救世主の実像
「あっ、どうも……」
第2ステージの間にあった階段を降りて下り坂になっている通路を通る途中、うずくまって水筒で水を飲む青い髪の女性がいた。
「おお!賢人仲間のディフモ殿!久しぶりでござる!」
「久しぶりだね、ディフモさん」
ホムスビさんとマテリアいわく、どうやら彼女は賢人のひとりであるディフモらしい。
前にマテリアから聞いた話だと年齢は約130歳で飲料や水泳を好み、人見知りなのだという。
そして、多くの水に関する魔術を新たに考え出し、世界中の水不足や衛生問題の解決に大きく貢献したらしい。
「ひ、久しぶりです……二人とも、ホムンクルスの調査でしょうか……?」
「まあ、そういうところかな」
「そうでござるな」
「じゃ、じゃあ私もご一緒してもいいでしょうか……」
ディフモさんが上目づかいで僕たちに問いかける。
「大丈夫でござる!」
「いいよ!やっぱり味方が多いと心強いからね。イドルはどう?」
「マテリアと同じ意見かな」
「あ、ありがとうございます……」
こうして、僕たちは4人で調査を続けることになった。
『よくここまで来れたな。ここは第3ステージの間、ここからはアタシの記憶を映像化したものを壁に映しながら進めていくぜ』
第3ステージの間につくと、ナタリスの音声が流れた後で白い壁面全体に3000年前の自然の景色が映し出された。
「そんな高度な魔術が3000年前にもあったなんて……この遺跡には新発見と新事実が多すぎるよぉ……」
ディフモの言うとおり、この神殿にはこれまでの考古学がひっくり返るレベルの新事実が大量に記載されていた。
おそらく、僕たちが外に出た後は多くの学者がてんてこ舞いになるであろう。
『まぶたこじ開けてよく見とけ!今からアタシの姿を映すぞ!』
その音声と共に映像に池の水面が映し出され、そこには神殿の入口にあったナタリス像と酷似した荒々しい恰好をした少女がいた。
『きっと後世の連中はアタシを聖女だの救世主だの言っているが実態はちがう!アタシはただ不死身だっただけの不良少女だ!』
「ふ、不死身……?!不死身って『脳を破壊されても自動的に蘇生する』とされる体質のことで架空の概念だったはずですよね……」
「いや、死亡を感知して事前に記録された情報をもとに肉体と記憶を再構築させる魔道具さえあれば疑似的には可能だとは思うけど……」
「摩訶不思議でござる……」
『不死身』というワードに対して3人の賢人がそれぞれの見解を述べる。
そして、彼女が不良であったことに関しては誰一人として驚かなかった。
『村でも一番のワルだったアタシは、家族の忠告も聞かず、人類絶滅活動を始めて9年目になるセイタンに無謀にも挑んだんだぜ!』
「せ、セイタンのことはいいので、不死身に関する情報教えてください!」
「残念ながら多分これは録音音声なのでこっちの声には反応しないでござる……」
賢人二人がセイタンと戦う映像そっちのけで盛り上がる。
しかし、僕とマテリアは映像に映ったセイタンの姿を見て、言葉を失った。
セイタンは壁画に描かれていた通り、僕と同じ顔を持ち、肉体を様々な形に変化させて戦っていたのだ。
「ねえ、マテリア……これって」
マテリアは何も言わず、ただ僕の手を絡めるようにして握る。
「大丈夫、キミの出自がどんなものであろうと、キミはキミだよ」
その一言で、僕は察した。
おそらく、マテリアはかなり前から僕がホムンクルスであることを察していたのだろう。
そして、その上で引き続き僕を愛してくれていたのだ。
「マテリア……ありがとう」
僕はマテリアに感謝の言葉を述べた。
『アタシはどんな状態で死んでも日の出と共に復活する体質を利用して何度もセイタンに挑んだ!そして、その過程でお互いを理解して
「なるほど、日の出が復活条件になっているとは、ずいぶんとユニークな魔術でござるなぁ」
「な、何度やられても挑み続けるのは、すごいと思います……」
賢人二人が不死身に関して盛り上がる中、『破壊神と救世主が友達だった』という衝撃的な事実が明かされる。
壁面には、セイタンとイタズラし合ったり、一緒に草原を駆けまわったり、セイタンに乗って空を飛ぶ映像が流れる。
『アイツと毎日を過ごすのはとっても楽しかった。やがて、アイツは人類を殺すことよりもアタシと遊ぶことを優先するようになった』
そして、映像は誰もいない街並みが映り始めた。
『一方、人類はセイタンを恐れ続け地底に逃げ始め、地上から人類はいなくなりつつあった。まあ、世界人口を半分以上減らした生物を恐れるのは当然だろうな』
「世界人口の半分以上……」
僕がセイタンの出した被害に呆然としているうちに、映像は夜にセイタンと焚火を囲んでいる場面になった。
『んで、今まで俺様を産業廃棄物呼ばわりしていたバースディーにこう告げて殺したわけ。「産業廃棄物の命乞いなど聞かない」ってな!』
『なっかなか皮肉ブラックな捨て台詞だな!アタシはそんなロマンティックな発言思いつけないから尊敬するぜ!』
当時の会話であろう音声も再生され始める。
『……なあ、ナタリス。オマエは俺様がこの世に生まれてきたことを肯定してくれるかい?』
『肯定するも何も、オマエは今ここにいるだろ。ならそれで十分じゃあないか』
『そっか……』
ナタリスの答えを聞いたセイタンは、全人類の過半数を殺したとは思えないような寂しい顔をしていた。
そして、映像の再生が終わった。
『最後の部屋に案内する前に、この神殿を訪れたオマエたちとしたい約束がある』
第3ステージの間の床が今までよりも厳かに開き、下へと続く階段があらわれる中、ナタリスの音声が今までになく真剣な声色で約束を求める。
『もしも、この後の人生でホムンクルスに出会ったなら、ソイツがこの世に生まれてきたことを拍手で祝福してほしい』
『そして、この後の人生でホムンクルスと出会い、好きになったのなら思いっきり抱きしめて愛を伝えてほしい。そんだけだ』
ナタリスは時を超えて僕たちに二つの約束をさせた。
僕たちは最後の部屋へと続く階段を降り始めた。
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