にダメージを与える市街地テロ用のバリアじゃ!」
「そんなの俺には関係ねぇ!俺は、自分自身の心に対して正直に向き合い、日々を生きているからな!」
バリアに刺さっていたドジョーのブーメランが再び回転してバリアに穴を開け、彼の手元に戻る。
エンマラジャのバリアを覆うようにバリアが形成され、ドジョーより心の弱かったミートエンマラジャのバリアが破壊された。
なお、瞑想の末に一度に複数のバリアを展開できるようになったらしく、ナイトネスを覆うバリアは展開されたままである。
「本人無許可のパチモンがウソを糾弾するんじゃないよ!」
バリア展開後、すぐさまアリーチェさんがミートエンマラジャを蹴り上げ、致命的ダメージを与えてそれを消滅させた。
「第一部隊のロッシュ、第二部隊のエーチ、第三部隊のザナミ……部隊長3人一気に来るとは、大盤振る舞いじゃないのか?」
それから更に5回階段を下りた僕たちの前に、ロッシュを含めた三人のミート部隊長が現れた。
『ヒャハハハ!オレとロンリネス様をブワーっと楽しませてくれよ!』
『麻呂はさっさと寝床で寝たいのじゃが、ロンリネス様のためにがんばるかの』
『ロンリネス様は素晴らしい方です。彼を傷つける者は許しません』
ロッシュ、エーチと思われる烏帽子の男、ザナミと思われる蠅の仮面をつけたエルフを模した3体の魔物。
「これは厄介そうだな……私とロバート、アリーチェで対処するからイドルやハンズ、ドジョーは先に行け!後続部隊のためにもな!」
「押忍!」
「了解じゃ」
「うん、わかった」
僕たちはトトキさんたちの強さを信じ、階段を下りてさらに下の階層へと向かっていった。
『ギャアアアアアアア!!』
「いまの叫び声、ミートロッシュの断末魔ですよね……」
「さっきはミートザナミやミートエーチの断末魔と思われる声も聞こえたし、多分もうすぐしたらあの3人も合流するじゃろ」
そんな会話をしつつ、僕たちは20を表す数字と切断された遺伝子のモニュメントがあるフロアまで降りてきた。
「あのシンボルがあるということは、やはりこの建造物は安楽会の本部『ハピネスタワー』のようじゃな」
「ハピネスタワー……」
僕は、その建物の名前を騎士団入団試験対策の歴史分野で聞いたことがある。
スルトルス帝国の首都が滅びた後に建造され、最上部に高出力の遠距離ビームを放てる砲台型魔道具やバリアを展開できる魔道具があったのだという。
もしかしたら、頭部のあれらの機能もそういった魔道具由来のものなのかもしれない。
「……ここから2つ下の階、18階にロンリネスと思われる人間と彼を取り込んでいる魔道具がある。そこを目指すぞ」
「3体の処理が終わったので、トトキさんの指示で合流しました!」
ハンズさんが僕たちに目的を提示したとき、爆速で階段を降りてきたロバートが合流した。
「じゃあ、18階まで行くぜ!!」
ドジョーが下の階に行く決意をした、その時。
『ピンポンパンポーン』
ジョヤさんが鳴らす鐘の音とは違う鐘の音が天井から鳴り響いた。
『忌み子のお知らせです、金髪、青眼、一人称が僕、今年で18歳の癖に泣き虫なイドル君、イドル・グレートアイ君をお捜しです』
まるで迷子の子を探すときのような悪趣味なアナウンスが、マテリアそっくりの声で流れてくる。
『偉大で存在しているだけで素晴らしい保護者のロンリネス様は、至急彼のもとに来てください』
そのアナウンスが終わった瞬間、部屋の所々を侵食していた肉塊から3体の魔物が生まれてきた。
1体目は大柄で騎士団員のような装備をした大男を模していた。
2体目は恰幅が良い上に筋肉質で騎士団員のような装備をした大男を模していた。
3体目は騎士団員のような装備の上からローブをまとった女性を模していた。
僕は憂眼で種族名を見るよりも早く、その魔物のモデルとなった人物がわかってしまった。
3体の魔物は、グライフ3大英雄であるドレドノート、バジーク、ガートリンを模していたのだ。
『ロンリネス様は最高だ』
『ロンリネス様、最強!』
『ロンリネス様は偉大なんです!』
三大英雄を模した魔物が、皆ロンリネスさんを讃える言葉をうつろな目で唱える中、僕たちに襲い掛かって来る。
「ヴァアアアアアアアッ!」
そんな中、ロバートは英雄を模した彼を恐れずに絶叫魔術を発動する。
『アッガガ!』
『ガガガ……』
『ガッガァ……』
どうやら先ほどの絶叫にはジョヤさんの聖魔鐘と似た効果があったらしく、ミート三大英雄が感電したかのように固まる。
「偽英雄たちは俺たち3人と後続のアリーチェさん、トトキさんがなんとかします!イドルさんは18階に行ってください!」
「……わかった!」
僕は振り向かずにその場を去り、18階に行くべく階段を降りていった。
19階は一部吹き抜けになっており、そこには18階につながる階段もあった。
そして、18につながる階段の先には、ロンリネスさんが組み込まれている魔道具と、それを守る魔物が1体いた。
「……あれが、ミートロンリネス」
その魔物はロンリネスを模しており、種族名もミートロンリネスだった。
しかし、本物より健康的な体つきをしており、服装も騎士団員の標準装備であった。
そして、何より表情が自信に満ち溢れていた。
その姿はまるで、ロンリネスさん自身にとっての理想の自分のような姿であった。
「第2の破壊神セイタンめ!期待外れの育ち方で俺の心を破壊した罰、ここで受けてもらおう!」
ミートロンリネスが剣を構える。
「……ロンリネスさんに明確に逆らうのは、多分これが初めてかな」
僕も、かつて愛する人に作ってもらった剣、ブレシンガを鞘から抜いて構える。
19階と18階の狭間にて、僕とロンリネスさんによる初めての親子喧嘩が始まろうとしていた。
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