51 時任の遺産

 鳳紀ほうき五〇五年――秋。


 央城おうき双門そうもんの一つである羅睺らごう門に、妖種ようしゅが出現した。


 その知らせが届くと、常盤台ときわだいは、当然、退治の為に術者を送り込んだ。


 だが、彼らは全員返り討ちに遭い、一人も戻って来なかった。


 これを放置しては、常盤台、引いては神狩かがり一族の面子に関わる。


 実際、神狩一族の術者たちの失敗を知った毘山びざんからは、帝と朝廷に対し、常盤台の手に余るようなら自分たちが対処しよう、という打診まであった。


 毘山とは、央城の都の北にそびえる霊峰のことで、高台宗こうだいしゅうの総本山として知られている。


 高台宗は、鳳紀二〇〇年頃に海の彼方から渡来した異国の神々を奉じる宗派のことで、門下の法師たちは、神狩一族とはまた別系統の霊能の技を駆使する術者集団だった。


 秋津洲あきつしまの人々の間では、真神まがみ真那世まなせが否定され始めた頃から、人と同じ姿をして雲の上の国に住まう天津神あまつかみの神話が広まり、信仰を集めていた。

 央城を開いた御間城みまきの帝も、自らをその天津神の子孫と称することで、『神の子』とされていた真那世たちの駆逐と政権の奪取を正当化している。


 その天津神は、言ってしまえば、真神の代替として自然や生活の中に存在することになっただけのものだが、高台宗の神々は、人の生き方や社会の在り方における倫理や正義を説き、衆生を導こうとする存在だった。


 その教義に人生を捧げた法師たちは、どちらかと言うと閉鎖的で、自分たちの技術を秘匿しようとする神狩の術者たちとは異なり、積極的に往来へ出、神々の言葉――真言を唱えることによって霊力を顕し、日照りの中に雨を降らせ、人の病を癒し、霊障を祓い、妖種を滅した。

 更に、子供たちに読み書きや算盤を教えたり、貴族や武士の横暴や過度な搾取から農民たちを庇ったり、疫病が流行ったり天災が起こったりすると救済小屋を作ったりもした。

 そうして、瞬く間に人々の心を掴み、信者を増やしていった。


 つまり、神狩一族が、求めに応じて霊能の技を人々に提供することを目的とする技術者集団であったのに対し、高台宗は、霊能の技の提供を手段として自らの教義を広め、人々の意識や考え方を変革させることを目的とする、教導者集団であった訳である。

 そうして今、彼らの教義は、既に皇族、貴族、民間にまで深く浸透し、毘山の歴代座主ざすは、近年の帝たちの教師や相談役を務め、国政の場にまで影響力を及ぼすようになっている。


 つまり、央城開闢以来、都の霊的鎮護を担ってきた神狩一族にとって、高台宗は警戒すべき新興勢力なのだった。


 その新興勢力に、『手に負えないなら代わってやろうか?』などと言われて、黙っていられる筈はない。


 よって、常盤台は、時任ときとう保名やすなを筆頭に、二柱家にちゅうけの当主である鬼堂式部しきぶ、九条青明せいめいの二人に五名の術者をつけて、羅睺門の妖種の再退治に乗り出した。


 結果を言えば、神狩一族は、妖種を退けることそのものには成功した。


 しかし、その代償は大きかった。五名の術者は全員が死亡、その上、時任保名も意識不明の重体に陥ってしまったからだ。


 この時、無事だったのは鬼堂式部と九条青明の二人だけだった。

 そしてその二人は、術者たちの死因も時任保名の負傷も、全て妖種によるものだと朝廷に報告した。


「確かに、その通りではあるんだけど」


 九条紫が言った。


「羅睺門に出た妖種の能力というのは、人に強力な幻覚を見せるものだったらしいわ。常盤台の術者たちはまんまとそれにはまって、お互いを同士討ちしたの」


 問題だったのは、生き残った鬼堂式部と九条青明の両方が、自身の記憶の空白を自覚していたことだった。

 つまり、二人とも、確実に妖種の幻覚にはまって動いていた時間があった、ということだ。その間に自分たちが何をしたのか、彼ら自身にもわからなかった。


「ふと気付くと妖種は消えていて、自分たちの手は血まみれ、足元には重傷の時任保名と麾下の術者たちの死体が転がっていたとあってはねえ。その意味に思い当たった時は、二人揃ってさぞ恐ろしい思いをしたことでしょうよ」


 だが、そんなことが公表できる筈はなかった。二柱家の当主二人が幻覚に侵され、もしかしたら宗家や仲間たちを殺したかもしれない、など。

 そんなことが知れ渡れば、それこそ神狩一族の面子は地に落ちる。


「だから、二人は、この件については、生涯口を噤むことで合意したらしいわ」


 黙って聞いている数馬が、ちらりと父親を見やる。

 鬼堂興国は、苦々しい顔だった。

 ただ、そこには、不快の念はあっても驚きはなかった。とすれば、彼はその辺りの事情については、亡父から聞き取っているのだろう。


「で、その時任保名なんだけど、彼は、妖種の強力な妖力を浴びて、精神に深刻な損傷を負っていた。けど、心臓の方はまだ動いていたの」


 ある意味では死んでいたが、ある意味では生きていた。つまり、少し前の三朗のような状態になっていた訳である。


「時任家ってのはね、神狩一族の中で最も閉鎖的な家だったのよ。この世に唯一無二の真神の『使』を伝え得る血を、他家に分けることを嫌ったのね。だから、縁戚同士での婚姻を繰り返し続けていたのだけど、その所為か、死んで生まれてくる子や、生まれても育たない子、育っても生涯にわたって狂疾を抱えることになった子なんかが増えてね」


 鬼堂家と九条家が、他家と積極的に婚姻を結び、分家、親族を増やして、勢力を拡大させていたのに対して、時任家の血統はどんどん細くなり、時任保名の代には、成人するまで生き延びることができた直系の子孫は、彼一人という有り様に成り果てていた。


「最も、時任保名本人は至って健康で、霊珠の力も一族最強を誇る、申し分のない宗家だったそうだけどね」


 故に、彼には成人すると同時に妻が宛がわれ、他にも何人もの側室が送り込まれた。

 だが、彼が廃人同様になってしまったこの時は、まだ誰も懐妊していなかった。


「このまま時任保名が死んだら、時任家直系の血と共に、この真神の『使』も消滅する。それは、神狩一族にとって大問題だったのよ」

「何故?」


 やはり冷静に、一也が問いかけた。


「あなたの兄上は、それは使ってはいけないものだと言われた。持っているだけで、使えない力なぞ、意味はないだろう。失ったところで、さしたることはないと思えるが」

「世の中、あなたのように強い心の持ち主ばかりじゃないのよ」


 少女が肩を竦めた。


「確かに、これは通常の『役』なんかには使えない。下手に使えば、町中をうろつく野良犬を殺す為に、町そのものを破壊することになっちゃうから」


 それでも。


「目の前に一度世界をひっくり返した力があるなら、使えなくても持っていたいのが人なのよ」


 開祖から連綿と伝わる、一族の基であり要でもある、この世で最強の『使』。

 それは、神狩一族にとって、もはや偶像に等しかった。

 故に、九条青明は、何とかできるものなら何とかしようと考えた。

 鬼堂式部と九条青明が対立した真の理由は、それについて意見が一致しなかったからだった。

 話し合いは怒鳴り合いになり、最終的には九条青明が実力行使に出た。朝廷を動かして鬼堂式部を央城から追い出し、強制的に自分が一族の実権を握った。


「確かその時、鬼堂家の一門の一部が『そんな無法が認められるか』と蜂起して、一族初の同士討ちになったのよね。九条家もそこそこ被害を出したけど、鬼堂家の方はかなりの一門縁者が死んだんでしょ。そう、確か鬼堂式部の妻の、美郷みさと御前とか呼ばれていた女術者も」


 あっけらかんと言った九条紫に、鬼堂興国が地を這うような唸り声を上げた。


 その両眼に燃え上がった暗く黒い炎に、びくりと息を引いた二緒子が三朗に身を寄せて来る。

 鬼堂式部の妻、ということは、鬼堂興国の母親に当たる女性のことだろう。

 鬼堂興国は今年で四五歳と聞いているから、彼もまた幼い頃に、母親を喪ったのか。


「で、その後、九条青明が何をやったかと言うと、時任保名を『傀儡』にしたの」

「――は?」


 その場に居た何人かが、思わずのように間抜けな声を上げた。


「一族の宗家を?」

「そうよ。彼は、精神の方は死んでいたけど、身体の機能の方は生きていたからね。『傀儡』にして、正妻を始め、側室たちの部屋を片っ端から回らせたの」


 二緒子が真っ赤になり、戎士の大人たちは唖然とした顔になった。


「ええと、それって……」

「三朗」


 きょとんと呟いた三朗に、一也が溜息混じりの声をかけた。


「深く考えなくていい。お前のたましいが穢れるだけだから」


 時任保名、鬼堂式部、九条青明の三人は、神狩御三家の嫡子同士であると同時に、幼馴染みの友人同士でもあったそうである。


「央城神狩の年寄りたちからは、時任保名って人は、性格はのんびりおっとりしていたけど、とても強い芯の持ち主だったって聞いたわ。だから、羅睺門の一件の詳細を知った時、一族は皆、同じことを思ったそうよ。鬼堂式部と九条青明が意識を取り戻した時に妖種が消えていたなら、それは間違いなく保名が退けたのだろう、と。一人で最後まで戦い抜き、幻覚に囚われていた式部と青明を助けたのだろう、と」


 だからこそ、鬼堂式部は、自分たちを助けてくれた――にもかかわらず、もしかしたら自分たちが手を下したかもしれない友人にそんな非道な真似をすることはできないと反対し、九条青明の方は、だからこそ、その血筋と遺産を維持する義務がある筈だと主張した。


「人としては鬼堂式部が正しく、術者としては九条青明が正しかった、ということになるのかしらね。時任保名も可哀想だけど、そんなモノの相手を強制された妻や側室たちも不運としか言いようがないわよねえ。中には、おぞましさに耐えられなくて逃げたり、自害しちゃったりした女性まで居たらしいわ」


 色白の少女の口から滔々と流れ出るには余りに凄まじい内容に、戎士たちは勿論、鬼堂家の父子すら咄嗟には言葉が出ない様子だった。


「それでも、九条青明は結果的には成功したの。時任の血筋はぎりぎりで繋がれた。この時生み出されたのが、時任天音あまね――私たちの可哀想なお母様よ」


 だが、九条青明の執念は、まだ終わりではなかった。

 今度は、その娘を術者として教育し、仮死状態の父親が完全に死亡する前に、真神の『使』を受け継がせなければならないからだ。


 幸い――と言っていいのかどうか定かではないが、時任天音の霊珠は、時任家直系の名に恥じないものだった。

 おかげで、彼女は十歳になる頃には一人前と言っていい術者になり、『神縛り』の術理も会得して、ぎりぎりで朱鳥の大神の引き継ぎを成功させた。


「時任保名は、それからほどなく、本当に死んだらしいわ。公には、彼の葬式は十年前に終わっているから、九条青明はこっそりその墓を掘り返して、空っぽだった棺に改めて遺体を収めて、埋め直したそうよ」


 その後、九条青明は、時任天音を自らの嫡子である九条真人まひとの妻にした。時任保名の子を義理の娘とすることで、強引に宗家の座を掴んだ自分の行動に正当性を与えようとした訳である。


 となれば当然、次は、時任の血を引く孫の誕生が必要となる。


 しかし、最初に生まれた嫡孫の霊珠は、真神のたましいを収め得ると期待できるものではなかった。

 九条青明は焦り、その結果として、更に人としての常識も良識も倫理すらも彼方へ蹴り飛ばすと、九条紫を誕生させた。


 だが。


「お母様は、そんな九条青明についていけなくなったのよ。ま――当然よね」


 時任天音が生まれた時、父親は真の意味では生きてはおらず、母親は、子供さえ生まれれば用はないとばかりに、実家に返された。

 よって、彼女は九条青明の手元で、嫡子の真人と兄妹のようにして育てられた。


「九条青明というのはね、その気になれば、いくらでも魅力的に振る舞うことができる男なの。そこのお兄様以上に外面がいいからねえ。実の両親も、他に頼れる身内も傍に居なかった無力な少女一人、懐かせるのは簡単だったでしょうよ」


 幼少期の時任天音にとって、九条青明は全てと言っていい存在となった。

 故に彼女は、養父に言われるまま術者となり、真神の『使』の器となり、彼の息子の妻にもなった。


 しかし、最初に産んだ息子を役立たずと罵られ、その後、何年もの間、言語道断の術法にさらされ続けることになった彼女は、薄々気付いてはいた事実――九条青明にとって、自分はただの道具でしかないという真実を思い知ることとなったのだろう。


「お兄様にがっかりさせられてから私たちを生み出すまで、九条青明は十年の歳月をかけている。つまり、私たちという成功例にたどり着くまで、何人もの失敗例があったのよ。お母様のお腹の中で、『蠱毒こどく』の術に踊らされるまま互いを喰らい合って、結局全員死んでしまった子たちも居たみたい。お母様は優れた術者だから、そんな光景を全部視て、聴いて、感じていたの。そんなの、正気でいられると思う?」


 決定的となったのは、我慢の限界に達した夫の真人が父親を止めようとして、逆に排除されてしまったことだった。


「その瞬間、お母様の心は毀れてしまったの」


 現実を認識しなくなり、周囲の人々はおろか、九条青明との会話すら成立しなくなり、壁に向かってあたかもそこに誰かがいるかのように喋り続けたり、裸足で庭を徘徊しては、いきなり『楔』を出して手当たり次第に庭木や植え込みを破壊したり、突然往来に飛び出して、朱鳥の大神を顕現させようとしたこともあった。


「九条青明は、そんなお母様を人目に触れさせないよう、邸の裏山に穴倉を掘って閉じ込めた。そうして、生まれた私たちを取り上げて、昔、お母様にそうしたように、私たちのことも自分の手元で育てて、手懐けようとしたのよ」


 そこで少女は、くつりと肩を揺らした。


「でもね、あいつは知らなかったの。私たちが、実はお母様のお腹の中から全部見て、聞いて、知っていた、なんてね」


 時任天音は、正気を失い、言動がおかしくなって尚、己れの胎に宿った子に害意を向けることだけはなかった。膨らんでいくお腹に向かって優しく話しかけ、子守歌を歌い続けていた。突然『楔』を撃ったのも、『使』を顕現させようとしたのも、妖種か何かの幻覚を見て、それから『娘たち』を護る為だったのだ。


 三朗の脳裏に、地下としか思えない牢の中、目の前には居ない娘の為にお手玉を操り、歌を歌っていた女性の姿が浮かんだ。


「それでもねえ、お母様は、九条青明に恨み言一つ言わないのよ。私たちに、一言でもいい、あいつへの恨みつらみを口にしてくれていたら――お父様の仇を討って、ってお願いしてくれたら、私たちは生まれた瞬間にあいつの首をねじ切ってやったわ。でも、お母様が話してくれたのは、空が青いこと、雲が白いこと、春の曙は霞立ち、夏の月は煌々と、秋の夕暮れはもの寂しくて、冬の朝はしんと澄み渡っている――この世はこんなにも綺麗で美しいところだから、早く元気に生まれておいでって、ただそれだけ」


 二緒子が、とうとう我慢できなくなったように、目を瞑った。


「だから、私たちは決めたの。早く大きく、強くなる。九条青明より強くなって、朱鳥の大神を引き継ぎ、今度は私たちがお母様を護る、ってね」

「――だから、去年、君が『神縛り』の術理を会得して朱鳥あけとり大神たいしんを引き継いだ時、母君はちゃんと地下牢から出されて、母方の実家の秋月家に移されたでしょ!」


 随身の手の中の鏡から、九条天彦のわめき声が聞こえた。


「その時、君は言ったじゃないか。朱鳥の大神を預かったからには、神狩一族の真の宗家は自分だ。だから、もう誰の『命令』も聞かない。けど、九条家が母君を護って、天寿を全うするまで静かに安楽に暮らさせてくれるなら、『お願い』くらいは聞いてあげないこともないって!」

「ええ。あの時の九条青明の顔ったら、見物だったわねえ。それまで、ずっと従順ないい子ちゃんのふりをしてきた甲斐があったというものよ」

「その約束、おじい様も僕もちゃんと守っているよ! だから、今すぐ朱鳥の大神を引っ込めて、央城へ帰って来て下さい! お願い!」

「じゃあ、どうして未だにあれを放置しているのよ」


 九条紫の細い指が、鬼堂興国に突き付けられた。


「鬼堂興国が一代の真那世を手に入れたって話が央城に伝わってきた時、先代が蜘蛛の一族を降した時以上の騒ぎになったでしょ」


 九条青明を始め、央城神狩の者たちは、鬼堂家の真那世支配は早晩失敗すると思っていた。過去の事例を鑑みて、人が真那世を使役し続けるには限度がある、と踏んでいた。


 ところが、案に相違して、四十年を経た今でも、鬼堂家は真那世たちを戦力として維持し続けている。しかも今度は、一代の真那世という伝説級の存在を加えることにも成功した。


「その頃から、お母様は『鬼が私を殺しに来る』夢を見るようになった。その話、私たちは何度もしたわよね。あなたにも、九条青明にも。なのに、あなたたちは何の行動も起こさなかったじゃない」

「あのね、大人には色々と守らなきゃならない約束ごととか規則とかいうものがあるんだよ。いくら母君の夢は予知夢であることが多いからって、それだけを理由に動く訳にはいかないの!」

「裏では醜いことも汚いことも平気でやっているくせに、いざって時は外面ばかり気にして。あんたたちは、ただ単に、向き合うのが怖いだけでしょ!」


 地団駄を踏むような罵りが爆ぜた。


「大勢の他人を踏みつけて出世して、央城での平穏と栄耀栄華に慣れきったもんだから、それが壊れるかもしれない、なんて考えたくないのよ。だから、悪いことなんて起こらないと決めつけて、奥東方の豪族たちが鬼堂家の所業を咎めて来た時も出遅れて、千載一遇の好機を逃した。本当にどうしようもない甘ちゃんばっかり!」


 祖父に対する根深い憎悪、思い通りにならない現実、未来への不安、そして、自分自身の一部をもぎ取られた喪失の痛み――そんなものが入り混じり合った末に膨れ上がった癇癪玉が爆発した、そんな印象だった。


「だから、私たちで潰してやるって決めたのよ。お母様がやっと得られた平穏を脅かす、東方の『鬼』を!」


 語尾に、ばさりという大きな羽ばたき音が重なる。

 深紅の大鳳の長く優美な首がくるりと曲がって、一ところに集まっている鬼堂家の父子と戎士たちを見下ろした。


 その双眸は鈍い黄土色で、どこか茫漠としている。

 糸百合で見た山椒魚たちの目と同じだ。自我を抜かれ、ただ術者の言うままに『力』を振るうだけの道具に落とされた、空虚な存在。


 だが、その視線の先に凝った神力は、間違いなく本物だった。

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