第二章 過去と現在
6 囁き合う声
「みんな、見た?」
巨木が乱立する原始の森。その中で、一つの影が動いた。
「――あの
「そっちじゃなくて」
「――八手一族のことよね……? せっかく私たちのご先祖様の目を逃れて、五百年間も隠れおおせていたのに、あの
「――でもさあ、あの連中の個々の『
「そっちでもないったら! 蜘蛛なんかどうでもいいのよ!
拳が振り回され、風を切る音が聞こえた。
「――やだな……。そんなに怒らないでよ……」
「――ごめんごめん。例の三人のことだろ? わかってるって」
「そうよ! そっちを検分する為にわざわざ来たんじゃない。こんな田舎の鄙びたところまで、わざわざ!」
「――二回も言わなくていいわよ……。で、あなたはどう思ったの……?」
「なんで『神縛り』にかけられているのが、一番上のお兄さんなの?」
「――え? 気になったのはそこか?」
「だって、おかしいじゃない。戦力って意味なら、あれが一番役に立つ感じよ?」
「――それは、何か事情があるのでしょう」
唇を尖らせたような気配に、理知的な雰囲気を漂わせる声音が重なった。
「――鬼堂
「――それで仕方なくってんなら、分からないでもないよな。うちはむしろ、あの男の子の方が気になったけど。あれ、
「――ええ、あの首の勾玉ですわね。本来の『殻』は破れているのに、わざわざ人為的な『殻』を造って、
「――まあ、何て可哀想なの……。でも、何でそんなことをするのかしら……」
「――さあ、それもやっぱり事情があるのでしょう。あの勾玉は
「
興味と警戒を半々に漲らせた声に、腕組みをする気配が重なった。
「おまけに、全員が
「――ぎょっとしたよ。神剣って、真神が自らの神力で
「――ええ、かの『三種の
「――私はどきどきしたわ……。あれで斬られたら、私たちだって、とっても可哀想なことになるわよね……」
「『ぎょっ』でも『わくわく』でも『どきどき』でも何でもいいけど、とにかくみんな、想像以上だって思った訳よね」
「――だから?」
「――どうするの……?」
「――このままついて行って、
「真垣へ戻ったら、
「――いいけど、あんまり派手なことをやったら、また神祇頭に怒られるわよ……」
「――神祇頭が怒ったって知ったことじゃないけど、お母様が泣いたら嫌だな」
「――何もしなくても、お母様は泣きっぱなしですわ。『鬼が私を殺しに来る』って、ずっと怯えていらっしゃいますもの。その理由を私たちが引き継いだ今も、まだ」
「だから、私たちで『鬼』を滅ぼすの。そう決めたでしょ」
最初の声が言った。
「
「――うふふ……」
問いかける声に、ふわふわとした無邪気な含み笑いが重なった。
「――想像していたの。
「――相変わらずですね、詩子さん」
「――どうしてそう可哀想なことばかり言うのかしら……。残酷ね……」
「――詩子はそれでいいんだよ。な、
「ええ」
最初の声が、くすりと笑った。
「今回ばかりは、詩子の望み通りにしてやりましょうよ」
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