最悪の生物の行進と、最悪の組織の終焉
「なんやこれ……光合成できない生物の中でも、トップクラスに醜悪やろ……!」
「かつて、賢人石をねだった男の末路がこれとはなあ……」
夜9時ごろ、空飛ぶ全長300メトールの大地の上で、二人の人間がナイトネスを観察していた。
ナイトネスを醜悪だと評した壮年男性のような外見をした男の名はスギカフカ。
賢人石というワードを使い、空飛ぶ大地を魔術で動かしている4本腕の女の名はオリジーナ。
共に、賢人であった。
数時間前、オリジーナはここ数十年ほど拠点にしているスルトルス帝国内の大穴にて、大地が小規模かつ断続的に震えていることに気付いた。
そして、空飛ぶ大地『
その道中、同じく大気中の魔力の流れに違和感を感じたスギカフカも、勝手にツタを伸ばして楽土島に乗り込んできたのだ。
『オレハ!コノヨニ!ウマレタクナカッターーー!!』
まるで人の言葉のようなナイトネスの雄たけびが大気中に響き渡る。
「まったく、我があげた賢人石でホムンクルスを作ったり、いつの間にか変な生き物になったりと、そなたはトラブルメーカーだのう、ロンリネス」
オリジーナは雄たけびから、ナイトネスがロンリネスの成れの果てであることを察しつつ、彼と取引したときのことを思い出した。
18年前、ロンリネスは養子を10人貰って養えるくらいの価値がある大量の宝石と引き換えに、賢人石を作って渡すようオリジーナに交渉した。
オリジーナはその取引に応じ、賢人石を作り上げて彼に渡した。
そして、その数週間後にイドルが生まれたのだ。
「で、オリジーナはこのデカい四足歩行のナメクジみたいな魔物をどうするつもりなんや?」
「我は大地の味方。無償で他人のために動くのは大地に危機が及ぶ時のみだ」
「なら、何もせずにこのまま大穴に帰るんやな」
「いや、このナメクジは大地に危機をもたらす。早急に討伐せねばならない」
オリジーナはそう言いつつ、ナイトネスが通った後の大地を険しい表情で凝視する。
「彼が通った大地をよく見るのだ。ただでさえもともとマナ不足な大地が、さらにマナを吸い取られて遺骨よりも真っ白になっておる」
「つまり、何が言いたいんや」
「このナメクジは、周囲のあらゆる物から魔力を吸い取っている可能性が非常に高いのだ」
「……なるほどな。たしかに、これはあかんなぁー!!アイツは最悪の生物やなぁーー!!」
スギカフカはナイトネス通過後にマナを吸い取られ、全ての樹が死に絶えた森林を脳内に想像し、ナイトネスに怒りを抱いた。
「なあオリジーナ、今からあのクソデカナメクジに、一発カチコミかけてみんか?」
「良い提案だのう。久々に好戦的なそなたとの共闘、楽しみにしておるぞ」
こうして、賢人同士の共闘が始まろうとしていた。
「イテテ……」
その数十分前、ナイトネスの体内にて、ロンリネスと魔道具融合時の衝撃で気を失っていたザナミが意識を取り戻した。
彼女たちがいたハピネスタワーはナイトネスの中心部になっていたのだ。
「……ゴブリノキオさん!?」
目覚めて間もない彼女の視界に映ったのは、意識を失ったまま部屋に横たわるゴブリノキオだった。
「しっかり、しっかりしてください!」
ザナミは自分たちがナイトネス内部にいることを知らないまま、ゴブリノキオを起こそうとした。
しかし、当分は起きないことを悟ったザナミは、彼を呼吸しやすい仰向けの状態にした後、まわりを観察し始めた。
そして、異常な事態が起きていることにようやく気付いたのだ。
なぜか部屋から無くなっているカムバックナイト。
部屋の各所を侵食する紫色の肉片。
紫色の肉片しか見えない窓。
常時かすかに揺れ続けている建物。
どう考えても平常とは程遠い状態であった。
「……ん?」
そんな中、ゴブリノキオが目覚める。
「ノキオさん!目覚めたのですね!さあ、早くここを」
「キミは誰?」
「えっ……」
ザナミは、仮面越しにでもわかるほど動揺した。
「私ですよ……安楽会第三部隊の隊長、蛆蠅のザナミですよ……タイムリープ魔術で一緒に戻ろうとした」
「安楽会……?なにそれ……タイムリープ魔術?……知らない単語だ」
「そんな、そんな……!イヤッ!イヤアアアア!!」
ザナミは悟ってしまった。
ゴブリノキオの記憶が、ロンリネスと装置の融合時の衝撃ですべて吹っ飛んでしまったことを。
ザナミは悟ってしまった。
もうタイムリープ魔術を発動することはできず、安楽会の再興は不可能であることを。
『悪しき安楽会幹部っ!立派で偉大なナイトこと、このミートロンリネス様が討ち取ってやるぅ!』
そして、絶望するザナミを討ち取るべく、彼女の背後にとある魔物が現れた。
その魔物は、紫の肉片がロンリネスの形を模したような存在、ミートロンリネスであった。
『ザシュッ!』
その後、スギカフカとオリジーナはナイトネスとの戦闘時にナイトネスの表皮に浮き出たザナミとゴブリノキオの遺体を回収。
自分たちだけでナイトネスの討伐は不可能と悟った2人は撤退し、楽土島で王都グライフを目指すことにした。
こうして、安楽会の主要メンバーは全滅したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます