最強の生物たちVS最悪の生物
『イドルゥーー!イドルゥーー!ドウシテオレ!ミジメナンダッーー!』
ナイトネスが悲痛な叫びのような鳴き声を上げつつ、ヘカトンイドルに向かってビルで形成された剛腕を振るった。
「おっと!」
ヘカトンイドルは四枚の翼を使い、全長30メトールとは思えないような軽い身のこなしで剛腕を避けた。
「お義父さん、息子に暴力を振るのは、良くないと思う!」
ヘカトンイドルの中にある操縦席を模した場所にて、マテリアはそう言いつつヘカトンイドルを通じて金属操作魔術を発動させた。
『ドゴォ!』
次の瞬間、ビルの剛腕はナイトネス自身を殴った。
昔、聞いたことがある。
スルトルス帝国の高層建築はほぼすべて鉄の骨組みで出てきているのだと。
おそらく、マテリアは魔術でナイトネスの腕を形成するビルの鉄骨を操作することで、先ほどの現象を引き起こしたのだろう。
『イタイ、イタイ、イタイヨオオオオ!!オレヲ、イジメルナッーーー!!』
先ほどの痛みが身に染みたのか、ナイトネスは吠えながら口を開き、エネルギーを口元に収束し始める。
おそらく、ビームを放とうとしているのだろう。
「させないっ!」
僕はヘカトンイドルの額に憂眼を生成した後、左腕にミサイルの要領で巨大トウガラシを生やした。
「憂眼魔術、
そして、交差髪の効力で速度と威力をあげつつ、トウガラシをナイトネスの口の中に突っ込ませた。
『カライ!ツライ!ドウシテオレ、シアワセジャナインダッーーーー!』
トウガラシミサイルはナイトネスの口内に無事命中し、ビームの放射は未遂に終わった。
「そろそろ本格的に、攻めようかな!」
操縦席でマテリアが息巻くと、次の瞬間にはヘカトンイドルの周囲に尖った鉛の化塊が数個形成されていた。
「カルキノスキャノン!」
『ズドンッ!』
もはや、ミサイルレベルの大きさと威力になったカルキノスキャノンがナイトネスの頭部を貫く。
『……イヨォ!イタイヨォ!イタイヨォーーーー!』
しかし、ナイトネスは貫かれてできた穴を少し雑に治しつつ、痛みに対して叫びをあげる。
「再生するんだ……だったら、こっちも全力で行くしかない!」
「そうだねイドル!」
僕は肉体変化魔術を、マテリアは金属操作魔術をヘカトンイドル越しに発動する。
生身の両腕の爪が長くなり、金属の両腕の先が刃物になった。
そして、ヘカトンイドルは4つの腕でひたすらにナイトネスの頭部を攻め始めた。
『ギャリイイイイ!』
『ジャキンッ!』
『ギャリイイイ!』
『ジャキンッ!』
爪と刃物の腕がナイトネスを交互に攻撃する。
『ンガッ!ガガッ!ドウシテ……タンジョウビ……』
やがて、頭部の再生が遅くなり、再生後の頭部の質も目に見えて劣化しているのが分かるようになってきた。
『オレノ!タンジョウビヲ!イワエッーーー!』
しかし、その程度でひるむほどナイトネスの格は低くなかった。
『グジュジュッ!』
首あたりから紫の輝く肉片で構成された触手を2本伸ばし、ヘカトンイドルを絡めとった。
『ボシュッ!』
『ジャアアアアッーーーー!』
その直後だった。
触手の根本がそれぞれ、青い火球とあらゆるものを貫きそうな水流カッターで破壊された。
ヘカトンイドルを縛る触手は脱力し、直後に乾燥して消滅していった。
「助太刀に来たでござる!」
「わ、わたしも協力します!」
上空を見ると、火球になって飛び回るホムスビさんと空中で遊泳しているディフモさんがいた。
「ありがとうございます!」
「ホムスビ、ディフモ、この恩は無駄にしないよ!」
僕たちは二人の賢人に感謝しつつ、とどめを刺すべくキュクロスを今よりさらに上空に飛ばしていった。
それから、僕はヘカトンイドルに針の生えた尻尾を生やし、マテリアはブレシンガと似た形の剣をヘカトンイドルに与えた。
「じゃ、剣も作ったし行こうか!」
「うん!」
そして、剣をナイトネスの頭部に差し込むべく、僕たちは思いきり急下降した。
「「超越神業、メタリックオーバーナイト!!」」
ブレシンガ似の剣がナイトネスの頭に刺さり、ヘカトンイドルの尻尾の針と鋼鉄の腕から生えた鎖鎌もナイトネスの首に刺さる。
『ギュルルルルルルルルル!』
そして、ブレシンガ似の剣が激しく何度も刃先の形を変え、ナイトネスの再生を片っ端から阻害していく。
『アアアアア!オレヲミトメロオオオオオオ!』
『ドガバーーーン!!』
あまりにも短時間のうちに負荷をかけすぎたことにより、ナイトネスの頭部が破裂した。
「どうやら、頭部を破壊したことで常時発動していた再生魔術が止まったみたいだね。……動きも止まっている」
マテリアがヘカトンイドル越しにナイトネスの変化を認識する。
「でも、よく見たらかなり遅いペースだけど頭部の再生自体はまだ行われている……早くみんなを内部に入らせよう」
「そうだね!」
僕たちはナイトネスの首元の肉を鋼鉄の腕で引き裂き、内部の建物部分を露出させ、入口となる穴も等身大時のカルキノスで作った。
なお、鋼鉄の腕を使っているのは、生身の方の腕を使うと紫の肉片によって保有魔力を吸収されるリスクがあるからだ。
『バシュウウウウウ!』
楽土島からナイトネス内部への入口に向かう道が、スギカフカの伸ばした太いツタによって形成された。
「頭部破壊と通路確保を確認!内部侵入プロセス開始!内部侵入班は侵入せよ!外部監視班は引き続き外部に残ってナイトネスの監視を続けろ!」
上空からトトキさんの指示が聞こえる。
僕は内部侵入班、マテリアは外部監視である。
そろそろ別々に行動しないといけないようだ。
「じゃあマテリア、ヘカトンイドルは残しておくからナイトネスの方の抑え込みは頼んだよ」
ヘカトンイドルは僕の本体である賢人石が遠くにある状態でも分身として保持され、マテリア単体でも動かせるようになっている。
マテリアの体格をベースに作ったのも、マテリアのみで動かすときに動きやすいようにするためである。
「了解!……じゃ、イドルも頑張ってきてね」
「うん、頑張る」
僕はツタを通ってナイトネス内部に向かっているみんなと合流するべく、操縦席となっているヘカトンイドルの器官から離脱した。
「父さん、今行くよ……」
そして、内部侵入班の僕たちはロンリネスのもとに向かうべく、ナイトネスの中にあるハピネスタワー上層部に侵入した。
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