僕とキミが出会った日のこと
僕は今、大事なものを回収するべくマテリアや騎士団の副団長と共に追放された実家の前にいる。
「…じゃあ、いこっか!」
「うん」
僕とマテリアは主が逮捕された実家へと足を踏み入れた。
「手短に言おう。数日前、キミの養父であるロンリネスが逮捕された」
今朝、国家騎士団の副団長であるトトキさんが家にやってきた。
薄紫髪を持つきりりとした女性であるトトキさんは、毅然とした雰囲気で僕たちに衝撃の事実を告げてきた。
「……どうやら、ロンリネスには暗殺者とベヒモスを使ってイドルを暗殺しようとした疑惑がかかっているようだ」
「あのゾウさん、ロンリネスが解放したのか……」
「いや違う。同行していたマテリアが賢人であることに気付いてビビった暗殺者が逃げるついでに解放したようだ。」
「なるほどね……ちなみに暗殺者の方は捕まったのかな?」
「もちろん捕まった。というか、ロンリネスが捕まったのも暗殺者が依頼人の情報をすぐに自白したからだ」
正直、ロンリネスさんが僕を殺そうとしていたのは疑惑どころか確実だろう。
いつも何かに対して猛烈な怒りを抱えていたあの人なら十分ありえる。
自分に向けられているであろう殺意を感じて、僕は無意識のうちに震えてしまう。
「大丈夫だよ……近くにいるときは私が守ってあげるからね……」
マテリアが震える僕の背中を優しくなでて落ち着かせようとする。
「ごめんね、マテリア。弱虫な僕で……」
「いや、イドルは決して弱くははない。身体変化魔術を実戦レベルで使いこなせる時点で一般的な騎士と同等かそれ以上の強さはあると見ていいだろう」
トトキさんが僕の戦闘力に関して見解を述べる。
「ありがとう……ございます」
「お礼なんてしなくていいよ。ただ自分なりの主観を述べただけなのだから」
「さてと、ここからが本題なのだが、昨日にロンリネスの家を家宅捜索したところ、イドルの私物と思われる物がまだあの家に残っていることがわかったのだ」
「僕の……私物」
18歳になったあの日、僕はやたら粗末な朝食を与えられた後、追放を宣言されて自室に戻って荷物を整える間もなく家を追い出された。
だから、マテリアに保護された時は通貨すらもっていなかったのだ。
「すでに家宅捜索は終わり、証拠なる物以外は家に返した。今、副団長である私の立ち合いのもとで家に入ればイドルの私物を回収できる。どうする?」
「……回収、したいです」
僕はいつもの自分からは想像もつかないほど芯のある強い声で、自らの意思を表示した。
「了解。では、早速行こう。今日中に回収しないと明日にはロンリネスが釈放されるかもしれないからね」
そして、僕たちはロンリネスの家もとい元実家へと向かうことになった。
実家に行くまでの道中、僕はマテリアに初めて会った日のことを思い出した。
10年前、相手に立ち向かう勇気が足りずに剣術の家庭教師の息子との練習試合で負け続けた8歳の僕は養父に往復ビンタを食らわされ、泣きながら家を出た。
拭いても拭いても涙が止まらない自分が情けなくなり、さらに涙が出る僕の眼に、同じくらい泣いている女の子が映った。
濃い緑色の髪の毛と赤い瞳を持ったその女の子には、左腕がなかった。
「だいじょうぶ……?どこかいたかったらお医者さんよぼうか?」
「キミも泣いている……だいじょうぶ?」
幼い僕とマテリアは泣きながらお互いを心配することになったのだ。
そのあと、泣き止んだマテリアはなんで泣いているのか理由を教えてくれた。
彼女は1か月前に凶悪犯罪者である『解放のロッシュ』に祖父と共に襲われ、その時に左腕を食いちぎられたのだという。
そして、『五体満足じゃないと結婚できない』という偏見を持った親によって四肢再生魔術が適用できるようにするために無茶な魔術訓練を強いられていたのだ。
「うう、このままじゃだれもお婿さんになってくれないよ……」
四肢再生魔術を使うには大人と同じ魔力保有量である1万マナを確保する必要があった。
平均魔力保有量がおおよそ500マナである8歳の子供にとって、その目標はあまりにも高すぎた。
泣いているマテリアを見て、当時の僕はとある一言を切り出した。
「じゃあ、ぼくがお婿さんになる」
「……え?いいの」
「うん、いいよ。なんか僕もけっこんむずかしいらしいから」
その返事を聞いたマテリアは服のポケットから小粒程度の小さな鉄塊を取り出した。
そして、金属操作魔術で鉄塊をバラバラにして再結合して指輪を作り出した。
「これ、婚約指輪。おおきくなったら結婚しよ。……やくそくだよ!」
「……うん!」
その後、マテリアは数か月で成人並みの魔力保有量になり、無事に左腕を再生することができた。
そして、魔力保有量を増やす過程で金属に魅入られたことで金属魔術研究家の道を歩み始めるのであった。
「……あった!」
元実家の元自室にて、僕は指輪を発見することができた。
正直、僕は自室にある私物にはあまり執着などなかった。
いま手のひらの中にあるこの指輪を除いては。
「あっ!これは、私が10年前につくった指輪!……ずっと持っていてくれたんだね」
「うん。あのとき、すっごくうれしかったからずっと持っていたんだ」
僕は生まれてからずっと期待外れだという評価しかされなかった。
だから、生まれて初めて心配されたのがとっても嬉しかったんだ。
「そっか……そうだ、それって婚約指輪だからさ、近いうちに結婚指輪も作ってもいいかな?」
「うん、いいよ……ってことは結婚もするってことだよね」
「もちろん!お互いの覚悟決まったらさ、結婚しよ!」
こうして、僕たちは後ろにいるトトキ副団長そっちのけで結婚の話を進めたのであった。
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