救世主がどう見ても不良な件

「ようこそ!ナタリス教皇国へ!……あと、久しぶりだなマテリア」


「うげっ、お久しぶりですハンズ先生……」


 白髪の若そうな女性牧師さんが領土内に着陸した僕たちを歓迎してくれる。


 あと、どうやらその女性牧師さんとマテリアは知り合いだったようだ。


 おそらく、二人の顔つきからして腐れ縁的な何かだろう。


「そこの金髪碧眼少年よ、はじめまして。ワシはナタリス教の牧師兼医者のハンズ・アルムじゃ。キミはマテリアとはどういう関係なんじゃ」


 僕はその名前をマテリアから聞いたことがあった。


 マテリアいわく、10年前に凶悪犯罪者によって左腕を失った自分の欠損再生治療を行い、魔術の師匠になってくれた恩人なのだという。


「婚約者です」


 僕は婚約者の恩人に対し、ぶれることなく真摯に自分の立場を答える。


「あるほどな……あのガキンチョが婚約とは、年を取ると時間の流れは速いのぉ」


「やっぱり、不老になって肉体が若いままでも生まれてから80年経てば精神は加齢するんですね先生」


「レディの年齢を気安く喋るんじゃないよ。全く、背丈と魔力量と胸だけワシより大きくなりやがって……」


 お互い会話には少し毒があるが、二人とも不快な表情になっていないあたり関係はなんだかんだ良好なんだろう。


「あと、ワシはもう祖国で隠居するくらいには精神が老いている上に、オマエと違って魔力保有量も20万くらいしかいないから、破壊神殿にはついていけないぞ」


「心配しなくてもそんなことはしませんよ」


「じゃ、今から破壊神殿に案内するから二人ともワシについてくるのじゃ」


 こうして、僕たちはハンズさんに付いていくことになった。




「さてと、この不良みたいな座り方をしている救世主様の像の後ろにある建造物が破壊神殿じゃ」


 ハンズさんが足を止めた時、僕たちの前にあったのはお行儀の悪い座り方をしている救世主ナタリスの石像と濃紺色の石で出来た約10メトールの建造物であった。


「この不良座りの石像、現存する最古の救世主の偶像なせいで救世主様不良説が出た原因になったのでさっさと破壊したいんじゃがな……」


 よく見たらこの石像のナタリスは他の救世主像と違って眼つきも鋭い上、恰好もかなりアクティブな感じである。


 露出度も高く、ナタリスの性別が女性であることが他の石像に比べてはっきりとわかる。


「まあでも、破壊神を策略で自殺に追い込むような人が清廉潔白で純真無垢とはおもえないですよ先生」


「まあ、その点に関しては同意できるがな……」


 そう言いつつ、ハンズさんは神殿の入口にあ

る『入場禁止』と書かれた柵を横にどけた。


「ハンズ先生、行ってきます」


「行ってらっしゃい、マテリア。あと、この神殿の中にはすでに賢人が二人いるぞ」


 「先生、神殿に入る直前になってかなり重要な情報を言わないでください」


 こうして、僕たちは破壊神殿に入ったのであった。




『オイ、何でアタシのダチの墓に入ってるんだ……さっさと答えろ!』


「うわっ!!」


 神殿に入ってから通路を少し進むと、荒い言葉づかいの女性の音声が聞こえてきた。


 僕はつい驚いてしまった


「ホムンクルスの調査と捜索のため。それ以外の目的はないよ」


 マテリアが淡々と答える。


『まあ、何でもいい……アタシの名前はナタリス。この音声はあらかじめ録音魔術で録音したものを再生しているから、オマエらの言っていることわからねぇしな……』


 録音魔術。


 あらかじめ音を魔道具や脳内に記録した後、それをそのまま後で流す日常的に使う魔術のひとつである。


「やっぱりナタリスって不良だったんだ……」


 マテリアが新たな知見を得ているうちに少し薄暗かった通路に光が灯されていく。


『んじゃ、ダチの墓参り頼んだぜ』


 僕たちは通路の光をたどり、墓参りを始めることになった。


 


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