ついに始まる混沌との対決
「こわいよ……こわいよ……」
「わたしたち、どうなっちゃうのかな……」
15時頃、エルフ特別区の住人達の避難が完了した。
現在、エルフたちは王都中心部にある騎士団本部の建物に避難している。
しかし、名指しで殺害予告されたこともあってエルフ族の子供たちは怯えており、大人たちも一見平気なように見えて内心恐怖に苛まれていた。
「まったく、変な言いがかりをつけて一般市民を殺そうとするなんて……ロッシュは心が弱いんだな」
怯えるエルフ族を見てドジョーがいつもよりシリアスな口調でボソっとつぶやく。
「『安楽会の連中はみんな独善的な連中が多いが、ロッシュは特にエゴが強い』って先代騎士団長のドレドノートさんが言っていたな」
「ド級のエゴイストだったのか……というか、副団長はドレドノートに会ったことがあったんだな!すごいな!」
「騎士団上層部との宴会で会ったんだ。ガートリンにも会ったことあるよ。私が入団した時には故人だったバジークとはさすがに会っていないけど」
グライフ三大英雄のひとり、ドレドノート。
2メトールを超す大柄な肉体と肉体強化魔術の組み合わせで圧倒的な強さを誇り、この世界のド級の語源になった騎士団員である。
30年前の対安楽会最終戦争では安楽会会長マノジャックを葬り去り、世界に平和をもたらした彼はその後も騎士団で活躍し、12年前に引退した。
自分だけ無事な自爆をするバジークや死体を操るガートリンに比べると、子供人気が頭一つ抜けて高く、現在も多くの王国民に尊敬されているのだという。
そして、ソーセキンが彼の次の騎士団長になってから、やる気のない騎士団長のせいで騎士団の戦力低下が始まり、10年前の惨劇につながるのであった。
「キミたちを守ってくれるピンクのハト、やさしく接してね」
不安な表情をしている子供を見かねたトトキは、手品師のごとくファンシーピジョンを1体出しした。
「あ、ハトさんだ~」
「ハトさん、さわれるかな……さわったらやわらかいのかな……」
ハトを見た子供たちの顔から不安がだんだんと無くなっていく。
「おお、そのハトってそういう使い方もできるんだな!副団長、応用力も強ぇんだな!」
「この魔術はこっちが本来の用途だから、今の使用方法はむしろ基礎なんだ」
トトキの言う通り、彼女が使用する鳩転移魔術の本来の用途はエンタメ用、つまり人を楽しませることである。
幼少期のトトキは、劇場でみんなを楽しませられるエンターテイナーに憧れていた。
そして、12歳の時にとある道化師に弟子入りし、3年かけてエンタメ用魔術『鳩転移魔術』を習得したのであった。
あんまりウケが良くなかったものの、初舞台にも立てた。
そんな時、ロッシュの襲撃事件が発生した。
平和の
『ピンクのハトを召喚し、そのハトを位置を入れ替える』という一見冗談のような魔術を使いこなし、副団長にまで上り詰めたのだ。
「さてと、そろそろハトを使って王都の見回りを始めるか」
そう言ってトトキは追加で自分が出せる最大数までハトを召喚した。
「イチは今のまま騎士団本部に待機して子供たちと触れ合って。ニーは周囲を見回しつつエルフ特別区にまで飛んで。サンは国庫保管庫へ……」
そして、総員12体のファンシーピジョンに1匹づつ詳細な命令を下した。
そして、9匹のハトによる上空からの監視と、3班のメンバー約半数による地上の監視が始まった。
なお、この前後に王都全域に外出自粛命令が出て、外にいる人々はぐっと減っていった。
「……!王都南部、ナタリス教の半月大聖堂付近にて非常に不審な人物を発見。指名手配犯モロダスの可能性大。至急、私から現場に向かう」
17時、夕陽が山に沈んでいく頃に1匹のハトが視界内に不審な人物を入れた。
そして、トトキは自分と不審者を視界にとらえたハトの位置を入れ替えた。
トトキとハトが離れられる最大距離はかなり長く、騎士団本部にいれば王都内全域を網羅できる。
そのため、このような瞬間現着もいけるのだ。
「すこし、職務質問をしてもいいか?」
空中から降り立ったトトキは不審者に顔を向け、いつもの不審者に対してかける第一声を行う。
「どうせ、そうやって煽って暴行させて、公務執行妨害で逮捕したいのだろう。公的権力への信頼がない私はけだるげにそう述べた」
「違う。オマエの罪状は『殺人協力罪』だ。……そうだろ、指名手配犯のモロダス!」
トトキは顔と独特なしゃべり方が騎士団のデータベースに記録されているモロダスの特徴と一致していたことに一瞬で気付いた。
「お前らへの復讐は終わっていない!そう私は息まき、闘志を燃やした」
ブワンブワンブワン……
モロダスが戦闘に向けて闘志を燃やす中、デカいブーメランが二人のいる道にめがけて飛んできた。
その上にはドジョーがいた。
「副団長!駆けつけたぜ!」
ブーメランが地上に一番近くなったところでドジョーはモロダスから見てトトキの向かい側に飛び降りた。
こうして、臨時部隊とロッシュ一味との対決が幕を開けたのであった。
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