最強の生物VS憂者

「砦を覆うバリアが2つとも消滅したぞ!総員、副団長に続け!」


 アリーチェさんの号令で騎士団は砦内部への突撃を開始した。

 

 騎士団の方々が1階から攻略する中、僕は翼を活かして5階から攻めることにした。


 ちなみに、マテリアはさっきの空論巨人キュクロスで持っていた魔力の約半分を使って疲れたらしく、しばらく休んでから戦線復帰するらしい。


『レンガ壁の破壊に適切な形状を形成します』


 ブレシンガが音声ガイドと共にハンマーのような形状に変化する。


「……わかった。攻めるよ」

 

 僕はブレシンガと自分に言い聞かせるように呟き、急降下してブレシンガで砦の屋根を叩いた。


 ドガラッシャーン!!


 屋根が崩れ、5階にそのまま侵入できるほどの穴が開いた。


 そして、僕は5階の中に知っている人を見かてしまった。


「コクドーくん……」


 間違いない。


 白眼部分が黒い青い瞳『憂眼ユウアイ』を右目に宿したその姿は、コクドーそのものであった。


「おお!イドルじゃん!大きくなったなあ!最大魔力保有量がおっきくなっていたせいで一瞬賢人と勘違いしちゃったぜ!」


 コクドーが僕を視認し、話しかけてくる。


 コクドーの持つ憂眼は相手を視界に入れるとその人の魔力保有量がわかる機能があるのだという。


 具体的に言うと、現時点での最大魔力保有量と現時点で体内にため込んでいるマナの量が数字でわかるらしい。


 そして、自分自身のそれらの数も常にわかるのだという。


「え?!僕そんなに魔力保有量あるの?」


 にわかに信じがたかった。


 賢人と勘違いされるレベルの魔力保有量とはすなわち100万以上である。


 18歳を迎えるまで魔力最大保有量ゼロの自分が急に魔力を貯め込めるようになり、今では賢人並みになっている。


 そんなことがあり得るはずがない。


 でも、起きているのだ。


「ああ!お前は特別だからな!さあ、俺の計画を止めたければ全力でかかってこい!」


「……わかった。今度こそ、僕が勝つ」


 僕は今まで一回も勝てなかった相手と戦うべく、5階に着陸して翼を消し、戦闘態勢をとった。


 


 コクドーは両手にそれぞれ剣を持って戦う戦闘スタイルで僕に斬りかかってくる。


 僕は大剣に変化したブレシンガを両手に持ってそれをいなしつつ、なんとか距離をとる。


「おりゃあ!」


 元に戻さずに生やしたままにしていた第三第四の腕から粘着質のツタを放ってコクドーの拘束を試みる。


「いいね!昔より強くなっている!でも負けないよ!」


 コクドーは強気な発言をしつつ、ツタに巻かれていった。


「まだ!まだまだ!もっとお前の成長を見せてくれ!」

 ブチブチィ!


 コクドーがドジョーのように自力で粘着質のツタを破る。


 そして、再び剣を構えて襲い掛かる。


 ガキィィイン!


 僕は再びブレシンガでコクドーの双剣を抑え込む。

 

 そして、両脚の筋肉を増強し、その左足でコクドーの脇腹を蹴り上げる!


 ドズッ!


「グッハア!いい一撃だね!」


 コクドーが壁に思い切り打ち付けられつつ、僕の蹴りを褒める。


「やっぱりキミ、強いじゃん!」 


「肉体変化魔術が強いだけだよ」


「いや、違う!剣筋がいい!戦闘センスもいい!それらはお前が騎士団員になろうと俺の親父のもとで頑張った成果に他ならない!」


 敵であるにも関わらず、コクドーは僕のことを褒める。


 というか、なぜ彼は再建軍に加担しているのだろうか。


「そっか。ありがとう。それで、どうしてコクドーくんはここに居るの?」


「いい質問だな!俺がこの国の国家元首テッペンになればもっとこの国のポテンシャルを引き出せると思ったからだ!」


「……ってことは、コクドー君が再建軍のリーダーなんだね」


「その通り!俺は、グライフ王国をより良くする男だぜ!さあ、ここからが正念場だぞイドル!」


 そう言うとコクドーは立ち上がって双剣を腰のホルダーにしまい、今度はクロスボウを構え、右目を十字に光らせた。


憂眼ユウアイ魔術、交差髪クロスヘア!」


 そして、その一言と共に僕の右腕を狙った正確な一撃が放たれた。


 それは、余りにも強そうな一撃であった。


 当たれば肉体を貫通しそうな一撃であった。


 だから、あらかじめ肉体変化で右腕に穴を作った。


 その一撃は穴を通過し、無駄撃ちに終わった。


「まだまだぁ!憂眼魔術、交差髪クロスヘア・二連!」


 今度は二発の高速矢が僕の脚を狙ってやってくる。


「えいっ!」


 先ほどの筋肉増強で得た跳躍力を生かし、飛び跳ねてその二撃も避けきる。


「交差髪の効果で威力と狙った地点に確実に当たる効果を付与された矢を避けるとはさすがの戦闘センス!人間離れしているぜ!」


「正直、僕も自分が人間じゃない気がするんだよね!」


 その言葉に噓偽りはない。


 ずっと魔力を貯め込めなかったのに急に貯め込めるようになった上に、その量は人間最強クラスと同格。


 しかも、たとえ先天的に使えたとしても使いこなすには訓練必須の肉体変化魔術を訓練無しで実戦レベルで使いこなせてしまう。


 親元もどこで拾ったのかも不明の出自。


 あまりにも自分自身が怪しかった。


「確かめてみるか?キミの正体を!」


 コクドーが憂眼を強調するかのように右眼の前で親指と人差し指で円を作る。


 僕はそれで憂眼の機能のひとつを思い出した。


 憂眼には魔力保有量以外にも体力の残り具合や相手の種族を見ることができる。

 

 そして、自分自身のそれらの項目を見ることもできるとされている。


 ならば、自分に憂眼を生やせば自分の種族が人間かどうか確認できるかもしれない。


「改造身体、第三眼球、額の憂眼!」


 僕は自分にしては珍しく詠唱を行って肉体変化魔術を発動し、初めて眼を増やした。


 額に第三の眼が憂眼として開く。

 

「こ、これは……!」


 真っ先にコクドーを視界に収めると、その頭上に文字列が現れた。


======

種族:人間

======


「ようこそ、憂眼の世界へ!。今はまだ自他の種族しかわからないが、鍛錬したらもっと様々なことが分かるようになるぜ!」


 コクドーが僕を祝福する中、僕は視界の左上に表示された自分の種族名を見て唖然としていた。


=====

種族:繝帙Β繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ

=====


「なにこれ……読めない……」




「さあ、対等になったことだし、続き行こうぜ!」


 困惑する僕を無視して、コクドーが再び双剣を持って回転しながら襲い掛かる。


 僕はバックステップで攻撃を避けつつ、剣を持っていない方の両手の爪を硬くして槍のように長く尖らせる。


 これは、キュクロスが手を尖らせていたのをみて思いついた技である。


 そして、脚だけではなく全身の筋肉を増強してブレシンガを片手剣の長さにした後、今度は僕から攻めた。


 爪と片手剣、違う性質を持つ二つの攻撃を同時に行うことで相手のペースを崩していく算段だ。


「さすが俺がずっと前から認めていた男……!今までの人生で一人しか見たことのない種族の男……!」

 

「これで、拘束する!」


 僕は爪を長くした腕の爪を短くしつつ、拘束するためにツタを放った。


 今度は粘着性よりも耐久性を重視して生成した。


 ザク!ジャク!ザク!

「剣のネバ付きを気にしないなら、斬り放題だぜ!」


 ツタを片っ端から双剣で斬られるがこれも想定のうちである。


 コクドーがそっちに気を取られている隙に剣を持っている右腕にブーメラン型の硬い果実を実らせる。 

 

 そして、果実を生やした右腕と対になる左腕で収穫し、見よう見真似であの技を発動させる。


憂眼ユウアイ魔術、交差髪クロスヘア!」


 果実に魔力がこもり、視界の中央に十字があらわれて視線がコクドーの方向でロックされる。 

 

「おお!そう来たか!来い!」


 ドシュウウウ!!

 

 僕は、コクドーの腹めがけて思いっきりブーメラン型果実を投げる。


 ドスゥ!


 ブーメラン型果実はコクドーの腹に当たり、止まった。


「初勝利、おめで……とう」


 そして、コクドーは僕が自分との戦いで初めて勝ったことを祝福しつつ、腹に果実が当たった衝撃で失神した。


 数分後、下の階の再建軍を倒したトトキさんたち騎士団の方々が上に上がり、魔道具でコクドーを逮捕した。


 こうして、グライフ王国で起きたクーデターはその日のうちに終わったのであった。

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