ロンリネス、クーデターに協力したことを後悔する

「クーデターなんかに協力しなければよかった……」


 バジーク要塞の1階にて、ロンリネスは自分の選択を深く後悔した。


 

 

「もしもクーデターに協力してくれるなら、釈放してあげる上に国家転覆後は無条件で騎士団員にしてやってもいいぜ」


 一週間前、漁港都市コントラの拘置所に囚われていたロンリネスのもとに『憂者ゆうしゃ』と名乗る右目に眼帯をした一人の男がやって来た。


「い、いいのか?その程度のことで俺は騎士になれるのか!?する!するする!協力する!!」


 人生が上手くいかな過ぎて精神が崩壊しかけていたロンリネスは『騎士団員になれる』という一言に食いつき、憂者に協力することを誓った。


 その後、表の顔が騎士団員だった憂者のおかげで釈放されたロンリネスは自宅にあったクーデターに仕えそうな魔道具を憂者にこっそりと提供した。


 そして今朝、憂者は自らが率いる団体『グライフ再建軍』を率いてバジーク砦を乗っ取ったのだ。


 しかし、ロンリネスは後悔した。


「気合いだ!根性だ!努力だ!」

「根性があれば賢人が来てもどうにかなる!」

「ド級の根性、ド根性で国の政権てっぺん獲るぞ!!」


 根性論極まりない軍のメンバーの発言がそこら中から聞こえる。


 そう、グライフ再建軍もとい憂者は根性論で動く無計画集団だったのだ。


 釈放されたことである程度精神が落ち着いて冷静になってきたロンリネスは、自分の選択を後悔することになったのだ。


 


「なあ、憂者。今回のクーデターの勝率ってどのくらいなんだ?」


 根性論が周囲から聞こえまくる中、ロンリネスは近くにいた憂者に声をかける。


「1%ってとこだ。でも、絶対に負けねえ!ド根性で1%を掴んでやる!」


 ロンリネスは絶望した。


(この男、圧倒的にクーデターに向いていないだろ……)

「それで、その1%って政府側に賢人グラフィッカが協力した場合か?」


 ロンリネスは内心で愚痴を吐きつつ、再度質問をする。


 ロンリネスは王都に賢人がいること、その賢人が金属魔術が大好きで大得意であること。そして名前がマテリア・グラフィッカであることは知っていた。


 なお、イドルとマテリアが親密な関係であることはこの時点ではまだ知らない。


「いや、その場合はさらに下がって0.1%になる!だが、根性で0.1%を掴んでやるぜ!」


 ロンリネスはさらに絶望し、後悔した。


 こんなヤツに協力しなければよかったと。




「報告します!賢人と思わしき人影が騎士団の陣地に入りました!」


 最上階である五階から降りてきたであろう再建軍のメンバーが憂者に絶望的な報告を行う。


「も、もうこのクーデターはおしまいだ……」


 ロンリネスは事態の深刻さをとっさに理解し、諦めと絶望が入り混じった言葉を吐き出した。



 ロンリネスはマテリアの金属魔術の技量がすさまじいこと知っていた。


 5年前、ロンリネスはオークションで『シンプルカッタ』という名前がついた一本の剣を落札した。


 彼はその剣を「一流の鍛冶職人が時間をかけて丁寧に作りあげた品」と予測していた。


 落札後、鑑定用の魔術も使いつつ剣をじっくりと観察したロンリネスは驚いた。


 その剣は材料の生成含めてたったの数時間程度で完成したものだったのだ。


 しかも、作る際に鍛冶師は関わっておらず、すべて一人の人間による金属魔術によるものだったのだ。


 ロンリネスは困惑した。


 彼の予測と実際の鑑定結果が違うことはめったに起きなかったからである。


 あまりの剣の質の良さに、ロンリネスは惑わされてしまったのだ。


 のちに、騎士団の騎士にその剣を売る際、ロンリネスは剣の制作者の名前と年齢を知り、再び困惑した。


 そして、その数年後にマテリアは魔力保有量が100万マナを超え、人類史上5番目の賢人になったのだ。


「おい!再建軍の根性バカども、これを使って賢人を消耗させろ!」


 ロンリネスは事態を少しでも好転させるべく、大型の魔物を封じ込めている正方形型の魔道具『モンスターチェスト』を5つほど再建軍のメンバーに渡した。


「その魔道具を思いっきり投げつければ大型の魔物が出てくる!それで時間を稼いでいるうちに俺が対賢人用の結界を張る!」


「「「押忍オス!!」」」


「返事はいいからさっさと上の階に上って外に向かって投げろ!!」


 ロンリネスはそう言いつつ、4つのパーツに分割して持っていた結界を張るための魔道具『バリアキット』を組み立てて起動する。


 そして、解放軍のメンバーがきちんと魔道具を使ったかどうか確認するべく五階に上がったロンリネスは、ものすごい光景を見ることになった。


「おい、あの金属で出来た巨人はいったい……」


 鉄格子の窓越しにロンリネスが見たのは、モンスターチェストから放たれた大型魔物を15メトールほどの金属製の巨人が蹂躙する図であった。


 ロンリネスは事態の詳細を察し、あらためてクーデターに協力したことを後悔した。

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