金属魔術の奥義、空論巨人キュクロス

「報告します!ラージゴブリン二体、ネクストベヒモス二体、なんか見たことない巨人型魔物が1体あらわれました!」


 砦の前に五体の大型魔物があらわれたことを騎士団員のロバートが大声で全体に報告する。


 彼の言うとおり、砦と騎士団の群衆の間には7メトールくらいあるデカいゴブリン2体と5メトールくらいあるベヒモスみたいな魔物2体、女性のような体格をした12メトールくらいの巨人型魔物がいた。


「マテリア、アンタなら5体ともいけるか?」


 ロバートの先輩騎士団員であるアリーチェさんがマテリアに問いかける。


「10分足らずで全部駆除できるけど、やってもいいかな?」


 その返事は、自信満々であった。


「ならば、やってくれ。アンタが大型魔物の対処を担当することはテレパシー魔術で総員に伝えておくから思う存分に対処してくれ」


「了解。じゃあ、久しぶりにを使っちゃおうかな。みんな、私の半径5メトール以内には入らないようにしてね」


 僕はその一言でマテリアがこれから何をするのかだいたい予想がついた。


 


 かつて、金属魔術は『マナの燃費が悪い』『使いづらい』といった理由であまり研究されてこなかった。


 そのため、マテリアが研究する前までは応用技もほとんど開発されていなかった。


 しかし、今では様々な応用技が編み出され、世に知られている。


 それはなぜか。


 マテリアが次から次へと考案して実用化し、論文として世に出したからである。


 「この技を実戦で使うのは3回目かな」


 そう言いつつマテリアは地面に自作の杖『ギガントルッカ』を刺し詠唱を始める。


「机上、空論、金属巨人、地上、実在、金属巨人、空論巨人キュクロス!」

 パンッ!


 詠唱を終えたマテリアが手で軽く胸を叩くとそれを合図に10個ほどの金属の塊が周囲に現れ、一つに合体して鎧の胴体部分のような形になってマテリアを覆う。


 次に、巨大な腕部と脚部の装甲を模した金属の塊が周囲に生成され。金属操作魔術で浮遊した胴体部分と合体する。


 最後に、鎧の兜部分を模した巨大な金属の塊が胴体部分にくっついてすべての工程が終了する。


 空論巨人キュクロス。


 全長15メトールの巨大な鎧を生成し、中に入って操作する金属魔術の技。


 マテリアが生み出した大量にある金属魔術の技の中でも『奥義』と言ってもいいレベルの大技である。


 

 

『ゴオオオブリイイイイイイ!!』


 まず最初にキュクロスに興味を示したのは2体のラージゴブリンであった。


 ゴブリン系列の魔物は猿と同じくらいの知能があり、金属の有用性もある程度知っている。


 そのため、キュクロスを『デカい金属の塊』と認識にして金属採取のために近づくことにしたのだ。


 キュクロスは近くの人を巻き込まないようにするべく、金属操作の応用で空を飛び、その状態でラージゴブリンの頭部めがけて両腕を高速で飛ばした。


『パージパンチ!』


 キュクロス内部にいるマテリアが拡声機能を使って技名を叫ぶ。


 なお、技名を叫ぶ理由は巻き込み事故を減らすためたしい。


『ゴオッ』

『ゴゴッ』


 ラージゴブリン二体は頭部をキュクロスの腕で撃ち抜かれれ、絶命した。


『よし!ひとまず2体撃破!次はゾウさん!』


 キュクロスの中で大好きな金属に囲まれてうれしいのか、マテリアがいつも以上に上機嫌であった。


 腕を再び結合させたキュクロスは勢いを抑えつつ。地上に着陸する。


 ネクストベヒモスと称された水色のゾウのような魔物2体が、興奮してキュクロスの脚部めがけて突進してくる。


 しかし、キュクロスはビクともせず、逆に脚部にトゲを生やすことでカウンターを行いネクストベヒモスに傷を負わせた。


『エッジフィンガー!』


 ひるんだ隙にキュクロスは指を刃物のように尖らせ、文字通りの手刀でネクストベヒモス2体の身体を次々と貫き絶命させた。


『ゾウさん撃破!さてと、最後はそこの巨人!』


『ユユッ!!ユミィー!!』


 マテリアがキュクロス越しに指さす先には、奇声を上げながら変な踊りを踊る謎の巨人型魔物がいた。


 

 

「あ!思い出した!あの巨人型魔物はユミールタイタンだ!」


 地上にて、僕の隣でキュクロスの観戦をしていたロバートが周囲が驚くような大声で言う。


「ユミールタイタン……?なんだそれは」


「俺の故郷であるドドサベル村付近で数百年前に出現して封印されたとされる魔物です!たしか、詠唱の代わりに踊ることで剣を召喚すると祖父から聞きました!」


「ロバートさんドドサベル村の出身だったんですね……あ、本当に剣を召喚している!」


 ふとユミールタイタンの方を見てみると、さっきまで持っていなかった奇抜な配色の剣を持っている。


『キミ、いい剣持っているじゃん。じゃあ、剣対決とでもいこうか!』


 マテリアの剣対決宣言が地上に響き渡った後、キュクロスは再び空に浮かび10個ほどのパーツに分解した。


 そして、少しパーツの形を変形させてから再び先ほどとは違う結合の仕方をすることで、今度は全長15メートルほどの巨大な剣に変形した。


『ユミィ?!ユミミィ!!』


 想定外の挙動をした相手を見て、ユミールタイタンが驚いている。


 そして、キュクロスはユミールタイタン目がけて大きく振りかぶり、自らを思いっきり振り下ろした。


『フィジカルスラッシュ!』


『ユッ!ミッ!ミミッ、ミィ……!』


 なんとか手持ちの剣でつばぜり合いしようとするユミールタイタン。


 しかし、その程度でキュクロスは止まらない。


 やがて、ユミールタイタンの体力が尽き、姿勢が崩れる。


 マテリアはその隙を見逃さずにさらに攻め込み、キュクロスはユミールタイタンを一刀両断した。


「巨大戦力がいなくなった今がチャンスだ!砦に進めっー!!」


 ユミールタイタンの絶命が確認された瞬間、群衆の先頭の方にいたトトキさんが突撃命令を出す。


 空論巨人キュクロスの登場から約5分後、ついに国家騎士団によるバジーク砦への突撃が始まった。

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