ロンリネス、王国全土の孤児院でブラックリスト入りになる

「養子を殺そうとした疑惑のある人に、うちの大事な子供たちを託すわけにはいけません」


 イドルがドドサベル村で伝説を作っていた頃、ロンリネスは孤児院で新しい養子を貰おうとしていた。


 しかし、イドルを殺そうとしていた疑惑のせいでどの孤児院でも門前払いされていたのだ。


「……はい。わかりました」

(クソッ!もうクソガキでもいいから俺にくれ!)


 ロンリネスは薄っぺらい紳士的な態度を崩さないようにしつつ、心の中で激怒していた。


 その後、イライラが収まらなかったロンリネスは、八つ当たりとしてイドルと戸籍上でも縁を切る手続きを行ってなんとか自分を落ち着かせた。

 


「さてと、さすがに王都の外までは俺の悪評は広まってないだろう……」


 数日後、ロンリネスは馬車に揺られて海沿いの大きな街に来ていた。


 王都の全ての孤児院で孤児の引き取りを断られた結果、ロンリネスは意外と聡明な頭でこの事態に対する対策を考えた。


 その結果、王都から東に進む馬車で2日かかる場所にある漁港都市コントラに来たのであった。


 コントラは王都イグレオに次ぐグライフ王国第二の都市である上にイグレオから少し距離がある。


 そのため、自分の悪評を知らない状態の孤児院がたくさんあると思ったのだ。


「さてと、まずは馬車の停留所から一番近いこの『ナンデー園』を訪れてみるか」


 ロンリネスは地図を見ながら停留所もよりの孤児院へと向かっていった。




「本日はどのようなご用件で?」


 ナンデー園の園長さんがロンリネスに問いかける。


「自分の商売の跡継ぎを用意するために養子を貰いに来ました」


 もちろん、ウソである。


 彼の本当の目的は、騎士になることで自分のコンプレックスを癒してくれる自分にとって都合のいい養子を貰うことである。


「なるほど。では、中へどうぞ」


 温和な笑顔の園長に案内され、ロンリネスは子供たちが暮らす場所へと入っていった。


「ここでは、7歳から17歳までの親を亡くしたり捨てられた子供たちが育てられています」


 ロンリネスは園長の話を聞かずに鑑定で鍛えた観察眼で20人ほどいる子供たちを一人ずつ吟味していく。


 彼の理想は、約半年後に行われる騎士団入団試験で即座に合格できるだけの才覚を持っている15~17歳の男女である。



「あそこで花びらを自分の魔術で生成しているのがフラワス君、17歳でとっても面倒見がよくて優しい男の子なんですよ」

(おそらく、体格的に15~17歳の子供はコイツとコイツとコイツの3人だな……)


 園長が子供たちを一人一人紹介している間にもロンリネスは話を聞かずに養子候補を絞っていた。


 その結果、ロンリネスは筋肉質で年下の子供たちに勉強を教えている推定16歳くらいの日焼けした少女を養子にすることを決めた。



「あの、そういえばあそこの黒いノースリーブの女の子って名前なんでしたっけ」


 聞いたけど忘れたフリをしてロンリネスは院長に少女の名前を聞く。 


「ネゴアさんですね。子供たちに物事を教えるのが得意で、運動にも長けています。年齢は16歳ですね」


「なるほど。では、その子を養子にしたいのですがいいでしょうか?」


「わかりました。……ただ、最後にひとつだけ答えてほしい質問があります」


 そう言ったとたん、温和だった園長の顔つきが途端に真剣なものになる。


「ロンリネス・グレートアイさん、あなた確か18年前にどこからともなく拾ってきた赤子を跡継ぎとしてすでに養子にしていましたよね」


 園長の真剣な表情が静かな怒りを含んだ鋭いものになる。


「……あのお子さん、あれからどうしましたか」


「……くっ」


「私、あなたが最近やったこと知っているんですよ。あなたの疑惑は王国全土の孤児院で共有されているので」


「あれは、疑惑だ……」


 ロンリネスの額からダラダラ流れ出る汗がそのことが疑惑ではないことを堂々と語っている。


「養子が自分の思い通りに育たなかったからって、家から追い出して殺そうとするなんて……あなた本当に人間ですか?」


「憶測でものを言うなっ……!王都の三流新聞にもそんなこと書いてないだろっ!」


「では、なんで冷や汗と涙をドバドバ垂れ流しているのでしょうねぇ……」


「ううっ……ううっ……これは、タマネギがっ……」


 あまりにも焦りすぎてトンチキな言い訳を言い出すロンリネス。


「エゴイストにうちの可愛い子供たちを託される権利はありません。お帰りください」


 ロンリネスはすでに我慢の限界であった。


「……この、クソハゲニヤニヤジジイイイイイイイ!!!!」


 社会的地位も理性も何もかもを捨て去り、ロンリネスが園長に殴りかかった。


 今までずっと薄っぺらい紳士ごっこで隠してきた短気さが、ついに民衆の前に顔を出したのだ。


「園長に乱暴するなああああ!!」


 園長を助けるべく、ネゴアがロンリネスを突き飛ばした。


「アアアアアア!!!!」


 年甲斐もなく全力で叫び、暴力を邪魔された不満を表現するロンリネス45歳。


「舞い散れ、接着し、覆いつくせ!花弁拘束!」


 しかし、その幼稚な癇癪かんしゃくによる暴虐もフラワスによって発動した花弁魔術の技で全身に花弁を貼られて拘束されたことで終わることになった。




 その後、ロンリネスはコントラに常駐していた国家騎士団によって現行犯逮捕され、コントラの拘置所に入ることになった。


「今頃イドルは戸籍上でも俺に縁を切られて絶望しているだろうな……ヘッヘッヘッ」


 もはや、ロンリネスは縁を切った息子の不幸を想像することでしか精神の安寧を保てなかった。


 イドルがどんどん人間として立派になっている中、ロンリネスは人間としてどんどん惨めになっていくのであった。

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