重なる姿と形

『ここは第1ステージの間、ダチが産まれた時の様子を壁に描いた部屋だ』


 破壊神殿の入口から続く通路を抜けた先には、天井の高さが6メトールほどの広い部屋があった。


 光は少なく、壁面にあるであろう壁画は今のところ見えない。


『じゃ、今からダチが産まれた経緯教えるから、耳の穴ほじ明けてでも聞いとけよ!』


 その音声が聞こえた直後、来た通路から見て向かい側の壁が自動的に照らされ、壁画がはっきりとわかるようになった。


 そこには、老いた男性がフラスコのような釜に赤い石を入れる様子が描かれていた。


 おそらく、釜は『人間製造釜』で赤い石は『賢人石』なのだろう。


 そして、老人の正体はホムンクルスの製造者とされ、月光の賢老と呼ばれる魔術師、『バースディー』であろう。


『まだオルガノン皇国とかいうクソみたいな国があった頃、バースディーとかいう魔術が使えるだけのクソジジイが皇帝からクソみたいな命令を下された』


 右の壁も自動的に照らされ、壁画がはっきりとわかるようになる。


 老人がふくよかな体型の冠を被った男にひざまずく様子が描かれていた。


『オルガノン皇国はロクに国民を幸せにできなかったせいで、少子化による消滅の危機を迎えやがった。まあ、因果応報だな』


「古代にも少子化の概念はあったんだ……」


 僕たちがいるグライフ王国でも少子化は問題になっている。


 ただし、その原因は子供の死亡率の減少がもたらした出生率の低下とされているが。


『だから、傲慢なオルガノン皇帝はバースディーに「人間を簡単に作れる魔道具」の製造を頼んだんだ』


「人間製造釜ってそういう経緯で作られたんだ……」


 現在、人間製造釜の製造理由については様々な説が飛び交っており、真実とされる説が存在しない。


 僕はほとんどの人が知らない真実を知ってしまったのだ。


『そして、バースディーは彼だけが作れる赤くてめっちゃ硬い石を原料に人間を作り出す「人間製造釜」とかいう魔道具を作りやがったんだ』


「魔術が得意な人しか作れない赤くてめっちゃ硬い石……つまり、賢人石だね」


 マテリアが石の正体を即座に言い当てる。


 賢人石とは、魔力最大保有量が100万を越えた人間しか作れない脳みそほどの大きさの特殊な物質である。


 賢人が体内の全魔力を放出して固めることで出来るらしく、内部に賢人本人と同等の魔力を貯め込めることができるらしい。


『そして、賢人石を脳代わりにして人間を作り出そうとした結果、ヒトではない何か……ホムンクルスが生まれちまった』


 その音声と共に左の壁が照らされて壁画が見えるようになる。


 壁画には人間製造釜内部の水中にいる状態で眼を開けた赤子が描かれていた。


『ホムンクルスはバースディーとは全く似ていない綺麗な金髪と青い目を持っていた。ホムンクルスは「セイタン」と名付けられた』


「僕と一緒だ……」


 僕も金髪と青い目を持っていた。


 だからこそ、ますます自分の中にとある疑いが強くなっていった。


 僕は自分こそが現代に生まれたホムンクルスなのではないかと疑っている。


 コクドーが僕の同族を見たことがないことや僕の出自が不明なことが主な根拠である。


『さ、次の部屋に進め』

 ゴゴゴゴ……


 音声と共に床が開き、下に続く階段があらわれる。


 僕は出自への疑いを抱えたまま、下へと進むのであった。

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