魔物駆除と克服と勝利

「あ、もしも魔物駆除されるのでしたら私が魔物の巣がたくさんある場所まで案内しまーす!あと駆除も手伝います!」


ゴンゴンゴーン!


 僕たちが村から出た直後、後ろから鐘の音と共にジョヤさんの声が聞こえた。


「じゃ、お言葉に甘えちゃおっか!」


 マテリアがそう言うとジョヤさんは駆け足で僕たちの元へ寄っていった。


「わかりました!じゃあ、私が使える魔術の説明をしながら巣まで案内しますね!」


 こうして、僕たちはジョヤさんについていくことになった。




「実は私、先祖からの遺伝で『鐘音しょうおん魔術』が使えるんですよ」


 ゴーンゴーン


「こんな感じで、任意のタイミングで自分の身体から鐘の音を鳴らすことができるんです」


「村長が話しているときに鳴る鐘の音、村長さんの身体から鳴っていたんだ……」


「そうです!いざという時に備えて日ごろから鐘の音を出す訓練をしているのです!」


 ゴンゴン!


 自信満々な鐘の音がジョヤさんの身体から鳴る。


「で、この魔術の技のひとつに『魔鐘エビリティベル』というものがありまして、これを使うと私のもとに魔物をおびき寄せることができるんです」


「なるほどね。つまり、それを使って巣にいる魔物をおびき寄せて一気に駆除するということだね」


 マテリアが聡明な頭脳でジョヤさんのとろうとしている作戦を理解する。


「そう、そうです!」


「あの……それってジョヤさんが危険なんじゃ……」


 僕はとっさに感じたリスクを口に出す。


「あ、それは大丈夫です!私、『聖鐘ホーリーベル』という魔物を追っ払う技も使えるので!」

 

「そういう技もあるんだ……」


 そうこうしているうちに僕たちは洞穴の入口にまでたどり着いた。


 


「準備はいいですか?」


 僕たち二人の後ろでジョヤさんが問いかける。


「私は大丈夫!イドルはどうかな?」


 全身をフルアーマーで武装したマテリアが僕に問いかける。


「こっちも大丈夫!」


 僕はいつもより少し筋肉質かつもう一対腕が生えた状態の身体でブレシンガを持った状態で準備万端であることを知らせた。


「じゃあ、行きます!」


「魔性、魅惑、妖艶の鐘、魔鐘エビリティベル!」


 ジョヤさんが魔術発動のために詠唱を行った。


 魔術は特定の文言を唱えたり特定の動作をするなどの事前動作を効果発動の条件にすることによって魔力の消費を節約することができる。


マテリアもまだそんなに魔力を持っていなかった頃は大技発動時に詠唱を行っていた記憶がある。


 ゴオオオオオン……ゴオオオオオン……


 詠唱を終えた直後、重低音の鐘の音が彼女の身体から響き渡る。


 すると、洞穴の方向から僕たちの方面に向かう複数の足音が聞こえ始める。


 タッタッタッ


『『『ゴブッ!ゴブッ!』』』


 まず、緑色の肌と人間の半分の背丈を持つ生態がサルに似た魔物、ゴブリン10体ほどが駆け足で僕たちのもとにあらわれる。


『ワタシの切れ味は抜群なので、あまり力を入れずに切っても致命傷になるはずです!』


 ブレシンガの音声ガイドが戦闘に際してアドバイスをくれた瞬間には、もう僕はゴブリン3体に致命傷を負わせていた。


 ドシュ

 『ゴブッ……』


 ドシュ

 『ゴブッ……』


 マテリアも咄嗟に作った尖った金属片を金属操作魔術でゴブリンの頭に遠隔で刺すことによって次々とゴブリンを駆除していった。


 なお、マテリアが戦闘で生み出す金属は生成時の魔力節約の都合でしばらくすると消えるらしい。


 こうして、僕たちはゴブリンを倒していった。




 『『『ゴッブゴッブ!!』』』


「次は亜種の『岩肌ゴブリン』か……」


 ゴブリンをすべて片づけた後、岩のように硬い肌を持つ岩肌ゴブリンが20体ほどあらわれた。


 おそらく、先ほどのゴブリンと同じ群れのメンバーなのだろう。


『お任せください。岩肌を砕くべく大幅に変形いたします』


 ブレシンガが岩肌ゴブリンの肌を砕くべくハンマーのような形状になった。


 マテリアも岩肌に対応すべく即席で金属製の無骨なハンマーを作り上げた。


 ドンッ!

『ゴッ』


ドンッ!

『ゴッ』

 

 僕とマテリアは断末魔をあげる隙すら与えずに次々と岩肌ゴブリンの頭を砕いていく。


 あらかじめ第三、第四の腕を生やしていたおかげで、相手の胴体を両腕でガッシリ掴んでから頭を砕くことで安定してとどめを刺すことができた。


 砕く、次の岩肌ゴブリンのもとへ走る、砕く、次の岩肌ゴブリンのもとへ走る。


 それを繰り返しているうちに、岩肌ゴブリンはおおよそ一掃できた。


 


『ゴオオオブッ!ゴオオオブッ!』


 岩肌ゴブリン一掃直後、同居していた通常ゴブリンや岩肌ゴブリンの敵討ちを行うかの如く、四足歩行の巨大なゴブリンが洞穴の中から出てきた。


 間違いない。


 あれは群れのボスだったメスのゴブリンが加齢で突然変異した特殊な魔物、『クイーンゴブリン』である。


 圧倒的な繁殖力と戦闘力を持つとされており、戦闘のプロである騎士団員1人でようやく倒せるとされる魔物である。


 今ここでクイーンゴブリンを駆除できれば、来年に村を襲うゴブリンをかなり減らすことができる。


 そして、めったに巣から出てこないクイーンゴブリンを駆除できるチャンスは今しかない。


『ゴオオオブッブッ!!!』

 ビシュウウウウウウウ!!!!


 クイーンゴブリンがジョヤさんの方角に口から唾液をビームのごとく高速噴射する。


 マテリアはとっさに要塞のごとき壁を生成し、ジョヤさんを唾液噴射から守る。


「この魔物と戦っている間は、私が村長の護衛に回ったほうがいいかも」


 僕は考えた。


 クイーンゴブリンを倒すには村長さんを守る人が必要だ。


 僕が使える魔術や持っている魔術では唾液噴射を確実完璧に防ぐことはできないため、村長はマテリアが守るのが最善であろう。


 しかし、僕なんかが単騎でクイーンゴブリンを倒せるだろうか。


 騎士団員が倒すのに苦労する魔物を、騎士になれなかった僕が倒せるだろうか。


 コンプレックスに由来する冷や汗が僕の顔にしたたり始める。




「イドル、頑張れ!大丈夫!キミならいけるよ!」


 マテリアの応援が僕の耳に入る。


「頑張ってください!私はあなたを信じています!」

 ゴンゴンゴン!


 ジョヤさんの応援と鐘の音が僕の耳に入る。


『大丈夫です!クイーンゴブリンの駆除難易度はベヒモスと同程度。アナタの実力ならほぼ確実にいけます!』


 さりげなく剣の形に戻っていくブレシンガの応援が僕の耳に入る。


「……そうだよね。こんなに応援されちゃったらベストは尽くさないと」


 僕は最強の姿になる覚悟を決めた。


改造身体かいぞうしんたい、六翼、六腕、熾天阿修羅態してんあしゅらたい!」


 魔力節約のためにあえて唱えた詠唱が終わるなり、僕の身体に変化が起きる。


 より筋肉が発達し、4本腕の状態からさらにもう一対の腕が生え、6枚の翼が生える。


 僕なりに考えた、最強の僕へと身体が変わる。



 バシュッ!

『さあ、行きましょう』


 音声ガイドを聞く前に、僕は地上を飛び立った。


『ゴオオオブッブッ!!!』


 空中の僕にめがけて唾液噴射が飛んでくる。


 僕は6枚の翼でそれを器用によけつつ、一番下の左腕にトウガラシを生やして一番下の右手でもぎ取って持つ。


『唾液噴射をしたことで一時的に隙が出来ました。今こそ頭部を攻撃するチャンスです!』


 そして、真ん中の両手で持ったブレシンガを急降下してクイーンゴブリンの額に突き刺しつつ、一番下の右腕でクイーンゴブリンの口にトウガラシを突っ込む。


『ゴブッ、ゴゴブッ!』


 クイーンゴブリンがトウガラシの辛さでむせ始め、さらなる隙が出来る。


『さあ、思いっきりいっちゃってください!!』


 僕は再び上空に上がり、6枚の翼を活かした高速急降下でクイーンゴブリンの額とその下にある脳を刺す。


 そして、二本の腕でブレシンガを刺し続けつつ、残りの4本の腕でまだ暴れるクイーンゴブリンの額にしがみつく。

 

『ゴッ……ゴォ……』


 やがて、クイーンゴブリンは静かに息絶え、その身体は緩やかに消滅し始めていくのであった。




「勝った……僕、騎士が苦戦するほど強い魔物に勝ったんだ……」


 腕六本翼六枚のまま、放心状態になった僕にマテリアとジョヤさんが駆け寄る。


「イドル、やったね!」


「イドルさん、クイーンゴブリンの討伐ありがとうございます!」


 ドドサベル村の魔物駆除は、心地の良い勝利で終わったのであった。

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