ロンリネス晩年編

ロンリネス、ナイトになる

「ここが、スルトルス帝国の首都ネアンデルの跡地、あそこの少し新しい高層の建物が、安楽会本部『ハピネスタワー』だった廃墟っス」


「……これで、時を戻せるのか」


 数日前よりも明らかに弱ってやつれているロンリネスが、前よりさらにうつろになった瞳でそう答えた。


 ロンリネスがソーセキンを手にかけた夜から二日後の夕方、ザナミとゴブリノキオはロンリネスを連れて安楽会本部だった建物がある場所に帰ることができた。


 ゴブリノキオはそこまで遠くない廃墟に逃げていたため、あれからすぐに二人と合流できたのだ。


 


「これが、時を戻せる魔道具か……細かいところの接合が甘いな……」


 ロンリネスがハピネスタワー内部にある全長6メトールのカムバックナイトを見て最初に発した一言は、あまりにも鑑定士らしいものであった。


「まあ、既存の魔道具や自作の魔道具をくっつけまくって作った品なので、けっこう接合は甘いんスよね……オイラあんまり魔道具の知識ないし……」


 製作者であるゴブリノキオが言い訳交じりにそう答えた。


「……装置起動の成功率を上げるためにも、かつて鑑定士だった私が少しだけ組みなおしてもいいか。1時間足らずで終わる」


「いいっスよ!正直、あんまり出来に自信ないんで助かります!」

 

 そう言ってゴブリノキオは装置の微調整をロンリネスに頼んでしまった。


 それが自分の首を絞めることになるとも知らずに。


 


「さてと、完了した……これで大丈夫だろ」


 日が完全に沈む数分前、ロンリネスは約一時間にわたる微調整を終えた。

 

「じゃあ早速、乗り込んじゃおー!」


 調整が完了するなり、ゴブリノキオが装置の中にある椅子に座った。


「では、本格的に組み込みます」


 ザナミがノキオに1週間飲まず食わずでも生きるための点滴をはじめ、さまざまなものを刺し、ノキオをどんどん装置に組み込んでいった。


「ロンリネスも今のうちに乗り込んどいて~」


 そう言われた直後にロンリネスも彼にある席に座った。


 そして、ゴブリノキオの組み込みが終わった。


 彼は組み込まれたとたん、これまでの疲れからか眠ってしまった。


「では、あなたも組み込みます」


 ザナミはロンリネスにも点滴等の各種組み込み装置を刺し、彼を部品として装置に組み込んでいった。


「組み込み、完了いたしました。では、装置の起動をお願いします」


 その言葉を聞き、寝ていたゴブリノキオが起きる。


「わかった。じゃあ、やる」


 ザナミはあきらかにいつもよりテンションの低いノキオに少し違和感を覚えながらも、装置が起動し始める様子を見届けた。


「ここから一週間ですか……暇だし35年前に戻った時にすることでも考えましょうかね」


 そう言いつつ、ザナミはカムバックナイトのある部屋から出ていった。




「土壇場の改造だが、なんとか成功した……」


 ザナミがいなくなった後、あきらかに本人とは違う口調とテンションで喋るゴブリノキオ。


「ひとまず、俺の精神とアイツの魔術をリンクさせる部品を組み替えて、ゴブリノキオの身体の主導権を握ってやったぜ……」


 ロンリネスはタイムリープ魔術の記憶保持対象がゴブリノキオとザナミのみであることには早々に気付いてた。


 そのため、ノキオの身体を乗っ取れるように装置を改造し、そこから記憶保持の対象を自分のみに変更する作戦を立てた。


 そして、それはめでたく成功したのであった。


「これで、これでようやく騎士になれるチャンスが巡って来る……ようやく騎士になれる!!」


 ノキオの身体でそうつぶやいたとき、ふと彼の心の中にとある疑問が浮かんできた。


『なんで俺は、騎士になりたかったんだ?』


しかし、答えを考えようとしたその時、装置に致命的なエラーが起きてしまった。


『ヴァアアアアアアア……!』


 まるで角笛のような警告音がカムバックナイトから流れ始める。


『緊、急、エラー。緊、急、エラー。生体部品と、魔道具の、致命的な融合を、検知』


 独特な喋り方のエラー音声を聞き、ロンリネスは何が起きてしまったか即座に察知してしまった。


 30年近く違法な魔道具を身体に入れていたロンリネスは、肉体と魔道具の相性が良くなりすぎていたのだ。


「何が、何が起きているのですか!」


 警告音を聞いてザナミが部屋に戻ってくる。


 しかし、ロンリネスはそれに対して返答できなかった。


 身体が魔道具と融合し始めると同時に、意識も遠ざかりはじめたからである。


 装置の各部に取り付けられたランプが赤く光り、警告音もブザーも鳴りやまなくなる。


 もしもこのような事態が起きた場合、本来ならゴブリノキオの席にある緊急停止スイッチを押せばすぐに装置を止めらた。


 しかし、ノキオはロンリネスの調整のせいで意識を封じられてしまったため、それを押すことができなかった。


 その結果、代わりにザナミがスイッチを押したときには、すでに手遅れな状況になっていた。


「止まれ!止まれ!止まってください!なんで!なんで!!」


 ボタンをいくら押しても装置は停止せず、装置の各部から紫色で少しキラキラしている肉片があふれ出し始める。


 装置全体が、別のへと変わる中、ロンリネスはようやく疑問の答えにたどり着いた。


(俺は、ただ、誰かに存在を肯定されたかっただけだったんだ……)


 その直後、彼の意識は奥底に沈んでいった。




 数時間後、安楽会支部跡にてソーセキンの遺体を発見した騎士団の団長捜索臨時部隊は、別の存在も発見することになった。


 そして、臨時部隊のリーダーである騎士団員シャンクは、2つの報告を副団長にするべく、テレパシー用魔道具を口に当て喋り始めた。


「応答、応答。こちら、団長捜索臨時部隊リーダー、シャンク・デリバ。団長ソーセキンの遺体を発見。死因は他殺と推定」


『そうか……残念だ』


「もう一つ重大な報告あり。謎の巨大魔物、100キロメトール先の首都ネアンデル跡地付近にて確認。現在南へと推定時速5キロメトールで接近中」


『詳細を頼む』


「全高150メトールほど、表皮は紫色で星空のようにきらめく肉片をベースに建造物の残骸多数。長い首と満月のように輝く頭部あり」


「頭部の外見は、現在捜索中のロンリネス・グレートアイに酷似。仮名の命名、おねがいします」


『了解した。ロンリネスと夜空に似た、その魔物の名は仮に「ナイトネス」としよう』


「了解しました。」


 ロンリネスは騎士にはなれなかったが、ナイトになることはできた。

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