ドドサベル村救済編

最強の二人、入村

「長時間空を飛んでいる気分はどうかな?」


「風を、いっぱい感じられて気持ちがいい」


 僕は今、背中に生やした大きな二枚の翼でマテリアと共にあぜ道の上空10メトールを飛んで移動している。

 

 なお、マテリアもベヒモス戦のときのようにフルアーマー状態と金属操作魔術の合わせ技で空を飛んでいる。


「目的地って、確かドドサベル村だったよね?」


「そうだよ。収穫期前に作物を狙って現れる魔物たちの駆除が僕たちの目的なんだって」

 

 僕たちの目的地は王都イグレオ近郊の山奥にある集落『ドドサベル村』である。


 ドドサベル村は斜面のせいで馬車が絶対にたどり着けず、やたら硬い魔物が近くに住んでいるせいで滅多に外部の人間が来ないのだという。


 なぜ僕たちがドドサベル村に向かおうとしているのかはちゃんとした理由がある。




 空を飛び始める数時間前、僕は久しぶりに近所の冒険者ギルドという施設に行った。


 なお、暗殺未遂の件があったので念のためマテリアも同行している。


「さてと、なんかいい感じの依頼ないかな……」 


 冒険者ギルドには多数の多くの依頼が集まる。


 依頼を出すのは個人だったり企業だったり市町村だったり国家だったりする。


 そして、ギルドに集まった人たちが自分がこなせそうな依頼を見つけて受託するのだ。


 僕は依頼がまとめられた施設内の掲示板を見て自分が行う依頼を探す。


 なお、依頼を行おうとした理由はいつまでもマテリアのヒモ状態になるのに罪悪感を感じてしまったからである。


「……これだ」


 しばらくして、ピンときた依頼を見つけた。


 その依頼は『ドドサベル村の収穫期前を狙う魔物の駆除』と題されており、依頼者はドドサベル村そのものであった。


「この時期に収穫期前の作物守る系の依頼が残っているのは珍しいね。どの集落も数日以内に受託されるくらい人気なのに」


「まあ、理由はわかるよ」


 僕は騎士団入団試験の筆記対策のためにグライフ国の地理はおおよそ覚えている。

 

 だから、ドドサベル村の依頼が残ってしまった理由が必然的なものであることはすぐに理解できた。


「この村、交通アクセスが悪い上に周辺に生息する魔物も硬くて知名度も低いから、みんなめんどくさがって依頼を受託しなかったんだと思うんだ……」


 他の依頼よりも条件が悪くて残ってしまった依頼を、僕はかつての自分と重ねてしまった。


 そして、僕はその依頼を受託することにしたのだ。




「「「ようこそ!!ドドサベル村へ!!」」」


 村に着陸するなり、僕たちの身体に大量の紙吹雪と歓迎の言葉がかけられた。


「わざわざ空を飛んでまでこの村に来てくださってありがとうございます!」


 年配の方が多い村民たちの中から出てきた小柄な少女が僕たちの前でお辞儀をして感謝の言葉を述べる。


「もしよければこの村に来た目的を教えてください!目的によっては最大限協力します!」

 

「ト、ドドサベル村の収穫期前を狙う魔物の駆除の依頼を達成するためかな……」


 僕は少女の勢いの良さについタジタジになってしまった。


「「「よっしゃあああああああああ!!!これで食糧難から解放されるうううううううううう!!!」」」


 僕の目的を聞いた瞬間、村民たちが老若男女問わず一斉に大喜びした。


 そして、『食糧難』という言葉からしてこの村の状況は想定以上に深刻なことになっている可能性が僕の頭をよぎった。


 村民の方々をよく見たら全体的にやつれている気がする。


 もしかしたら、魔物に収穫物を食い荒らされた影響なのかもしれない。


「あ、もしよければこれを」


 気付けば僕は自分の服の中に仕込んでいた非常食用の豆粒を村民の少女に渡していた。


「あっ、ありがとうございます!!本当に食糧が足りなくて困っていたんです!!」


「いえいえ、僕が渡せる食糧なんてこの程度しかないので……」


 少女が深々と何度もお辞儀をする。


 隣を見ると、マテリアも鎧の中に仕込んでいた食糧を村民たちに渡していた。


 しかし、これでもまだ足りなさそうなことは村民の人数と渡した食糧の数からして明白であった。


 たとえ、この後自分たちが魔物を駆除しても食い荒らされた食物は戻ってこない。


 なんとかして、もっと食糧をあげることができれば……


「……待てよ」


 僕は思い出した。


 自分は普段、既存の動物を参考にして身体を変化させている。

 

 鳥のような翼、猫のような耳、狐のような尻尾……

 

 その理屈を応用すれば、自分の身体に栄養満点な野菜や果物を実らせることができるのではないだろうか。


 そのことを考えるなり、僕は腕に植物の茎を生やし、そこから小型トマトのような果実を実らせた。


「おお!トマトが!トマトが身体から生えてきた!」


「奇跡じゃ!こんな高度な魔術があろうとは!これで食糧問題はなんとかなるかもしれない!」


 村民の方々が僕のトマトを見て喜ぶ。


「マテリア、このトマトって人に食べさせても大丈夫なやつかな……」


「イドル、魔術は自分の願望を具現化するものらしいよ。キミはトマトをどんな願望で生やしたのかな?」


「『栄養満点の果実を生やしたい』かな」


「じゃあ大丈夫!」


 それから、僕は何度も多種多様な野菜や果実を身体に生やして1時間程度でドドサベル村の食糧問題を解決したのであった。




「よかったね、みんな喜んでくれて」


 自分が作った食料を村の食料庫に入れるのを手伝っている僕に、同じく手伝いをしているマテリアが話しかける。


「……うん、たくさんの人に感謝されることが今までなかったから、なんだか恥ずかしいや」


「そっか。そういえばさ、魔力いっぱい使ったことで急激に疲れたりとかはしていない?」


「いや、そこまでは疲れてないかな……」


「そっか。でも、無理は禁物だから、疲れた時は素直に言ってね」


「うん、わかった」


 食料をすべて運搬し終わったとき、僕たちの前に入村時に率先して歓迎してくれた小柄な少女があらわれた。


「本当に色々とありがとうございます!お二方の活躍はドドサベル村の村長である私、ジョヤが末代まで村で語り継ぎます!!」


「いえいえ、そこまでしなくても……って村長さん?!」


 僕は驚いた。


 あきらかに僕たちよりも年下と思われる少女が村長だということに。


「はい!私こそがこの村の村長です!」


 ゴーン!


 どこからともなく鐘の音が鳴る。


「そういえば、お宿の方は相部屋で大丈夫でしょうか」


「大丈夫ですよ。僕たち婚約者同士なんで」


 僕は左手の薬指にはめている婚約指輪に軽く触れつつ、相部屋の許可を出す。


 マテリアも少し頬を赤らめてジョヤさんに対してうなずく。


「なるほど、じゃあ相部屋にしておきますね!それじゃあ、お幸せに!」


 そう言ってジョヤさんは村の役場へと立ち去っていった。


「じゃ、そろそろ依頼を果たそっか!」


「……うん!」


 午後2時ごろ、僕たちは周辺の魔物を駆除するべくドドサベル村を出た。

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