ロンリネス、最大の禁忌を犯していたことがバレる

「まだ、俺の夢は終わってない……!」


 夕暮れの廃墟の中、ロンリネスは次の計画を練るためにも旅立ちの準備をしていた。




 安楽片道切符使用後のロンリネスが持っていた魔道具は、多数の物品を収納できる魔道具『固有空間ボックス』とその中にある10個程度の魔道具のみであった。


 そして、ロンリネスはマテリアと違って自分で魔道具を作ることはできない。


 もはや、使える手数は当初よりもかなり少なくなっていた。


 しかし、ロンリネスはそれでも折れなかった。


 まず、転移直後に元安楽会の基地だった廃墟の中を探索し、残っている資料からここがリルフェン共和国にあった基地であることを突き止めた。


 次に、彼はなんとかしてリルフェン共和国の支配層に取り入る方法を考え始めた。


 リルフェン共和国はグライフ王国の西の隣国であり、国境には高い山脈がある。

 

 「地理的隔たりを考えれば、養子を殺した疑惑や孤児院での暴力沙汰も伝わってない可能性が高いと見ていいな」


 ロンリネスは感情的にさえなければ意外と頭の切れる男だったのだ。


 本当にもったいない限りである。


 そして、だいたいの国には『別の国でのクーデター未遂は罪に問わない』という暗黙のルールがある。


「なら、問題なく取り入ることができるな。そして、俺の罪はこれですべてチャラになる」


 しかし、ロンリネスは自分が犯した数々の罪の中で一番バレるとマズい罪を勘定の中に入れなかった。


「まあ、に関しては厳重に保管しているからバレないだろ」


 そう言いつつ、彼は引き続きリルフェン共和国の首都であるマンドーベルへと向かう準備をする。


 


 一方そのころ、グライフ王国の王都イグレオにあるロンリネス宅では再度の家宅捜査が行われた。


 逮捕された再建軍のメンバーたちがロンリネスから魔道具を支援してもらったことを供述したためである。


 そして、その過程でロンリネスがバレないと思っていたブツが今、バレようとしてた。


「まさか、応接間の真下に高度な隠蔽魔術で守られた隠し扉があろうとはね……お手柄だよアリーチェ、ロバート」


 トトキが床にある隠し扉を前に、それを見つけた二人の部下を軽く褒める。


「ああ、なんかここだけ妙に素足での踏み心地が違ったのでロバートの魔術で探りを入れたら、……これだ」


 騎士団員のアリーチェは生まれつき足裏の感覚に優れていたため、素足で歩くことで高度な隠蔽魔術が床にかけられていたことに気付いたのだ。


 そして、騎士団員のロバートは絶叫することで隠蔽魔術を一時的に無効化する魔術を先祖からの遺伝で持っていたため、隠蔽魔術を破ることができたのだ。


「さて、開けようか。ひとまず最初は私がハトを送り込んで内部の安全と間取りを確認した後、罠等に気を付けつつ入って捜査を開始しよう」


 トトキは地下につながる扉を開け、魔術で生成したハトに探索の命令を下してから1匹送り込んだ。


「ハトがやられた気配はなし。今からハトと視界を共有する」


 そして、トトキはハトの視界を覗き見しつつ中に何があるのかを逐一言い始めた。


「30年前の国家騎士団での標準装備だった鎧、25年前の騎士団での標準装備だった盾、ロンリネスの名前が書かれた騎士団証明書のレプリカ……」


 地下室にあったのは、今まで誰にも見せたことのないロンリネスの未練の集合体であった。


 彼は自分が騎士になれなくなった後も、騎士団の装備を収集したり証明書のレプリカを作ったりすることで己のいつまでも埋まらない心を満たしていたのだ。


 トトキが触れてはいけない心の暗部を覗いたような気分になったその時、地下室のハトがとある魔道具を視界に入れた。


 そして、トトキはその魔道具をハト越しに見て、一気に青ざめた。




「ウソ……でしょ……!ありえない!ありえない!こんなことがあっていいはずがない!」


 トトキはその魔道具の状況を確認してさらに取り乱した。


「トトキ副団長!とりあえず何を見たかだけでも教えてください!」


「バカ!まずは副団長の心配からでしょ!」


 ロバートとアリーチェが副団長の怯えぶりに心配する。


「ああ、大丈夫……大丈夫。ちょっと良くない魔道具を見てしまっただけだから」


 そう言いつつ、トトキはハトとの視界共有を切って水筒を飲み、脈打つ心臓を落ち着ける。


「アリーチェ、ロバート、キミたちは『破壊神セイタン』を知っているか?」


「はい!知っています!3000年前に人類を滅ぼしかけた最強の生物だと本に書いてありました!」


「ああ、確か古代に『人間製造釜』を用いて生み出された結果、人類を憎んで虐殺の限りを尽くして自殺した『人類が唯一殺せなかった生物』だろ?」


「その通り。正式な種族名は『ホムンクルス』、使い捨て式の巨大なフラスコ型の魔道具『人間製造釜』を使い生まれる最強の生物……」


「……くっ!」


「……まさかっ!」


 二人の騎士団員もトトキが見たものが何だったのかを勘づき、絶望と悔しさの混じった表情をする。


「……さあ、捜査を始めよう」


 3人は建て付けのハシゴを使って隠し、地下への隠しスペースへと降りた。


 そして、最奥部に置かれた使を視界に収めた。




 破壊神の死後、あらゆる地域のあらゆる文明において『人間製造釜の使用』は最大の禁忌とされた。


 それは、再び破壊神セイタンのような存在があらわれた時、人類が全滅する恐れがあったからである。


 もちろん、人間製造釜は現在に至るまで発見されたらすぐに壊されていき、100年前には『もうこの世界には存在しない』とされてきた。


 本体と共に使い方を記した文献も見つけ次第処分され、破壊神再誕のリスクは無くなったと思われていた。


 しかし、今から半世紀ほど前にあらわれた人類の絶滅を目的とする組織『安楽会』は苦難の末に未使用の人間製造釜を見つけてしまった。


 そして、釜を解析することにより、使用するためには賢人しか作れない石『賢人石』が必要であることも彼らは探り当てた。


 だが、賢人石を作らせるために賢人たちを生け捕りにしようとした結果、賢人たちやグライフ国家騎士団などの人類連合軍に返り討ちにされ組織は壊滅。


 彼らが持っていた人間製造釜も18年前にグライフ王国が見つけ、国内トップくらすの魔道具鑑定士であるロンリネスによって処分されたはずであった。


「もう色々深刻すぎて、頭の収集がつかない……だが、これだけは言える!『最強の生物』はすでに生まれてしまった!」


 トトキは使用済みの人間製造釜を他の押収した品とは別の簡易封印箱に入れ、急ぎ足で女王や国の上層部がいる王城に向かった。


 


 後日、高度なテレパシー魔術を用いた国家首脳会談が開かれ、2つのことが決まった。


 ひとつは、ロンリネスを国際指名手配すること。


 もうひとつは、賢人たちにホムンクルス捜索の協力を強く要請することであった。


 そして、そんなことを全く知らずにロンリネスは廃墟から旅立ってしまったのであった。

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