近づいてくる人類総力戦の時

 ナイトネスが発生した日の23時、グライフ王国国家騎士団本部にて『ナイトネス対策臨時部隊』が結成され、会議を始めた。




「予測の結果、このままナイトネスの進行を許せば、三日後の夜には王都イグレオが潰れている可能性が、極めて高い!」


 数十人で使えるタイプの空間転移魔道具で捜索部隊ごと帰還したシャンクが、トトキ臨時団長に意見を言う。


「疑問がある。ナイトネスの推定進行速度は、徒歩と同じ5キロのはず。ナイトネスが最初にいた場所からここに行くには徒歩1週間なのだが」


「アイツの足は、ナメクジみたいになっているんや……だから、山とか川とか無視して徒歩よりもスムーズにここまで進めるんや……!」


 シャンクの予測に疑問を呈するトトキに対し、先ほどイグレオに到着したスギカフカが予測の理由を補完する。


「なるほど。そうなれば、まだナイトネスが無人のスルトルス帝国跡地にいる時点で仕留めるしかないな。」


「しかし、賢人二人がかりでも魔力を吸われて倒せなかったバケモノを、どうやって倒すんですか?!」


 少し焦り気味のロバートがトトキに意見する。


 ロバートの言う通り、オリジーナとスギカフカの二人がかりでも、ナイトネスを倒すことはできなかった。


 どうやら、黄金の頭部が身体の傷を常時癒しているらしく、いくら攻撃しても再生したのだ。


 しかも、頭部にはかなり強固なバリアが張ってあったのだ。


 そして、頭部が弱点だと気付いた時には体内魔力をかなり吸収されており、撤退することしかできなかったのだという。


「人類の総力戦。それがナイトネスを止められる唯一の手段だろう」


 トトキが出した結論は、あまりにも突飛なものであった。


 しかし、これしか止める手段がないほどに、ナイトネスは強大な魔物だったのだ。


 1時間後、グライフ王国の女王によって、自国を含めた全世界の国と地域と個人にナイトネス討伐の協力要請が送られた。


 


「ナイトネス討伐には、ワシも行こう」

 

 グライフ王国から見て南にあるナタリス教皇国にて、ハンズ・アルムは討伐の参加要員に名乗りをあげた。


「しかし、あなたはもう参戦するにはお年が」


 ナタリス教の教皇、フィンガスがハンズの志願を止めようとする。


「肉体年齢は魔術のおかげでまだ全盛期じゃ。それに、王都には生意気でかわいくてワシより強い弟子がいるんじゃ」


「……わかりました。志願を認めましょう。……頑張ってください」


「お土産いっぱい買ってくるからな」


 こうして、ハンズをはじめとしたナタリス教皇国の参戦志願者たちは純白のグリフォンに乗ってグライフ王国へと向かっていった。




「再び、中央大陸に行くときが来たでござるか……」


 ホムスビは東の大陸にある和風な自宅にて、ナイトネス討伐の協力要請を受け取った。


 彼はすぐに装備を整え、自宅の庭に出た。


「では、今度は時差ボケしないようにしつつ、飛ぶでござるか」


 東の大陸から、青い火球が花火を伴って飛び立った。


 


「ええっ……わ、私も、ナイトネス討伐に行くんですか……?」


「あなたは賢人なんですから、行かないとダメでしょう」


 リルフェン共和国の首都マンドーベルにて、街中をぶらついていたディフモに、リンゼツ大統領が協力要請の件を伝える。

 

「しかし、王都イグレオがナイトネスに潰されたら、もうあそこの美味しいビールが飲めなくなるんですよ」


「……や、やります!私、ナイトネス討伐します!空を泳いで行ってきます」


 リルフェン共和国の参戦志願者が出発するよりも早く、ディフモは魔術で空を泳いでグライフ王国へと向かっていった。


 


「お前ら、心の強さが試される時が来た。前代未聞のバケモノが王都イグレオに迫ってくる」


 王都にある刑務所の牢の中で瞑想を行う模範囚ドジョーに向かい、看守が討伐への参加要請の件を伝える。


「そうか……!強敵との戦いは心を強くする糧になる!参戦、するぜ!!」


「わかった。なら、さっそく出ろ。準備するぞ」


「俺の分まで頑張れよな……!」


 ドジョーの隣の牢にいるコクドーが少しボリュームを抑えつつ応援する。


「何を言っているんだコクドー。お前も仮釈放しろと命令が出ている」


「……え?国に逆らい、夢破れて少しふてくされている、この俺が……?」


「トトキ臨時団長がオマエの剣術と憂眼を高く評価しているようだ」


「……押忍オス!」


 その後、2人の主人が討伐に参戦すべく、看守に連れられて刑務所を出た。




「ジョヤ……トトキ臨時団長いわく、どうやらキミの鐘音魔術がバケモノ討伐に必要みたいなんです……!」


 ナイトネスが現れた日の翌朝、ロバートはドドサベル村に向かって自分のいとこでもあるジョヤ村長に伝言を伝えた。


「でも、俺はジョヤを戦闘に巻き込みたくはな」


「私、やります!」

 ゴーン!


ジョヤが鐘の音を鳴らしつつ、ロバートの発言を遮ってまで参加を表明する。


「私がバケモノ退治に協力したことを、観光資源にします!」


「なるほど……!じゃあ、親戚同士一緒に頑張りましょう!!」


「はい!」

 ゴンゴーン!


 こうして、ロバートはジョヤを肩車し、全速力で王都へと戻っていった。




 前代未聞のバケモノを止めるべく、世界中の人々が王都グライフに集まろうとしていた。

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