副団長&ド級のブーメランVS闇堕ち作家
「私は恐るべき魔術の技を発動させた。不可侵バリアッ!」
臨時部隊の二人に挟まれたモロダスがトトキを覆うように中心に真っ黒なバリアを展開し、彼女を閉じ込めた。
「私は思う。汚い物にモザイクをかけるのなら、モザイクをかけているお前らも全身モザイクまみれになるべきだと」
「俺は最近まで反社会勢力だったからモザイクをかけたことなんてないぞっ!」
バリア展開直後、ドジョーがトトキとモロダスを囲うような軌道でブーメランを投げる。
「私は自らの経歴にモザイクをかけぬ目の前の男に敬意を示しつつ罵倒した。しっかり狙えよ前科あり人間」
モロダスが罵倒した直後、ブーメランの軌道を元にバリアが作られ、それに上書きされるかの如くトトキを覆うバリアが消えた。
「一番迅速な手段でバリアを消してくれたこと、感謝する。どうやらあのバリアには空気を入れる穴がない。おそらく窒息狙いだ」
トトキはドジョーの行動に感謝して敵の情報を伝えつつ、マテリア製のレイピア『ピジョントレーナ』を構える。
「私は困惑した。なぜバリアを張るだけでバリアが消えたのだ?!」
「俺の心が強いからだ!!」
ドジョーがモロダスの質問に対して全然答えになっていないようで半分正しい答えを述べる。
なお、実際の理由としては、ドジョーのバリアには展開時に内部にある自分より心(意思)の弱い人間が張ったバリアを上書きする効果があったからである。
そのため、ドジョーの回答はある程度正しいのだ。
「攻めるぞ」
「了解だっ!」
ドジョーがブーメランを投げ、トトキがレイピアでモロダスを突き刺そうとする。
「私はとっさに防御用バリアを展開するっ!」
しかし、モロダスが自分のみを覆う水玉模様のバリアを張り、ブーメランとレイピアを防いだ。
「このバリアは私が10年前に2つの施設にかけたバリアと同じである。果たして、権力の犬にこれをはがすことはできるのだろうか」
モロダスがセリフを言い終える間もなく、水玉バリアを剥がすべく再度バリアを張るためのブーメランを投げるドジョー。
「馬鹿のひとつ覚えという言葉を知っているのだろうか。私は心のなかでそう思った」
しかし、ブーメランも水玉バリアによって閉じ込められ、帰ってくることはなかった。
「さらばだ、権力の犬ども。自ら張ったバリアで救助されることもないまま息絶えるがいい。私はカッコよく捨て台詞を吐いた」
その隙にトトキもドジョーも真っ黒なバリアで覆われてしまった。
「
バリィッ!
トトキを覆う黒塗りバリアが、刺突よって破壊される。
我流刺突・鳩怒刑。
剣に対する約12秒の魔力チャージの後に発動するトトキが独自に開発した剣技。
チャージ後にレイピアから繰り出される魔力を含んだ刺突は強力無比で、簡易的なバリアですら壊すことができる。
さらに、常時少量の魔力を含んでいるピジョントレーナを使用して繰り出された鳩怒刑は、モロダスの強固なバリアすら壊せたのだ。
「黒塗りバリアが破られるとは、想定外だ!私はひどく驚愕した!10年前の権力の犬どもとは実力が違うのだと強く理解した!」
「10年前にオマエが平和を踏みにじってから、騎士団は大幅に強化された。あの時のようにはいかないぞ、モロダス!」
「しかし、元アウトローの男の方はそろそろ呼吸が苦しくなっていると私は考えた。そうだろう、ドジョー」
モロダスが中にドジョーがいる黒塗りバリアに向かってそう問いかけた次の瞬間。
「我流刺突・鳩怒刑!」
バリィッ!
ブーメランを閉じ込めた水玉バリアがトトキの刺突で砕け散り、勢いが死んでいなかったブーメランが円形の軌道を描いてバリアが再度展開。
バリッ
ブーメランバリアの効果でドジョーを覆っていた黒塗りバリアも崩壊。
モロダスを守る水玉バリアも砕け散ってしまった。
そして、ドジョーの黒塗りバリアの中で待機していた大量のブーメランがモロダスに向かって飛んできた。
「ブグヘッ!」
バリアをはがされたことで全てのブーメランの打撃をモロに喰らってしまったモロダス。
「今ので確実に3か所以上打撲したっ!私は自分の負傷を痛みによって強く実感したっ!」
「ドジョー、呼吸の方は大丈夫か」
「問題なしっ!ド級の根性でなんとかなったぜ!」
「ならば、最後の追い込み、いくぞ」
二人が攻撃の構えを取る。
「ぐっ、こうなったら……私の原典でブチのめしてやるっ!官能猟奇魔術!エログロツインソード!」
いつもの口調を維持する余裕すらなくなったモロダスは自身の原典である官能小説と猟奇小説への情熱を原動力に2本の剣を両手に生成した。
かつて、モロダスは官能小説と猟奇小説の双方を得意とする作家として人気を博していた。
そして、モロダス本人もその2つのジャンルを愛していた。
だから、許せなかったのだ。
ろくに読みもせず、給料をもらいたいがために勝手に自作を禁書認定した禁書指定委員会の人々とそれを指示する人々が。
だから、ずっと計画していたのだ。
強固なバリアで憎い相手を全員閉じ込めた後、エログロツインソードで皆殺しにすることを。
そして、喜んだのだ。
憎い相手の大半がロッシュに食い殺され、残りの人々も心身が傷ついたことに。
「なぜ、あの時、バリアを張ったのだ!」
トトキは官能、猟奇小説への情熱で大幅にフィジカルが強化されたモロダスに戦いながら問いを投げかける。
「アイツらは我欲のために私の情熱を否定し、抗議しても聞く耳を持たなかった!だから、もう暴力で抗議するしかなかったんだ!!」
モロダスは泣きながら右手のピンク色の剣と左手の内臓色の剣をトトキに振るう。
途中途中でドジョーのブーメランが彼に横やりを入れようとするも、すべて叩き落としていく。
「いいか!『話せばわかる』など幻想なんだ!言葉は無力なんだ!分かり合えない奴を納得させる方法はただ一つ。暴力で命を奪うことだ!」
「違うっ!言葉にだって強ぇ力がある!」
ドジョーが思い切り反論する。
「諦めないことのみが心の強さだと思っていた俺に、諦めることも心の強さだと説いた男がいた!そして、俺はその言葉でもっと高みに行けたんだ!!」
イドルから心の強さには多面性があることを教えられて以降、ドジョーは暗殺者としての未練を断ち切り、真人間としてやり直すことを決意した。
そして、その決意は彼にさらなる力を与えた。
彼は魔術で数センチメトールほどのブーメランを十数個ほど生成し、飛ばした。
「ウグッ!」
ブーメランが小さかったことやトトキへの戦闘で飛来に気付かなかったモロダスは全てのブーメランに被弾してしまった。
「これが、クーデター後の懲役中に更なる精神統一を得てたどり着いた、俺のもうひとつの強さの終着点、マイクロブーメランだ!」
マイクロブーメラン。
ドジョーが多面的な心理的視野を持ったことで新たに編み出した、クソデカブーメランと対をなす技。
威力はクソデカブーメランに劣るものの、技の気付きにくさと殺傷力の低さから殺人を前提としない対人戦ではかなり有用な技であった。
モロダスはマイクロブーメランで出来た小さな複数の傷口から血を流し、膝をついた。
「モロダス!俺、実はガキ時代に背伸びしてオマエの作品を読んだことがあるんだ!……オマエの情熱がこもった文章、今でもハッキリ覚えているぜっ!」
「なっ……まだ私の作品を……覚えている人がいたのか……」
ドジョーはまだ未成年だったころ、ゴミ捨て場にあったモロダスの猟奇小説を読んだことがあったのだ。
「実は俺、オマエの書いた『スプラッタブーメランマン』っていう小説の主人公に憧れて、ブーメラン使い始めたんだぜ!」
スプラッタブーメランマンは今から15年前に発売されたモロダスの代表作だった禁書である。
主人公である正義のブーメラン使いがあらゆる悪をブーメランで必要以上に切り裂いて成敗する物語で、凄惨な描写が多すぎて禁書指定されたのだ。
「オマエのやった罪は正直言って肯定できねぇ!でも、オマエがかつて書き記した情熱は、全力で肯定している!」
それを聞いたモロダスは目からしずくを流し始め、両手に生成していた剣を消した。
「私は今、猛烈にうれしい……作家である私を、覚えていてくれてありがとう……」
「……では、逮捕する」
トトキさんが淡々と封印用魔道具を取り出す。
「……私は、作家でありながら言葉の力を信じ切れず、暴力を礼賛し肯定した愚か者である。終身刑になるのは、覚悟の上だ」
そう言い残し、モロダスは魔道具の中に封印される形で身柄を確保されるのであった。
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