人生の相棒との添い寝

「マテリア、日付変わるしそろそろ寝た方がいいと思うよ……」


 ロッシュが犯行予告を出した直後、マテリアは家のアトリエにこもり始めて食事も取らずに魔道具の制作を続けていた。


「え、もう日付変わるの……?やっぱり集中していると時間があっという間に過ぎちゃうなあ……」

 

 マテリアは好きなこと限定だが、一度集中するとかなりの時間それが継続する。


 そのため、翌日の健康に支障が出ないように日付が変わりそうになったら僕が作業を止めるように言われているのだ。


「さてと、じゃあ作業着から寝間着に着替えようかな」


「寝間着はすでに持ってきたよ」


「ありがと!じゃあ早速着替えるね」


 そう言ってマテリアは作業着(といっても実際は普段着と兼用になっているのだが)の白いシャツと黄土色の長ズボンを脱ぎ、上下の下着のみになった。


「うぁ、ああ……」


「イドル、顔赤くなっているね。……うれしいよ、そういう反応」


 マテリアの身体は彼女の作る武器防具や魔道具と同じくらい美しかった。


 濃い緑色のツヤのある髪、情熱と叡智を感じる赤い瞳、大きく実った双峰、頻繁に見せてくれる笑顔……


 でも、それ以上に情熱にあふれた心が美しいのだ。


「さてと、寝間着に着替えたことだし、ベッド行こっか」


 こうして、絡めるように手をつながれた僕はマテリアに連れられてベッドに向かうのであった。




「うっ……イドルぅ……おきて……」


 二人で一緒のベッドに入って眠りについた約2時間後、ふと目覚めた僕の隣にはメガネを外した状態で涙目になったマテリアがいた。


 ギュッ


 マテリアが僕を強く抱きしめる。


 僕も無意識のうちにマテリアの頭をなでる。


「実は私、たまにロッシュに襲われたあの日みたいな夢を見ちゃうんだよね……」


 今から10年前、ロッシュは王都の施設二か所に実行6時間前に犯行予告をした上で夜に襲撃を行った。


 国内で発売された書籍を査定し、場合によっては禁書に指定して販売を規制する国家運営の組織『禁書指定委員会』の本部


 その禁書指定委員会を支援していた民間団体『健全な教育推進倶楽部』の本部


 この2つの場所を『俺が大好きな官能小説と猟奇小説を発売禁止にした』という理由でターゲットにしたのだ。


 犯行予告が行われた直後、それぞれの団体のメンバーは避難のために家に戻ろうとした。


 しかし、禁書指定委員会の規制に不満を抱いていた人々がそれぞれの施設にバリアを貼り、メンバーは避難ができない状態に陥ったのだという。


 戦争や大きな事件が起こらなかったことで弱体化していた騎士団はバリアを破壊することができず、襲撃予告の時間が到来。


 結果、ロッシュが禁書指定委員会の人々を、彼の弟子であるザナミが健全な教育推進倶楽部の人々を大量に殺し、傷つけた。


 そして、マテリアはその日の朝に祖父の仕事場についてきてしまったことにより、この事件に巻き込まれてしまったのだ。


「今日は左腕だけじゃなくて、右腕や両足、おっぱいまで夢の中で食われちゃった……怖いよ……怖いよ……!」


 マテリアがさっきより強い力で僕に抱きつく。


 きっと、ロッシュが犯行予告をしたせいでトラウマが刺激されてしまったのだろう。


 僕はマテリアの不安を少しでも和らげるべく、ある提案を行った。


「もしロッシュと戦うの怖かったら、代わりに僕が戦ってもいいかな……?」

 

 


「イドル……相手はあの安楽会の残党なんだよ……私、キミが居なくなるなんて嫌だよ……」


「……大丈夫だよ。僕、これでも一応最強の生物だから。最近は鍛錬して分身も作れるようになったし……まだネコちゃんの形でしか作れないけど」


 その一言を聞くと、マテリアが僕を抱きしめる力が少し弱くなり、表情も少しやわらいだ。


「ふふ、珍しいね……キミが自分の強さをアピールするなんて。普段は『まあ、それなりかな』って感じで謙虚なのに。……ありがと」


 そして、マテリアが僕のほっぺたにキスをした。


「大好きだよ、イドル」


 僕もマテリアのほっぺたにキスをした。




「ねえ、イドル。強い人と強い人が強力して敵と戦ったらどうなると思う?」


 それから数分後、いつも通りの口調とテンションに戻ったマテリアが僕を抱きしめたまま質問をする。


「そりゃあ、単独で戦うよりも確実に相手に勝てると思う、多分」


「だったらさ、私と一緒にロッシュと戦ってほしいな。イドル、多分自覚ないけど戦闘面では私と同じくらい強いじゃん。あと、ロッシュを確実に仕留めたいし」


「うん、いいよ」


「じゃ、お休み。私の可愛くてカッコいい人生の相棒……」


 そう言ってマテリアは僕に抱き着いたままそのまま眠りに落ちた。


 今度は心地よさそうな寝顔を浮かべているのを見て安心した僕も、数分後に眠りについた。

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