29 凶神の足音ー2

「久しぶりだな、清麻呂きよまろよ」


 挨拶を投げながら、老人は、火鉢の前に胡坐をかいて座り込んだ。


「やっと行き当たりました。全く、伯父上から聞いていた隠れ家を、全部回ってきたのですからな」


 戸口のところに立ったまま、能城のしろ清麻呂が答える。

 老人がその台詞を聞くのは、今夜で二度目である。


「そりゃあ、面倒をかけたな」


 応じる言葉も二度目だった。ただ、先の男にかけたものとは違い、今回の声音は社交辞令の域を出ない、おざなりなものだった。


「それで、何用だ?」


 問いかけながら、右手を火鉢の上にかざし、ぱちん、と右手の親指と人差し指を弾く。

 すると、火鉢の中の炭に、ぼっと火が点いた。


「まーた、大きな声では言えぬ頼み事か?」

「ええ、まあ」


 雑仕の男たちに松明で中を照らさせながら、能城清麻呂は、床の傷み具合や腐り具合を確かめながら、そうっと堂宇に足を踏み入れた。

 途端に、狩衣の袖口で、慌てて鼻と口を覆った。


「な、何ですか、この凄まじい悪臭は……」

「新しい呪法を思いついたので試してみようと思って、屍を加工しておったのでな」


 聞かれた方がさらっと返した答えに、聞いた方が思わずといった様子で後ずさる。


「客に見せるようなものでもないから結界の中に置いてあるが、見たければ見せてやるぞ?」

「けけけけ結構です!」

「相変わらず、だらしないのう」


 顔中に嫌悪を漲らせた甥に、老人は喉の奥で嗤った。


「死んだ父親と同じだ。呪法に呪殺、汚いことや後ろ暗いことに人を好きに使っておきながら、自分はそういうものは見たくもなければ近づきたくもないと言うのだから」

「そ、その父上が手を尽くして庇わねば、伯父上の首は、四十五年も前に胴体から離れておりましたぞ」


 鼻や口を抑えたまま、能城清麻呂が不機嫌そうに言った。


「ほいほい、感謝しているとも」


 ひらひらと手を振って、老人は火鉢に息を吹き込み、炭に点けた火を煽った。


「まあ、座れ。の国で手に入れた茶があるのだ」

「せっかくですが、ご遠慮申し上げます」


 古ぼけた鉄瓶や縁の欠けた茶碗などを汚らしそうに見渡して、清麻呂は咳ばらいを響かせた。


「私は伯父上と違って忙しい身ですので」

「つれないのう。では、とっとと要件を聞こう」

「お聞き及びでしょうが、次の卯月うづきの末日、瑞籬宮みずがきのみやにて高仁たかひと親王様の立太子の儀が行われます」

「親王を呪殺しろというなら、流石に断るぞ。朝廷の面倒事に関わるのは、二度と御免だ」

「違いますよ!」


 清麻呂が飛び上がった。


「滅多なことを言わんで下さい!」

「違ったか? では、何だ?」

「その立太子の儀に合わせて、鬼堂家が央城おうきにやって参ります」

「――ああ」


 視線は炭火の具合に据えたまま、老人は口の端を僅かに釣り上げた。


「あの鬼堂式部しきぶの血が、遂に央城に舞い戻るのだな。それで?」

「おわかりでしょう?」

「清麻呂よ、ちゃんと言葉にせねば、わしは絶対に引き受けんぞ。何度も言うた筈だな」


 釘を刺されて、清麻呂は唇を舐めた。松明を持っている雑仕たちをちらっと見やり、戸口の脇に控えさせると、嫌々ながらといった様子で火鉢の傍に近づく。


「鬼堂興国おきくに殿――殺して頂きたい」

「ほほう?」


 そうして、声を潜めて紡がれた言葉に、老人はぱちぱちと目を瞬いた。少しばかり、意外そうだった。


「あの青明せいめいが、式部と美郷みさとの子を亡き者にする決心をしたとは、遂に吹っ切れたか? それとも、あの鰻の発案か?」

「は? 鰻?」

「青明の孫息子だよ。あののらりくらりとした掴みどころのなさ、正に鰻そのものではないか」

「――誰の発案だとしても、伯父上には関係ないことでしょう?」


 一瞬、噴き出しかけて、清麻呂は慌てて表情を取り繕った。


「伯父上はもう、一族の枢機に関わることが出来るお立場ではない。『死神』を送られることもなく、野に下って生きることが認められただけ良かったと感謝なさり、一族からのささやかな頼み事だけを引き受けて下されば良いのです」

「ささやか――のう」


 老人の眸の奥に、妖しい光が揺れた。


「しかし、青明は若い頃から鼻持ちならん奴だったが、式部は比較的良い友人であったからなあ。多少の野次馬根性は許されても良いのではないか? 式部の息子を退場させて、その後はどうする?」

「興国殿には、ご子息が二人居られます。神祇頭じんぎのかみ様は、どちらかに鬼堂家を継いで頂き、黒衆ともども九条家の傘下に戻って頂くつもりでございます」

「息子は無理でも、孫ならば懐柔できると踏んだか? さて、そう上手くいくかな?」


 くつくつと肩を揺らして、老人は火鉢の上に鉄瓶を乗せた。


「では、式部が麾下に降した真那世まなせたちはどうするのだ? 今度は九条家が主人となって、戎士じゅうしとして召し抱えるのか?」

「ご冗談を」


 老人の問いに、清麻呂が思い切り顔をしかめた。


「伯父上、『真那世は見つけ次第処分』が、神狩かがり一族の大原則でございますよ?」

「では、殺すと? 真垣まがきにある八手やつでの里とやらには、六百人近くの真那世が住んでおると聞くが、その全員をか?」


 老人の双眸が窄まった。


「それはそれで簡単ではないと思うがなあ。何より、勿体ないではないか」

「勿体ない?」

「真那世が有する神珠しんじゅは、この世界の始まりより生じた『力』の塊――形ある混沌だ。それがこの物質界に命として産み落とされるというのは、砂浜から一粒の砂金を摘まみ出すより稀な奇跡なのだぞ?」

「相変わらずですね、伯父上。父も申しておりました。兄は、子供の頃から、人間の社会の中のことより、外のことにばかり関心を抱いては、よく祖父君に怒られていた、と」


 清麻呂が大仰な仕草で、分厚く肥えた肩を竦めた。


「形ある混沌――そのような得体のしれないもの、『朱鳥あけとり大神たいしん』だけで良いではありませんか。見た目は人間なのに人間以上の力を宿すような気色悪い生き物も、ゆかり姫一人で十分です。あんなのがそこら中にごろごろ居ては、たまりません」

「おうおう。何が何でも時任ときとうの遺産を維持せねばならんからと躍起になって、外法の技まで引っ張り出して生み出した命に向かって、哀れなことを」


 老人の口調に、ひんやりとしたものが漂った。


「青明に言ってやれ。どのような異形いぎょうであれ、己が意図で生み出したものであれば、ちゃあんと愛してやらんか、とな。それでこそ、生み出された方も、親を親として敬ってくれるというものだ」

「お言葉ですが、神祇頭様は、紫姫に関しては、それは丁重に扱ってらっしゃいましたよ。まあ、確かに、術者としての修行は少々厳しくはあったようですが、住むところ、着るもの食べるもの、全て最高のものを揃えて、誰もが羨む生活をさせておられましたからなあ。それをまあ、あの姫ときたら、恩を恩とも思わず」

金子かねさえかければ良いという話ではないわ。だから今、お前たちはあの姫に手を焼く羽目になっているのだ」


 老人は、軽侮の目つきを隠しもしなかった。


「人は感情に支配される生き物だ。真那世も同じ。なれば、理性と感情を持つ生き物としての尊厳を認め、人間の武士団のように、故郷と家族の安全を保証し、忠誠に正当な対価で報いてさえやれば、存外うまく付き合っていけるやもしれんのに」

「莫迦々しい」


 清麻呂は、呆れたように首を振っただけだった。


「異形は異形ですぞ。『神縛り』で縛りさえすれば人畜無害な『使つかい』にすることができる真神まがみ妖種ようしゅはともかく、縛り切ることができない真那世など、脅威でしかありません。そんなものは滅ぼしてしまうに限ります」

「ま――根源的に異なる存在を『信じる』というのは、存外難しいものよな」


 話しても無駄だと悟った顔で、老人は、ひらりと片手を翻した。


「では、話を元に戻すが、鬼堂式部の息子を殺せというのは、九条青明および央城神狩の総意ということで、良いのだな?」

「神狩一族の更なる安泰、そして、繁栄の為です」


 念を押した老人に、清麻呂は勿体ぶったように頷き、声を潜めた。


「ただ、申し上げるまでもないとは思いますが、絶対に我らとの関わりを悟られぬようにお願い致します。その為に、わざわざ伯父上にお願いしているのですから」

「向こうも同じ神狩一族であれば、下手に一族伝来の術など用いれば、すぐばれてしまうからのう」

「その点、伯父上であれば、もはや神狩一族の技とは呼べぬ独自の呪法を、色々とお持ちですから」


 老人の双眸に、薄い笑みが滲んだ。


「つまり、手段は問わぬ、というのだな?」

「ええ。どのみち、興国殿本人は伯父上の存在などは知らないでしょうし――あ、でも、嶽川たけかわ家の朧月ろうげつ殿は、まだ鬼堂家に居られるようです」

「『鞭』を振り回すしか能のないあの単細胞莫迦か? まだ生きておったのか?」


 老人が素っ頓狂な声を上げた。甥が訪ねて来てから初めて、心底から驚いたような顔になって、清麻呂の顔を見た。


「ええ。ですから、お気を付けください」

「確かに、あやつならば、今でもわしの顔を見分けるかもしれんな。わかった。心しておくとしよう」


 鉄瓶の口から湯気が立ち上り始めた。


「ところで、その式部の息子というのは、術者としてはどうなのだ?」

「それが、紫姫の話では、どうも『質』を捕えておくだけに全霊力を取られている様子で、『使』も有してはおらず、霊能の技も使えない模様だ、とか」

「『使』を有していない?」


 嘲うように言った清麻呂に、老人は、ふと瞳孔を動かした。


「とすると、鬼堂家の『伯王はくおう』は、今誰が持っている?」

「長男が受け継いでいるようです。数馬かずまという名で、二一になるとか」

「ほう――『伯王』を継いだとなれば、相当優秀なのだな。その長男も、央城に来るのだな?」


 老人は、口の両端を更に上げると、両手を擦り合わせた。両眼の奥に底知れないものをたたえて、だが、表情だけはにこやかに問いを重ねる。


「では、報酬の話も聞いておこうかの?」

「何なりと、お望みのままに」


 口ではそう言いながら、清麻呂は少しばかり身構える様子を見せた。


「いつものように金子なら金子を。もし、術者として神狩一族への復帰を願われるなら――」

「一族への復帰? そんな面倒事は要らんわ。今更宮仕えなど、御免被る」


 言下に却下して、老人はふと、火鉢の横に置いてあった茶筒を、大事そうに取り上げた。視線の高さまで持ち上げて、じっと眺める。


「いつものように、金子を一袋で良い」


 そのまま、言った。


「それで向こう三年は、茶に不自由せずに済むからな」

「宜しいので?」

「わしは、住むところにも着るものにも金はかけんし、地位も名誉も要らぬ。食いものも、その辺りの山野でいくらでも手に入るからな」

「相変わらず、伯父上は無欲でいらっしゃいますな」


 目に見えて、清麻呂の愛想が良くなった。


「融通無碍と申しますか、何ものにも囚われぬその在り様が、時々羨ましくなります」

「羨ましいなら、お前もこっちへ来ぬか?」

「お誘いは有り難いのですが、私めなどは、俗世の垢にまみれて右往左往しているのが関の山。到底、伯父上のような境地には至れそうにありませぬので」

「ならば、仕方がないな」


 茶筒から甥に視線を移し、その慇懃無礼の見本のような口調と態度を眺めてから、老人は手を振った。


「委細、承知した。任せておけと、青明に伝えておくが良い」

「ありがとうございます」


 清麻呂が、深々と頭を下げた。


***


「――異形は異形、か」


 能城清麻呂が立ち去り、老人が結界を解くと、灰色髪の男が鼻で嗤った。


「人間、特に神狩の術者という奴は、どうして、この世界は人間の為だけにあると信じて疑わずにいられるのだろうな」

「何も知らんからだ」


 老人が肩を竦めた。


「ま、昔はわしもそうだった。央城の貴族社会の内側で、親が教える術式だけを覚えて、書庫に積み上がっている書籍だけを読んで、世界の全てがわかったつもりになっていた。あれも同じ。要は、世間知らずの子供なのだ」

「確かに、何も知らないようだ」


 清麻呂が出て行った表扉を眺めてから、男は視線を巡らせ、須弥壇しゅみだんの傍にひっそりと立っている女と、その後ろに大人しく控えている巨大な影、そして、肉も臓物も残さず食べてしまって、名残惜しそうに骨をしゃぶっている、小さな影を見やった。


「あの甥とやらも、央城神狩も、お前のことを、惨めな落伍者と思っているのだな。だからこそ、金子ずくで後ろ暗い仕事に使える便利な駒、と」

「この四十五年間、そう見せ続けてきたからのう」

「しかも、あの口ぶりでは、その四十五年前に首切り台から助けてやったことを、お前が感謝していると思っているようだな。真意を知ったら、さぞ驚くことだろう」


 くくっ、と老人が喉の奥で嗤った。

 その眸の奥に、青い鬼火が揺れた。


「その時は、あの愚か者どもなど、誰一人として生きてはおらんよ」


 平然と言い放ってから、ふと苦笑する。


「相変わらず、信じられない、という顔をするな。同胞どころか、血を分けた実の甥すら、死んでも構わんなどと言うのは」

「ああ、人間という生き物のそういうところは、全く理解も納得もできん」

「人間はな、血が繋がっていればこそ、余計に憎しみを掻きたてられるということがあるのだよ。ま、お前さんにわかってもらおうとは思わんが」


 火鉢の上の鉄瓶が、しゅんしゅんと音を立て始める。老人は待っていましたとばかりに火から下ろし、蓋を取って、茶筒の中身を振り入れた。


「ともあれ、他ならぬ青明の奴が、願ってもない口実を寄越してくれた。わしが下手に洛中に足を踏み入れれば、すぐ央城神狩の連中に目を付けられるから、どうやって近づいたものかと思案していたのだがな。四十五年ぶりに催される立太子の儀――鬼堂式部の息子を殺しさえすればいい、手段は問わぬと言うなら、遠慮なくそうしてやろう」

「――おい、道全どうぜん


 心底からわくわくしている様子の老人に、ようやく最後の骨の一かけらまでばりばりと噛み砕いて呑み込んでしまった那岐良なぎらが、声を掛けた。


「つまり、とうとうやるのか?」


 食事に熱中していながらも、会話はずっと聞いていて、理解もしていたらしい。


「おお。とうとうやるぞ、那岐良」

「なら、今度は、喰っていいのか?」

「おお。好きなだけ喰うといい。帝も不二原ふじわらの奴らも、神狩の術者どもや毘山びざんの法師どもも――我が物顔で央城にのさばる者どもを手あたり次第、腹がはちきれるまでな」


 泥が煮えるような笑い声が漂った。


「お前たちがこの先何人殺そうと喰らおうと構わんが、俺との約束は忘れるなよ?」


 釘を刺すように、男が言った。


の国の哀れな真那世たちは、出来る限り殺すな。喰うな。特に」

「わかっておる。例の斗和田とわだの兄弟、その中で唯一の娘っ子とまだ『殻』が破れていない末っ子だけは絶対に、だろう?」

「そうだ」

「それで言えば、お前さんにとっても、話はむしろ簡単になったではないか」


 鉄瓶を水平方向にゆっくりと回しながら、老人は言った。


「鬼堂興国が死ねば、『質』も死ぬ。つまり、その瞬間、阿の国の真那世たちは自由を得る訳だ。しかも、それが九条家の差し金となれば、お前さんやお前さんのご主君にとっては、正しく棚から牡丹餅というもの」

「まあな」


 男が少しばかり憂鬱そうに頷いた。


「心苦しくはあるが――外から『質』の神珠を、本人たちに取り戻してやる術はないのだろう?」

「そうだよ。『神縛り』で奪ったたましいを解放できるのは、術者本人が自分の意志で解術した時のみ。仮に、わしが鬼堂興国を『傀儡』にできたとしても、それだけは不可能だ」


 頷いて、老人は、回した鉄瓶をしばらく置いてから、茶碗を三つ用意して、中身を注ぎ始めた。


「神狩一族の開祖である時任速比古はやひこというのは、現在の我々から見ても、信じがたい天才だったのだ。中でも『神縛り』は、術式が恐ろしく複雑怪奇で、一つの式の裏で幾つもの小式が走っていたりする。この式とこの式をこの順番で組み合わせてどうしてこの結果が得られるのか、未だ原理が解き明かされていない部分すらある。それを解術するとなると、その術式を逆さまに辿っていく必要があるから、『傀儡』の単純化された認識能力では、実行不可能なのだ」


 既に縛っている珠を譲渡するだけなら、『傀儡』状態でも可能である。そのことは、九条青明が行った、時任保名やすな天音あまねの間における『朱鳥の大神』の受け渡し成功で、実証されている。


「だが、譲渡には、両者の間に血縁関係があることが必須となっているからな。よって、わしが『質』の珠を引き取ってやることも、不可能だ」

「と言って、鬼堂興国の息子たちに引き継がせるのでは、状況は何も変わらない訳だから……」

「そういうことだな。――ほれ、入ったぞ。樹梨じゅりもおいで」


 老人の手招きを受けて、女が火鉢の傍に歩み寄ってくる。


高槻たかつき殿は、家族を喪うことになる阿の国の真那世たちの気持ちを慮っておられるのですね」

「うむ……」


 取りなすように言った樹梨に、勧められるままに茶碗を受け取りながら、男は頷いた。


「『質』とされている者たちもその家族も、別に何の罪も犯してはいないのだからな」

「そこで那岐良が喰っていた女も、別に何の罪も犯してはいないと思うぞ」


 老人があっけらかんと言った。


「それでも、『餌』を必要としていた那岐良に出くわした為に、死ぬことになった」

「この世は不条理に満ちているな」

「その通り。『何の罪も犯していなければ理不尽に殺されることはない』保証すら、どこにも無い。機嫌の悪い貴族に行き会っただけで蹴り殺されることもあるし、親が権力者に睨まれたというだけで巻き添えを食うこともある。のう、樹梨?」


 同意を求められた女は、ただ沈黙を持って応えた。


「死とは不条理なものだ。だからこそ、人間も真那世も、そこに意味を求めたがる」


 茶碗の縁に鼻をくっつけるようにして茶葉の香りを堪能しながら、老人は言った。


「ならば、たかが憂さ晴らしで消える命に比べれば、那岐良を生かす為の『餌』となったさっきの女も、同胞たちの自由と引き換えになる阿の国の『質』たちも、その死に意味を持たせてやることができるだけまだ幸せだ――と考えれば良いのだよ」



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