ロンリネス、国家元首の前で号泣する

「私の名はロンリネス・グレートアイ。同業者の策略によって国を追われた敏腕鑑定士です」


 ロンリネスは廃墟から首都マンドーベルへを目指して北と向かう旅を終え、支配層に取り入るべく自己アプローチをし始めた。


 それを聞く相手はリルフェン共和国の国家元首、リンゼツ大統領。


 身長約180センチメトールの大柄な彼は執務室にて柔らかそうなイスに腰掛け、穏やかな表情で彼のアプローチを聞いていた。


「なるほど。では、事の詳細を教えてください」


「私はかつて、夢に対する挫折と火事による両親の死を乗り越え、グライフ王国にて鑑定の才で地位と名誉を大量に得ていました」


 ロンリネスが客観的に見ても真実であろう経歴を話す。


「しかし、それをよく思わなかった同業者が壮大な策略を企ててしまったのです」


 ロンリネスはウソを語り始めた。


「同業者は独り立ちした私の養子を暗殺者を使って殺そうとし、それが失敗すると暗殺依頼人が私である疑惑がかかるように騎士団にワイロを渡したんです!」


 ロンリネスはかつて自分が憧れていた騎士団を悪者にしてまで自分がかわいそうであることを必死にアピールする。


 それは、温厚かつ慈悲のある性格で知られるリンゼツ大統領の同情を買うための策略である。


「グライフの騎士団は猛烈に腐っており、騎士団員の給料一年分ほどのワイロで不正を働きやがったんです!!あのクソ騎士団は!!」


 そして、それと同時にかつてグライフの国家騎士団を猛烈にけなす。


 もう二度となれない憧れの職業など彼にとっては憎悪の対象でしかなかったのだ。


「まあまあ、ひとまず落ち着いてください」


 60を超えたばかりである大統領がロンリネスをなだめる。


「すまない、少し取り乱してしまった。話を続けよう。その後、私は慈善活動の一環として養子を貰うことにしたんだ」


 再び、ロンリネスが平然とウソを吐き始める。


「そこで、同業者に買収された孤児院長が殴りかかってきて正当防衛した結果、俺だけ逮捕されたんだチクショウ!!」


 なお、実際はロンリネスが一方的に暴力をふるって孤児たちによって返り討ちにされた末に逮捕されている。


「なるほど……それは災難でしたね」


「それから、知り合いの息子がクーデターへの協力を条件に釈放してくれて、そのクーデターが失敗してここに逃げてきました」


 処罰の対象にならないため、ロンリネスはクーデターの流れに関しては落ち伝いた口調で素直に語った。


「事情はおおよそ把握しました。私はあなたがリルフェン共和国に住むことを歓迎します。さあ、握手をしましょう。手を出してください」


 リンゼツがロンリネスに向けて手を出す。


「ありがとうございます」

(チョロイなこのジジイ)


 ロンリネスはゲスな内心を隠しつつ、笑顔でリンゼツの手を握った。


 その時であった。


『ガシャン!』『バチュン!』『シュサァ!』『ベロベロリッ!』


 不可視魔術で潜んでいた4名のリルフェン国家騎士団員がそれぞれ鎖、粘着質の物体、ツタ、カエル型魔物のベロを放出してロンリネスを拘束した。


「ウグアッ!な、なんで……」


「ロンリネスさん、正直に答えてください。あなたは今までどのような罪を犯しましたか?」


 リンゼツの顔から笑顔が消え、温もりを感じない表情が浮かび上がる、


「殺人の依頼、暴行、クーデター未遂……そんだけだ!でも全部ハメられたんだ!信じてください!信じろクソジジイ!」


 急な事態で口調も精神も不安定になるロンリネス。


 そんな彼の視界にリンゼツはとある紙を見せた。


 それは、ロンリネスの国際指名手配書であった。


「あなた、人間製造釜を破壊せずに使ったそうですね……封印した後、取り調べのためにグライフ王国まで送還します」


「待って!待って!そんなのウソだ!絶対陰謀だ!やめてくれ!嫌だ!嫌だ!逮捕なんて嫌だ!」


 ロンリネスが号泣しながら幼子のようにだだをこねる。


「そういえばあなたの養子、出自不明らしいですね……もしかして、作るだけ作って自分勝手に殺そうとしませんでしたか」


「な、なんで、それを……」


 リンゼツは温厚であると同時にすさまじく聡明な男であった。


 そのため、国際指名手配書に書かれてた前科と少ない情報からイドルがホムンクルスであることを察したのだ。


「アッ、アアッ、アウッ……」


 不意打ちで自分の罪を責められ、ロンリネスは絶え間なく涙を流すことしかできなかった。


「……まあ、詳しい誕生と失望の経緯はグライフ王国の取調室で話してください」


 リンゼツがロンリネスを精神的に追い詰めている間にも執務室に次々とリルフェンの騎士団員が入ってくる。


「やめろっ!やめろお!俺はただ、騎士団員になれなりたかっただけなんだぁ!誰にも愛されずに終わるなんて嫌だぁ!」


「本格封印箱、起動します」


 ロンリネスが大幅に取り乱す中、厳重に対象を封印できる魔道具『本格封印箱』が起動する。


 自ら8個に分解した本格封印箱はロンリネスを取り囲み、彼を巻き込んで元の形に戻ることで封印した。


 こうして、かつて多種多様な魔道具を使って暗躍したロンリネスは魔道具の中に閉じ込められることになったのであった。

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