ロンリネス、悪の組織に狙われることになる

「さあさあ、これより30年ぶりの安楽会幹部会議を始めます!」


 イドルたちが破壊神殿を探索し、ロンリネスが封印されたころ、スルトルス帝国跡地にあるかつては安楽会本部だった廃墟に3人の人間が集まった。


 そして、彼らは会議室だった部屋にて長机を囲んで椅子に座り、会議が始まった。


 会議を仕切る厚かましい男の名はゴブリノキオ。


 安楽会の第六部隊の隊長である。


 偽装魔術と普通の道具を魔道具にする技術に長けており、ついでに鼻も人類全体の平均より長い。


「ハハハッ!まさか安楽会の名前を今になって聞くとはなぁ!」


 イカレた笑い方をしながらヨダレを垂している狼耳の生えた男の名はロッシュ。


 安楽会の第一部隊の隊長で、かつてマテリアの左腕を食いちぎった張本人である。


 かつてはフリーダムすぎる動向と謎のカリスマ性で安楽会の人気を支えており、組織壊滅後も規制反対を大義名分にして各地で好き勝手に暴れ続けている。


「ロッシュさん、ヨダレ拭きましょうか?」

 

 ハエの頭部を模した仮面をつけた長い耳を持つ女の名はザナミ。


 安楽会の第三部隊隊長であり、ロッシュの弟子でもある。


 彼女はエルフ族という通常の人類よりも寿命が長い種族であったため、30年前と姿がほとんど変わっていなかった。


 もちろん、ロッシュ同様に犯罪者としても現役で、現在はロッシュの補佐をしている。




「にしても、なんで主要メンバーが半分以上も死んで組織も壊滅しているのに、いまさら会議なんて開こうとしたんですか……?」


 ザナミのいう通り、安楽会幹部会議に参加できる主要メンバー7人のうち、4人はすでに死んでいた。


「エーチさんも、コドックさんも、エンマラジャさんも、会長もすでに死んでいるのに、どうして今更……」


 彼らがいた席にはゴブリノキオが描いた絶妙に下手な似顔絵が遺影代わりに飾られていた。


「なあなあザナミ、第二部隊隊長だったエーチはどうして死んだと思う?」


 ゴブリノキオが死因を聞くにはあまりにも不謹慎すぎる口調でザナミに問いかける。


「そりゃあ、賢人生け捕り作戦でホムスビに反撃されて全身を焼かれたからでしょ」


「違う違う。物理的な死因じゃなくて、死のリスクを理解した上でホムスビに挑んだ理由だよ」


「……人類を皆殺しにして、誰も苦しまない世界を作るため」


「そう、その通り!エーチも、第四部隊隊長のコドックも、第五部隊隊長のエンマラジャも、そして会長さんも、みんなそこを目指していたんだ!」


 安楽会の会長であるマノジャックは『人類は生きているだけで自他に苦しみを与える劣等生物なのでこれ以上苦しまないために絶滅すべき』と考えていた。


 そして、彼は前述の思想のもと人類滅亡のために安楽会を立ち上げたのだ。


 メンバーの大半はつらい過去を持っており、そんな彼らは他人を勝手に憎み、他人を勝手に憐れむことで殺戮を繰り返していたのだ。


「でも、彼らが命をささげても、人類は絶滅せずにいまだ世界中で多くの弱者が苦しんで悲しんでいるではないか!」


「だから、どうしたって言うんだ」


 もともと組織への忠誠心が皆無だったロッシュが悪態をつく。


「このままでは!人類滅亡のために!命を捧げた!同志たちの想いが!無駄になってしまう!!」


「……」


「あ、そう」

 

 ゴブリノキオ必死の訴えに対し、ザナミは何も言えず、ロッシュは冷たく対応した。


「ロッシュ!これを見てもその態度がとれるのか!」


 ビシャア!!


 そう言ってゴブリノキオは自分の席に置いたコップの中にある紅茶をロッシュにぶっかける。


 ロッシュは紅茶まみれになった。


「あっつい!お前!熱い……ってあれ?」


 しかし、ロッシュは紅茶まみれになっていなかった。


 それどころか、先ほどかけられた紅茶もコップの中に万全の状態で入っていた。


「実はオイラ、この30年の間に巻き戻し前の記憶を保持した状態で世界の時間を少しだけ巻き戻す魔術を作ったんだよね」


「……それマジ?」


「マジっす。ちなみに『タイムリープ魔術』と名付けたっす」


 小物だと思っていたゴブリノキオがとんでもない魔術を作り出していたことを知り、ロッシュは珍しく純粋な困惑の表情を浮かべた。


「ちょっとついてきてほしいッス」


 そう言ってゴブリノキオは会議室を出た。


 ロッシュとザナミも彼の後を追うべく会議室を出た。




「これこそが『タイムリープ魔術の出力を増幅させて時間を35年ほど巻き戻せる魔道具』!愛称は『カムバックナイト』って感じでどうすか!」


 ゴブリノキオが見せたそれは6メトールほどの建物のように巨大な魔道具であった。


「なるほど……魔道具の力で出力を上げることで一気に時を戻すのですね。これを使えば苦しむ人々を無くすことができる……」


 もし、みんなが死ぬ前の35年前に戻ってやり直せれば、今度こそ人類を全滅させることができるかもしれない。


 そう思ったザナミは仮面の下で目を輝かせた。


「それだけじゃ足りないから、1週間にわたるチャージ期間やら使用者本人の魔道具への組み込みとかも使用時には出力増加のために行うよ」


「じゃあ、今から使おうぜぇ!過去に戻って殺戮フィーバーだ!ヒャーハハハハ!!」


「あ、それは無理なんだよね……」


 ゴブリノキオはロッシュの提案を気まずい表情で語る。


「どうやら、タイムリープ魔術は発動者の『過去に戻りたい』という感情の強さによって最大まで巻き戻せる限界があるみたいなんだよねぇ……」


「オマエ程度の中途半端な未練では役不足だったってわけか。ハハッ!ハハハッ!」


「ムカつくけどロッシュの言う通りだ。オイラは人類は滅亡させたいけど過去に戻りたいかって言えばそこまでなんだよね……」


「じゃあなぜ私たちをここに呼んだのですか」


「実は、それがわかった後に改良して『タイムリープ魔術が使えなくても過去に強い未練がある人』を組み込めば大丈夫なようにしたんでね」


「なるほど。それで条件に当てはまる人を私たちに探してほしいのですね」


「その通り!ザナミは読解力が高くていいね!」


「アナタに褒められてもうれしくありません」


 ザナミが師匠譲りの悪態をつく。


「ケケケケ!!ヒャーッハッハッハッ!!ヘッヘッヘッー!」


 話を聞いていたロッシュが唐突に笑いだす。


「うわあ!ロッシュ、急に笑ってどうしだんだい?」


「この笑い方は、いいアイデアを思いついたときの笑い方です」


「そうなんだ……」


 彼の笑い方についてザナミが解説する。

 

「その通りだザナミ!俺、過去に強い未練を持った人間をひとり知っているぜぇ!グライフ王国のロンリネスっていう鑑定士がその分野ではトップクラスだぜ!」


 かつて、ロッシュは鑑定士駆け出し時代のロンリネスから依頼を受けたことがあった。


 その依頼は『自分の店を持つための資金が欲しいので死亡保険と火災保険を受け取るために憎い両親と実家を焼いてほしい』というものであった。


 そして、ロッシュは気分が乗らなかったので、同行していたザナミに依頼の実行を任せた。


 その結果、王都郊外にあった高い塔があったロンリネスの実家は焼けて廃墟になり、ロンリネスの両親は火災に巻き込まれて命を落としたのであった。


「じゃあさ、今から南下してグライフ王国に潜入しよ!そんで、ロンリネス見つけて生け捕りにしようよ!」


「激しく賛成するっ!ヒャハハハハ!!」


「私も同行いたします」


 こうして、ロンリネスは知らないうちにとんでもない奴らに身元を狙われるようになったのであった。

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