ロンリネス、逮捕される

 王都イグレオ、いやグライフ王国でもトップクラスの鑑定士といわれる男ロンリネス。


 彼は今、ニヤニヤしながら自宅の書斎で昼食のパンを食べている。


「いやー。数日前にイドルを追い出してからすっごく気持ちがいーぜ!追放宣言したときのアイツの情けない顔を思い出しただけで食事が進むぜ!」


 ロンリネスは、トップクラスの鑑定士であると同時にトップクラスのゲス野郎でもあった。


「さて、そろそろ孤児院にでも行って次の養子でも探そうかな!次は騎士団員になってくれるといいなー」


 ロンリネスは騎士団員という存在にすさまじいコンプレックスを抱いている。


 小さい頃に強くあこがれたものの、才能がなかったせいで3回あった入団試験を全て落ちてから、彼はコンプレックスをこじらせ始めた。


 鑑定士としてどんなに名誉を積み上げても、騎士団員になれなかった悲しみと辛さは晴れることがなかった。


 そして、『子供が騎士団員になればこのコンプレックスも克服できるのかもしれない』という考えにたどり着いてしまったのだ。




「にしても、イドルの暗殺を依頼してからもう3日も経つのにいまだに暗殺者から任務完了の報告が来ないな……せっかくベヒモスまで渡してやったのに」


 数日前、ロンリネスはイドルがこの世界で生き続ける可能性があることが腹立たしくなり、イドルの暗殺を裏社会の人間に依頼していた。


 そして、その時に確実に殺せるようにとベヒモスが封印された魔道具『魔物箪笥まものたんす』を暗殺担当者に渡していたのだ。


 ドン!ドン!ドンドン!


「……ん?」


 突然、自宅の玄関扉に乱暴すぎるノックが襲い掛かる。


「はいはい、出ますよ出ますよ」


 ロンリネスは、一人のときとイドルと二人きりのとき以外に見せている紳士な雰囲気をまとって玄関まで向かい、扉をあけた。


「ロンリネス・グレードアイさん。あなたに殺人未遂罪の容疑がかけられています。もしよければ騎士団本部までご同行お願いします」


 玄関の先には、手錠を持っている騎士団員や高速用の魔道具を持っている騎士団員、封印用の魔道具を持っている騎士団員もいた。


「……わかりました」


 ロンリネスは紳士的な態度が崩れるないように怒りをこらえつつ、騎士団本部まで連行された。


 


「クソッ!なんなんだよあの暗殺者!魔物箪笥を現場に残して逮捕された上にあっさり俺のことを自白しやがって!」


 騎士団本部にある留置所の個人牢にて、ロンリネスは愚痴をコンクリートの壁にぶつけた。


 凶器を現場に残すという凡ミスをやらかしたことで、暗殺者はベヒモスがあらわれた翌日に早速逮捕されてしまった。


 そして、暗殺者の口が軽すぎたせいでロンリネスが依頼者であることも騎士団にバレてしまったのだ。


「だいたい『イドルのすぐ近くに賢人がいたから襲うのが怖くなってベヒモスをけしかけることしかできなかった』というウソの言い訳が気に食わん!」


「イドルみたいな魅力も価値もゼロの男なんかに賢人様が味方するわけないだろ!ウソが下手すぎる!」


 ロンリネスは決して愚かではなかったので、賢人という存在と彼らの偉大さや価値はきちんと理解できていた。


 しかし、ロンリネスは愚かだったので、元養子の人望や価値をきちんと計れないのだ。


 


 翌日、ロンリネスは前々から渡し続けていたワイロと大量の保釈金のおかげで釈放された。


 しかし、『養子を古代の魔物まで使って殺そうとしていた』という疑惑は消えることなく彼の名誉にへばり付き、鑑定依頼の数と人望が減り始めていたのであった。

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