どんな姿でも素敵だよ

「いいね!ネコ耳、すっごくいい!」


 誕生日の日の晩、僕は魔術で自分の身体にネコ耳を生やしていた。


 そして、マテリアは金属の板を鏡代わりに使って今の僕の姿を僕に見せつつ、変化した僕の姿をほめている。


 このような奇妙な状況になったのには理由がある

 

 


「実は、今日になっていきなり魔力が身体に行き渡るようになって身体変化魔術が使えるようになったんだ」


 魔力が無くても魔術を使えるようになる剣を貰った直後、僕は思い切って今日起きた身体の異変を告白した。


「……あ!!そういえば外で私が抱き着く直前に腕が翼に変化していた!!え?!すご!!」


「そんなにすごいのかな……」


「うん!すごいよ!そもそも身体変化魔術ってけっこう練習が必要なタイプの魔術なんだよ!それを魔力に目覚めてさっそく使えるのはもはや天才だよ!」


 魔術に詳しいマテリアが言うからには本当にそうなのだろう。


「それでそれで!腕を翼にする以外にはどんなことができるのかな?キミの新しい一面、もっと見てみたいよ!」


 マテリアのテンションが明らかに高くなっている。


 僕はそれにこたえて、その場の思いつきでネコの耳を頭に生やし、冒頭の状況に至ったのであった。


 


「ほめてくれてありがとう。初めてやってみたんだけど上手くいって良かった」


「は、初めて?!イドル、キミすっごくセンスある!」


 その後、僕はマテリアに褒められてうれしくなり、調子に乗って思うがままに身体変化魔術を行い続けた。


「おお!今度はキツネの尻尾じゃん!ちょっと触ってみてもいいかな?!」


「すっご!ツノとか生やせるんだ!私の自作兜と同じくらいカッコいい!」


「腕はそのままに翼を生やせるとかもう天使じゃん!尊すぎるよ!!」


 そして、身体変化ツアーの最終章として、僕が自分が思う『最強の姿』に変化してみた。


 六本の腕、六枚の翼、いつもより20センチメトールほど背が高い筋肉質な身体。


 それらが共存した姿に、僕は変化した。


 仮に名付けるなら『熾天阿修羅態してんあしゅらたい』といったところか。


「どう……かな?個人的に思う『最強の姿』になってみたんだけど」


「……最っ高にカッコいいよ!バチバチにキミの情熱が伝わってくるデザイン!!最高!」


 マテリアは今までで一番高いテンションで僕の変身形態を褒めてくれた。




「じゃあさ、最後にキミに変化してほしい姿があるんだけれどそれになってくれないかな?ちゃんとお手本は作ってあげるから」


 マテリアの提案に僕がうなずくと、彼女は小さな銅の粒子を組み合わせて小型の銅像を作り出した。


「ちょっと待ってね……すぐにお手本できるから」


 おそらく、完成した銅像がお手本になるのだろう。


 数分後、完成したのは翼も獣耳も翼もついていない、いつもの僕を模した小型銅像であった。


「あの、これっていつもの僕なんじゃ……」


「そうだよ。だってキミはそのままでもすっごく魅力的で大好きだもん。もちろん、キミはどんな姿でも魅力的だけどね」


 その言葉を聞いて、僕は今日何度目かすらわからない涙を両目からこぼし始めてしまった。


「ありがとう……ありがとう……」


 僕はあらゆる姿の自分を肯定してくれたマテリアに感謝の言葉を述べつつ、いつもの状態に身体を戻した。


 


 その後、寝る前にこの家のベッドがひとつしかないことから、マテリアに添い寝を提案され、結果的に二人で同じベッドで寝ることになった。


「イドル、おやすみ……明日はもっといい日にしようね……」


 ゆるやかな愛する人の声を聴きながら、僕はぐっすりと眠った。

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