最強の生物VSロングネックドラゴン
20時ごろ、北から王都北部に向かってドラゴンが空を泳ぐように飛んで迫ってきた。
「何あのドラゴン……身体、長すぎない……?」
3メトールほどの壁で囲われている王都から北に徒歩10分のところにある禁書保管庫にて、アリーチェさんが急に出てきたドラゴンの長さに驚く。
確かにドラゴンの身体の長さがおかしい。
ホムンクルスと人類に次ぐ最強の生物ことドラゴンとその派生種は、コウモリの翼が生えたトカゲのような外見をしている魔物である。
しかし、今王都の空を飛んでいるドラゴンはトカゲというよりヘビのような身体つきをしており、翼が生えていなかった。
「改造身体・憂眼!」
僕は謎のドラゴンの正体を探るべく、短縮した詠唱で第三の眼として額に憂眼を生成し、見た。
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種族:ロングネックドラゴン
最大保有魔力:200,000マナ
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あれから鍛錬して最大保有魔力も見れるようになった僕の憂眼は、謎のドラゴンの正式名称と強い力を持つことを示してくれた。
「ロングネックドラゴン……」
僕はその種族名を、王城に行く道中の雑談でホムスビさんの口から聞いたことがある。
東の大陸にのみ生息し、ヘビのような身体を持ち、豪雨を引き起こし、多くの人間の命を奪った悪人に対してのみ従順になるという魔物。
もしもこの魔物が王都に到達したなら、大きな被害が出るだろう。
マテリアの空論巨人キュクロスを使えばなんとかなるかもしれないが、彼女の魔力はこの後のために温存しておきたい。
「……僕が、あのドラゴンをなんとかしてくる」
「オイ、大丈夫か……?相手は中堅騎士団員4人でやっと倒せると言われているドラゴン系魔物だぞ」
「僕は、セイタンと同じホムンクルスだ。僕は……最強の生物だ!」
僕は珍しく己の実力を誇示し、国庫保管庫から20歩ほど離れる。
そして、僕は大胆に身体を変化させるべく、詠唱を唱え始める。
「改造身体、鷲の頭、獅子の身体、鷲の翼、鳥獣の王!」
唱えた直後、僕の身体は以前よりも手早く変化し、獅子の身体とワシの頭と翼を持つ魔物、グリフォンに近い姿に変化した。
僕は破壊神殿でセイタンが変化した様々な姿と己の出自を知った。
自分の本体が賢人石であることを悟った僕は、人の原型を保たない形状にも変化できるようになったのだ。
「その姿は、グライフ王国の象徴である魔物、グリフォン!……なんか本物より二回りデカい気がするけど」
アリーチェさんの言う通り、グリフォンはグライフ王国の象徴であり、国名の由来にもなっている魔物である。
小さい頃から王都各地でデザインモチーフとしてさんざん見てきて形状がイメージうしやすいため、変化の題材にしたのだ。
『ガアアアアアッ!ガアアッ!』
僕は雄たけびを上げつつ、空へと飛び立った。
(ドラゴンの背に人が2人乗っている……あっ飛び降りた)
グリフォンとしての眼が、ドラゴンに人間が乗っていることと彼らが飛び降りたことを体内の僕に知らせてくれた。
ホムスビさんの話と状況からして、おそらくあの二人のうちの一人がロッシュなのだろう。
そして、もう一人もかなり手慣れた殺人経験者か安楽会キャリアの可能性が高い。
『ガアアアアアアッ!ガアッ!』
降りた2人の処理を他の臨時部隊の方々に託しつつ、僕は速度を劇的に上げてドラゴンの胴体へと突撃した。
『ドジュッ!』
突撃の結果は予想以上であった。
実際のグリフォンよりも加速してしまった僕は、嘴でドラゴンの胴体を傷つけるどころか、ドラゴンそのものを2つに引きちぎってしまった。
『グアアーン……!グアーン……!』
下半身を失い、周囲に雨を降らせながら広範囲に響き渡るような叫び声をあげたドラゴン。
彼は僕に勝てないと悟ったのか、傷口を回復魔術と思わしき魔術で急速に塞ぎながら僕がいる位置から反対の方向へと逃げようとする。
させるものか。
僕は雨天だろうとかまわずドラゴン頭上へと飛んでいく。
そして、グリフォンを模した身体を消し、いつもの人間を模した身体に戻った。
「うーん。どうすれば服を破かずに大規模な身体変化ができるのかな……」
今から2日前、僕は悩んでいた。
理論上、賢人石が入るスペースさえあればどんな形にもなれることが分かった僕は、グリフォンを模した形態を開発することには成功した。
しかし、その際に体積や体の形が変わる都合でどうしても服を破けてしまうことが発覚したのだ。
「じゃあさ、キュクロスみたいに人間の身体の外側にグリフォンの身体を作るというのはどうかな?」
隣にいたマテリアが教えてくれたアドバイス通りにやってみた結果、本物より二回り大きくなってしまったものの、服を破かずにグリフォンになることに成功。
こうして、グリフォンへの変身は晴れて実用化に至ったのだ。
つくづくマテリアには助けられてばかりである。
『抜刀と強大な魔物を確認。ブレシンガ、戦闘モードに移行。脳天を狙い、思いきり刺しましょう!』
僕はあえて翼を生やさず、落下する勢いのまま瞬時に鞘から抜いたブレシンガをロングヘッドドラゴンに突き刺した。
『グアアアアンッ!グアアア、アアッ!』
本能的恐怖で叫びつつ、回復魔術による傷の再生でブレシンガを身体から押し返そうとするドラゴン。
首を振うドラゴンに対し、僕はブレシンガを両腕で抑え込みながら毒針がついた尻尾を生やして突き刺し、そこから自分で考えたオリジナル技へと移行する。
「
『オーバーナイト、実行します!』
それは、魔物を確実かつ最小限の被害で駆除するために考え出した技であった。
尻尾の毒針から相手の精神を落ち着かせて眠らせる毒を注入した後、相手の頭部に刺したブレシンガを瞬間的に様々な形に変形させて相手の脳を破壊する。
それがオーバーナイトの概要であった。
『グアッ……』
ギュルルルルルルッ!!
ロングネックドラゴンは眠りにつき、直後に脳をかき乱される音と共に永遠の眠りにつき、他の魔物同様に身体を消滅させた。
僕は、ドラゴンに生物としての格の違いを見せるかの如く勝利したのであった。
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