ロンリネス、騎士団団長になった幼馴染と再会してしまう

「こ、ここは……どこだ?」


 ロンリネスは灰色のレンガで出来た無機質な部屋の中で封印を解除された。


「ここは、グライフ王国にある尋問所の一室である」


 彼の後ろにいた壮年でチョビ髭の騎士団員が現在地についての解説を行う。


「オマエは……ソーセキン!」


「その通り、吾輩はおぬしの竹馬の友、グライフ国家騎士団団長のソーセキンである」


 騎士団員の名はソーセキン。


 役職は団長である。


 ロンリネスの幼馴染にして、かつては共に騎士団員を目指した親友であった。




 今から40年ほど前、最大最強最先端の国と言われていたスルトルス帝国が史上最悪の組織『安楽会』によって滅ぼされた。


 帝国を滅ぼした後の安楽会は人類を全滅させるべく、今度は帝国の周辺国に侵攻していった。

 

 帝国の南の隣国であったグライフ王国やリルフェン王国も安楽会の被害に遭い、リルフェン王国に至っては王家の人間が全滅した上に無政府状態になった。


 危機的状況に陥ったグライフ王国は安楽会と戦ってくれる人間を増やすべく、とある作戦を実行した。


 それは、国家騎士団を過度に賛美して英雄視する風潮を作り出すことで、騎士団員や傭兵に志願する人間を増やすというものであった。


 効果は凄まじかった。


 本来なら国に協力しなかったであろう実力のある老若男女が次々と安楽会との戦いに参戦していったのだ。


 特にドレドノート、バジーク、ガートリンといった3人の騎士団員の活躍は目覚ましかった。


 国は彼らをグライフ3大英雄として猛烈に持ち上げさらに士気を上げていった。


 その結果、グライフ王国に騎士団ブームが到来した。


 子供たちのあこがれの職業は騎士団員になりあらゆる子供たちが騎士団員になるべく訓練ごっこや実際の訓練を始めたりしたのだ。


 ロンリネスもその流れで騎士団員に憧れるようになり、隣家に住んでいた友人のソーセキンと共に毎日自主訓練を行うようになったのである。


 

 

「お前はいいよなぁ……騎士になれて。しかも今は騎士団長なんて最高の地位に就きやがって」


 灰色の一室でロンリネスはソーセキンを見ずに静かに愚痴をこぼす。


 30年前、15歳のソーセキンとロンリネスは安楽会が壊滅した数か月後に開催された騎士団入団試験を受けた。


 結果は二人とも不合格であった。


 筆記試験も実践試験も点が圧倒的に足りなかったのだ。


 翌年、16歳になった二人は試験を受けたが、その年も双方不合格であった。


 ロンリネスは実戦の、ソーセキンは筆記の点が足りなかったのだ。


 そして、17歳になった二人が受けた最後の試験。


 ソーセキンは合格し、ロンリネスは落ちてしまった。


 そして、合格発表の日から二人は疎遠になってしまったのだ。


 そのことを猛烈に思い出したロンリネスの頭にどんどん血が上っていく。


 あまりにも小さすぎる堪忍袋の緒が早々に切れる。


「なんで、なんでオマエだけ騎士団員になっているんだ!!俺もお前も努力の量は一緒だっただろ!!なのになんで!なんで俺は落ちたんだ!クソォ!クソォ!」


 ボゴッ!ドゴッ!


 ロンリネスはいつものごとく怒りの対象であるソーセキンの顔を殴り始める。


「俺だって!俺だって騎士になりたかった!立派な人間になりたかった!なのに!なのになんで……!なんで俺はこんなに惨めなんだよっ!クソッ!クソオッ!」


 ドゴッ!ボゴッ!


 何度も旧友に殴られるソーセキン。


 しかし、彼は全く抵抗せず、ただその殴打を受け入れていた。


「おいっ!殴り返せよ!今まで俺を侮辱してきたクソ社会のように俺を痛めつけろよ!これじゃ、これじゃあ……」


「俺の方が弱いものいじめをしている、惨めな小悪党みたいじゃないか……」


 その言葉と共に、ロンリネスの頭は冷め始める。


 悟ってしまったのだ。


 ソーセキンの精神性が、自分よりもはるかに高い境地にあることに。


 ロンリネスは殴るのを辞めた。


「なあ、ロンリネス。おぬしは何で騎士団員に、なりたかったんだ?」


 目の前で自らの情けなさに泣くロンリネスに対し、ソーセキンは疑問を投げかける。


 その顔には痣一つついていない。


 長年の戦闘で鍛え上げた肉体に、情けない凡夫の拳など無意味だったのだ。


「俺は、俺は、ただ」


『ソーセキンさん、ロンリネスさんと面会したい方が到着しました』


 ロンリネスの真意は、ソーセキンの部下によるアナウンスで強制的に止められてしまった。


「ロンリネス、おぬしに会いたい人が到着したようである。吾輩と手錠をつけた状態で面会室に行くのである」


「俺と、会いたい人……」

(誰だ?かつて取引した土の賢人オリジーナか?それとも昔の取引仲間か?)

 

 ロンリネスが『会いたい人』の正体を考えながら面会室に着くと、そこには


「ロンリネスさん、久しぶり」


「イドル……」


 イドルがいた。

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