炎の賢人、時差ボケになる

「ううっ……拙者、時差ボケでござる……」


 階段を降りた先の通路で、僕よりも年下と思われる和服の少年がそう言いつつぼんやりと座っていた。


「あっ!マテリア殿、お久しぶりでござる……拙者、ただ今絶賛時差ボケ中の賢人、ホムスビでござる……」


 なんと、少年の正体は賢人ホムスビであった。


 どうやら、賢人同士過去に会ったことがあるらしく、ホムスビとマテリアは面識があるようだ。


「まあ、あんな爆速で東の大陸からここまで移動したらね……」


 ホムスビが生まれ育ち、今も住んでいる東の大陸からグライフ王国等がある中央大陸には船で数日かかるほどの距離がある。


 当然、大陸間で時差も存在しており、それによる時差ボケも存在するのだ。


「それでマテリア殿、珈琲こうひいと呼ばれる黒くて目が冴える飲み物は持っているでござるか……?」


「あいにく持っていないかな……」


「あ、あのもしよければ、これを」

 

 ホムスビさんの状況を見た僕はとっさに左腕に『食べるとコーヒー並みに目が冴えるミカン』を左腕に実らせて彼に渡すことにした。


「おお!こういうタイプの身体変化魔術とは珍しいでござる!300年ほど生きてきた中でも数例しか見たことないでござる!」


 そう言いつつ、ホムスビはちゃっかりミカンを収穫して食べ始めた。


 食後、ホムスビの表情がだんだんとはっきりしていったあたり、効果はあったのだろう。


「金髪青眼の少年、ありがとうでござる!それと、二人の調査に同行してもいいでござるか?」


「いいよ。味方は多ければ多いほど心強いからね。マテリアはどうかな?」


「私もOKかな。この先、見張り用のめちゃくちゃ強い魔物とかいそうな気がするからね」


 こうして、僕たちはホムスビさんと共に破壊神殿の探索を続けるのであった。




『「第2ステージの間」に来てくれたようだな。さてと、ダチの過去を語る前に少し準備運動をしてもらおうか』


 階段の先にあった天井が8メトールくらいある大きな部屋に着くと、再び救世主のものと思われる音声が流れ始めた。


 ゴゴゴッ……

 

 天井が開き、ゴブリンと同じ大きさと体格の魔物が9体落ちてくる。


 しかし、その顔つきは猿よりも犬に近く、明らかにゴブリン系列には分類できない外見であった。


「あれは、今から150年前に野生では絶滅したとされるゴブリンの先祖にあたる魔物、コボルド……実物を見たのは200年ぶりでござる……」


『コイツらはバースディーが『都合のいい奴隷』というコンセプトで作った魔物、コボルド。さっさと片づけてみせろ』


 その音声と共に、コボルドが早歩きくらいの速度で僕たちに向かってくる。


「先ほどの恩、さっそく返すでござる!」

 

 ボシュ!バシュ!


 早速ホムスビさんが瞬く間に両手から青い火炎弾を放ち、コボルド2体を消し炭にする。


 人間は高熱に耐性がないため、魔術で火炎を出すときには同時に耐熱魔術を自分にかける必要がある。


 1万度以上にもなる青い炎とそれに耐えられるだけの耐熱魔術の両立。


 それはまさに、人類トップクラスの魔術を使える者にしかできない神業であった。


「まだまだいけるでござる!」

 

 ボオッ!ボボッ!


 右手から出した青い炎を槍の形にして振り回し、さらに2体を消し炭にする。


「拙者、健脚でござる!」


 ジュッ!シュッ!ジュア……!


 両足の裏から青い炎を出つつ3体のコボルドを蹴って消し炭へと変えていく。


「さあ、この戦いも千秋楽でござるよ!」


 そう言うとホムスビさんは両手に出した青い炎を刀の形にし、全身を燃やし始める。


「火炎魔術奥義・藍染双剣あいぞめそうけん!」


 ザシュ、ザシュウウウウ……!


 そして、火球のごとき速さで最後に残った2体のコボルドを切り伏せ、一瞬で燃やし尽くして炭に変えた。


 コボルド出現からここまでの時間、わずか1分足らずである。


「恩返し、完了でござる!」


 僕が人生で二番目に出会った賢人は、爆速で恩を返したのであった。

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