ロンリネス、部品として仕上がってくる

「よく見とけよロンリネス。これが安楽会処刑シーン集第18弾だ」


(やめろおおおお!!もう、もうそんなグロい映像見たくないいいい!)


 安楽会本部までの道中にあった支部の跡地にて、コドックは脳内のロンリネスと共に魔道具を使って映し出される凄惨なシーンを見続けていた。


『ぎゃああああ!!もう、もう二度と給料未払いなんて、しないからあああああ!!痛いっ痛いよおおおおお!!ああああああ!!』


「ああ、いつ見ても富裕層がシュレッダーにかけられて死ぬシーンはいいですね……」


 コドックの左隣で座って映像を見ていたザナミが少し興奮した艶やかな声で人が死ぬシーンを讃える。


「人を命がけで働かせて自分は贅沢しているクソ野郎が死ぬシーン、最高っス!」


 コドックの右隣で映像を見ていたゴブリノキオもワクワクした表情で、凄惨極まりない映像を讃える。


(なんで、なんでお前らはこんな映像で楽しめるんだよ……)


「オイオイ冗談はよせよ、間接殺人赤ちゃん。オマエだってザナミに頼んで殺してもらったじゃないか。自分のパパとママをな」


「ハエ型魔物を使ってあなたの実家を燃すの、楽しかったですよ。悲鳴が1キロメトール先まで聞こえてきて」


 実行犯であるザナミがロンリネスの精神をさらに追い詰める。


(あ、ああ、あああああ、あああっ!!)


 ロンリネスはただ一度の例外を除いて、人が死ぬ場面を直接見たことがなかった。


 そのため、人が死ぬ場面に耐性がなく、虐殺シーンの映像を見せられることはもはや生き地獄だったのだ。


 憎き両親を暗殺依頼で殺し、残った身内との縁も自ら切った彼は家族を看取ったことがなかった。


 冒険には出かけず、保険金で建てた店に籠って冒険から持ち帰られた物品を鑑定していた彼は他人の死に立ち会うこともなかった。


 その結果、人の死に直接触れていなかったのだ。


 双子の兄、フレンディスが死んで以降は。


 


 ロンリネスが無力体質で生まれた原因。


 それは、一卵性双生児で生まれてしまったことであった。


 魔力を貯める遺伝子が兄の方にすべて集中してしまった結果、ロンリネスは無力体質として生まれてきたのだ。


 彼の生家であるグレートアイ家は代々魔術を用いたヒヨコの性別鑑定を家業としていたため、魔術が使えないロンリネスは疎まれ、フレンディスばかり優遇された。


 誰からも存在を肯定されず生きていた7歳のある日、ロンリネスの目の前でフレンディスが死んだ。


 死因は流行り病の重症化であった。


 葬式の日、両親や親戚一同はフレンディスの死を悲しんだ。


 7歳のロンリネスは思った。


 もしも自分が死んだら、みんなは兄の時と同じくらい悲しんでくれるのだろうか。


 きっと悲しんでくれない。


 それどこか、笑って喜ぶだろう。


 そう確信したロンリネスはその日から自分を勝手に産んでおいて存在を肯定しない両親に、屈折した感情を抱き始めるのであった。


 そして、その感情は自分が3回の騎士団入団試験をすべて落ちてしまった原因を己の遺伝子に求めたことで更に強くなったのであった。


 

 

「そういえばオイラたち、30年かけて作った魔道具と独自の魔術で記憶を保持したまま35年前に戻ろうとしているんスよね」


 ゴブリノキオがコドックの中にいるロンリネスに語り掛ける。


「しかも、その装置の起動にはあなたが必要なのです。よければ、私たちと一緒に記憶を保持して過去に飛びませんか?」


 なお、彼らはコドックの記憶を保持して時間を巻き戻す気はなかった。


 なぜなら、タイムリープ魔術における記憶を保持できる最大人数は決して多くなかったからである。

 

 先ほどのザナミの発言はすべて、ロンリネスの『過去に戻りたい』という意思を強くするためについたウソである。


(ああ、OKだ。過去に戻って……もう一度騎士団入団試験に挑戦して……合格して……)


「結構乗り気みたいだよ」


 コドックが、自身の中にいるロンリネスの詳細を伝える。


「そうか、じゃあ、ここからもうひと踏ん張りっスね!」


 ゴブリノキオが窓の外に広がる灰色の大地を見つつ、大量殺人犯とは思えない笑顔を浮かべる。


 


 スルトルス帝国跡地の大地は、まだ帝国が現役だった頃に大地に含まれる魔力をインフラのために吸いつくしたことで灰色になっていた。


 さらに、その上を帝国崩壊時に逃げだした凶悪な試作段階の魔物たちが堂々と歩いていた。


 かつては高い塔をたくさん作り、魔力による電灯できらびやかに照らされていた街も、今ではすべて廃墟と化している。


 ゴブリノキオたちが集合し、帰ろうとしている安楽会本部に帰るには、この世紀末そのものみたいな大地をあと2日ほど北に歩かないといけないのだ。


 そして、人の気配もないようなスルトルス帝国跡地にて、ひとりの男が駆けだそうとしていた。


「……ロンリネスは、吾輩の手で奪還するのである」


 その男の名はソーセキン。グライフ王国国家騎士団の団長である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る