大悪人ロッシュの破滅前夜

「そういえばアンタの息子、クーデター主導して逮捕されたんだってな!なかなかガッツのある子息じゃねえか!仲間にしたかったぜぇ!ッハハ!」


 王都グライフで月食が起きる日の前日、ロッシュは王都近郊の小さな洞窟にて二人の人間の男と共に酒を呑んでいた。


「しかし、コクドーは無自覚自己中かつ正義感があるので、ロッシュ氏とは相性が悪いかと思われます」


 ロッシュに自身の息子の性格を教える男の名はスィドー。


 かつて、家庭教師としてイドルに剣術を教えた男で、コクドーの父親である。


 しかし、その前歴は安楽会第二部隊副隊長であり、左目の憂眼と剣術の力で人知れずたくさんの人を斬ってきた暗殺者でもある。


「その性格なら、俺との相性は悪いな!俺は安楽会一番のエゴイストだからなぁ!モロダス、酒を注いでくれ!」


「了解した。と私は言った」


 まるで小説の地の文ような喋り方をしながらロッシュのコップに酒を注ぐ男の名はモロダス。


 かつては官能小説や猟奇小説を得意とした作家だったが、内容があまりにもえげつなかったため11年前に自作がすべて禁書指定を受け発売禁止に。


 その後、ロッシュが犯行声明を出した2つの施設にすさまじい強度のバリアを貼り、ロッシュやザナミが襲撃したときに解除して逃亡。


 その後、スィドーに見つかるも、『死ぬまで安楽会に協力する』という条件で今いる小さな洞窟で匿われることになったのだ。


「ぷっはー!やっぱイグレオの酒は美味しいなあっ!なあ、お前もそう思うだろ?ロングネックドラゴンよぉ」


 そう言いつつロッシュは地面に置いた東の大陸によくあるお堂のミニチュアみたいな魔道具『携帯型伏魔殿けいたいがたふくまでん』をなでた。


「にしても、携帯型伏魔殿の封印機能の解除が可能とは、ロッシュ氏の『解放魔術』はすごいですね」


 携帯型伏魔殿は東の大陸で開発された魔物封印用の魔道具である。


 モンスターチェストや魔物箪笥とは違い、封印を解除すること前提には作られておらず、すさまじい封印強度を持っている。


 その強度ゆえに強い魔物が封印されていることが多く、ロッシュが撫でた携帯型伏魔殿に入っているロングネックドラゴンもその範疇である。


 しかし、ロッシュの『解放魔術』は携帯型伏魔殿の封印を打ち破ることができた。


 拘束されたり自由を奪われることを何よりも恐れていたロッシュが開発したこの魔術は、あらゆる封印の効果を打ち破ることができたのだ。


「ああ、俺は解放魔術と人狼魔術のおかげで、今まで一度も逮捕や拘束、封印されたことがないんだっ!」


「すごいですね。と私は言った」


 ロッシュは先祖からの隔世遺伝で生まれつき脳以外の身体の機構をオオカミに帰ることができる『人狼魔術』が使えた。


 彼は腕だけをオオカミにすることで腕をいつもより太くして手錠を壊したり、全身オオカミになることで高速で逃げたりして自由を奪われるのを防いだのだ。


 普段から生えているオオカミの耳と尻尾も人狼魔術を応用して生やしたものなのだ。


「きっと俺が死ぬまで俺の自由を奪える者はいないだろうぜっ!ヒャーハハハッ!ハハハッ!」


 だが、ロッシュは知らなかった。


 彼がそう豪語した前日、王都グライフのマテリア邸にて彼の自由を奪うことができる魔道具がマテリアの手によって開発されたことを。


 ロッシュは知らなかった。


 明日には自分の自由が奪われてしまうことを。

 

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