イドルと楽土島と実質的な実の親

「皆の者、これから我々ナイトネス討伐隊はこの空飛ぶ島『楽土島』にて、スルトルス帝国跡地内にいるナイトネスの元に向かう……覚悟はいいか!」


「「「うおおおおおお!!」」」


 ロッシュが討伐されてからわずか4日後、僕たちが住む王都イグレオにロッシュの比ではない脅威『ナイトネス』が迫ろうとしていた。


 前代未聞の大きさと強さを誇る脅威に対抗すべく、世界中の様々な人々がナイトネス討伐のためにイグレオに集まり『ナイトネス討伐隊』が結成された。


 僕やマテリアも個人単位で参戦を要請されたため、期待に応えて王都を救うべく参戦することにした。


 なお、トトキさんいわく、集まったメンバーの中にはマテリアを含めた全ての賢人がいるらしい。


 そして深夜4時の今、ナイトネス討伐隊は賢人オリジーナが用意してくれた『楽土島』に乗り込み、標的に奇襲をかけようとしていた。




「討伐隊の者たちよ。我はこの楽土島を運転する者、オリジーナである。そなた達の検討を祈っておる。では、発進……!」


 討伐隊108名全員が乗り込んだ後、賢人オリジーナによって楽土島は王都北の平原からゆっくりと浮き上がり始めた。


 楽土島には大地の内部に数百人ほどが収容できるスペースがあり、まるで空飛ぶ巨大船のようであった。


 ディフモさん曰く、崩壊前のスルトルス帝国にはこういう飛行船がいくつもあったらしい。


「さてと、我は運転に適した部屋に戻るが……イドル、ちょっとだけ我についてきてくれないか」


「は、はい!」


 僕はオリジーナさんに急に指名され、すこし驚きながらも返事をしてついていった。


 


「実は、我がそなたの賢人石を作った。それゆえ、我はそなたの実質的な血縁上の親である」


 運転に適した見晴らしのいい部屋にて、僕はオリジーナさんから唐突に血縁関係を明かされた。


「18年前、我は大量の宝石を対価としてロンリネスに賢人石を渡した。そして、そなたが生まれたのだ」


「やはり、そうでしたか……」


 以前、僕の賢人石を作ったのは誰なのかという話をマテリアと共にしたことがある。


 マテリアは18年前はただの一般的な魔力保有量の新生児だったため理論上ありえない。


 ホムスビさんとディフモさんは人間社会に肯定的なので、ホムンクルスによる人類滅亡のリスクを考えて作ることはない。


 スギカフカさんはそもそも人類に味方しない。


 その結果、僕の賢人石を作ったのは消去法でオリジーナさんの可能性が高いと結論付けたのだ。


「……もしも、そなたがこの世界に生まれたことを憎んでいるのなら、この戦いが終わった後で我を殺してもいい。それが、我のけじめなのだ」


 オリジーナさんが悲壮な瞳で僕を見る。


「我は大地に刻まれた記憶を魔術で見ることができる。離陸前、そなたが育った家の大地の記憶をみた。……本当にすまない」


 おそらく、オリジーナさんは僕がロンリネスさんから心身共に虐待を受けていた場面を大地を通じてみてしまったのだろう。


「勝手に自己満足の美学に酔いしれて、そなたを間接的に産み落としてしまった!……子供を不幸にする親の醜悪さを、我は知っていたはずなのに」


 マテリアから聞いたことがある。


 オリジーナさんは出生時には死んでいた双子の妹がおり、出生直後に妹の両腕を親のエゴで移植されたことを。


 そして、4本腕だったせいで人々から蔑まれた挙句、憎しみのあまり親を殺したことを。


 彼女が人類に対して中立なのも、それが原因で人間不信になっているからだと。


「……オリジーナさん、僕はこの世界に生まれてしまったことを、憎んではいません。もちろん、あなたのことも」


 それは、僕のまぎれもない本音であった。


 確かに、辛いことも今までいっぱいあった。


 でも、楽しいこともいっぱいあった。


 それに、愛しい人と共に生きている今が、とても幸せだったのだ。


 だから、僕は自分がこの世界に生まれてしまったことを、決して後悔はしていない。


「……し、しかし我の身勝手さがそなたに迷惑をかけたのは事実なのだ。そのことに関して、何か罪滅ぼしがしたいのだ」


「でしたら、来月の結婚式に来てくれませんか」


「……来月の結婚式への参加。本当に……そんなことでいいのか?もっと、欲張ってもいいのだぞ。ダイヤ100キーログラムとか」


「ダイヤ100キーログラムより大事な人がすぐ側にいてくれるので、大丈夫です」


「そうか……立派な人間になったのお。……ロンリネスと違って。まあ、アイツは図体だけはそなたより大きくなっているがな」


 そう言いつつ、オリジーナさんが見つめた方向の遠方には、紫色の巨大なナメクジのような魔物がいた。


「……あれが、ナイトネス」

 

「そうだ。別名、コンプレックスに溺れた男の末路といったころか。……そろそろ、全員集合を意味する鐘がなるだろう」


『ゴオーーン!ゴオーーン!』


 ジョヤが楽土島全体に響き渡るような鐘の音を鳴らす。


 僕とオリジーナさんは、集合場所である楽土島の地上部分に行くべく、階段を上がり始めた。

 



 いよいよ、ナイトネスの討伐が始まろうとしていた。

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