ロンリネス、身体を大悪人に乗っ取られる

 コドックは史上最悪の組織である安楽会の第四部隊隊長であった。


 彼は医者として身につけた経験と人工臓器としての役割も果たす魔道具を作る高度な技術力で安楽会に大きく貢献した。


 彼が賢人生け捕り作戦の際に賢人ディフモの水流カッターで死んだ後も、彼が作った人工臓器型魔道具は闇市場で取引され続けていた。


 そして、当時16歳だったロンリネスは生まれつき魔力をため込むことができなかった自身の『無力体質』を克服するべく『コドックの腎臓』を埋め込んだのだ。


 なお、コドックの作った人工臓器型魔道具を体内に入れることは『があるから』という理由で当時から今に至るまで違法である。


 なお、体内埋め込み型魔道具と遺伝子改変魔術を組み合わせた合法な治療法もあった。


 しかし、その程度のテコ入れではいけないと思った彼は違法な道を選んだのだ。


 『コドックの腎臓』の性能はすさまじかった。

 

 彼の保有魔力量は5万マナ以上になり、鍛錬せずとも魔道具に記録されていたコドックの得意魔術の一部である触手生成魔術が使えるようになったのだ。


 多くの人々が彼の「合法な魔道具を身体に入れた」という言葉を信じる中、ソーセキンだけは彼がコドック製の魔道具を入れていることに気付いた。


 しかし、彼の夢を応援する気持ちが法を守る気持ちよりも強かったため、今までずっと黙ってきたのだ。


 そして、その沈黙の結果が今日になって帰ってきたのだ。




「団長様、あんたクーデターのときいなかったよねぇ。副団長はいたみたいだけど」


 ソーセキンに片手で首を絞められながらも、『コドックの腎臓』は会話を始める。


 コドック製の人工臓器型魔道具を埋め込む際の重大なリスクの正体。


 それは、本人の精神が弱った時、魔道具側に用意された人格が目覚めて本人の身体を乗っ取ってしまうことであった。


 そして、魔道具に用意された人格の正体は、複製後に不要な要素を削って必要な分だけにしたコドック本人の人格であった。


 そして、コドックの腎臓は埋め込まれてから今に至るまでのロンリネスの人生を見てきたのであった。


「もしかして、クーデターに成功したロンリネスが騎士団長になることを期待していたのかな~」


「……その通りである」


(えっ……お前、そんな理由でクーデターの時いなかったのかよ……あと、さっさと身体返せコドック!)


 まさかの真相に、主導権を奪われたロンリネスも驚く。


「友達のために法に背いて、国の危機にも駆けつけないなんて……お前それでも騎士団長か?」


「う、うぐっ……」


 痛いところを突かれ、ロンリネスの首を絞める力が弱まるソーセキン。

 

「目的のためなら両親を暗殺者に焼いてもらうようなクズをかばうなんて、お前もたいがいクズだなっ!」


 シュルッ!


 更なる悪口を言いつつ、コドックはソーセキンの手の力が弱まったタイミングで勢いよく抜け出した。


「ランニング・オクトパス!」


 そして、コドックは生前から愛用していた一番得意な魔術の技を使用し、辺り一面に大量の黒くて濃い煙を漂わせ、どこか遠くへとワープしていった。


 


 ランニング・オクトパスとは、コドックが逃走用に作り出したオリジナルの魔術を用いた技である。


 大量の煙を出す魔術と最寄りの安楽会基地にワープする魔術を同時に発動するこの技はかなり有用で、コドックの命を何度も助けてきた技である。


 なお、ロンリネスがリルフェン共和国に逃げるときに使用した『安楽片道切符』はこの技のワープの仕組みを流用して作られたものである。


「ここは……赤っぽいレンガが多用されているからスルトルス帝国跡地内にあるグライフ王国国境付近支部で間違いないね」


 コドックは魔術の効果で転移した場所を廃墟の様相から一発で特定した。


(おい、ここ誰かが暮らしているっぽい形跡あるからやめとけ!あと、身体返せよ……俺、お前には何も悪いことしてないのに……)


「報告ありがとうクズ赤ちゃん。だが足音が近づいている。おしまいだねオレたち」


(わあ、ああっあああああっ!!死にたくないっ!死にたくない!)


 コドックがロンリネスを怖がらせつつ、触手を出していつでも戦えるように構える中、さらに足音は大きくなっていく。


「おっと、足音は3人分だねぇ。キミを入れても人数的不利だねえ」


(ああああああ!!やだっ!やだ!まだ死にたくないっ!)


「オレの同志に依頼して両親を焼死させたクセに、自分は生き残りたいんだねぇ……駄々をこねるなよ、クソガキ」


(ああっ!あああああああああっ!ああっ!)


 ロンリネスが再度乱心を起こしたその時。


「おお!!コドックとロンリネスがニコイチで来てくれたみたいだぜぇ!ヒャハハハハ!」


「こんなにも都合のいいことがありえるとは予想外です」


「コドック、久しぶり~!ロンリネス、ここまで来てくれてありがと~!」


 グライフ王国付近の基跡でロンリネスをさらう準備を整えていたロッシュ、ザナミ、ゴブリノキオの3人がロンリネスの身体の前に現れた。 

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