4 お出かけの姫君
せわしない足音が広縁を駆けてきた。
「若様!」
「ふぁい」
「
「姫様がおいでになりません!」
「ほあ?」
切羽詰まった声に、青年は寝ぼけ眼をこすりながら起き上がった。
「
「そんな呑気なお話ではないと存じます。旅装が一式と、姫様の通行手形が消えております!」
「通行手形?」
欠伸を途中で止めて、青年は視線を巡らせた。
「てことは、つまり、
「どういたしましょう!」
「落ち着きなよ、芳野」
完全に泡を食っている叫び声に、青年は途中だった欠伸を最後までやり遂げると、大きく伸びをした。
「
「
「じゃあ、まあ、最悪なことにはならないでしょ。紫は時々とんでもなく莫迦だけど、柾木が付いている限り、滅多なことにはならない筈だから」
気の抜けた声で応じながら、のそのそと
壁際の文机まで這い進み、その前でどかりと胡坐をかくと、上に置いてある螺鈿の箱の蓋を開けた。
中には、一枚の銅鏡が収められている。
「でも、あの、
「おじい様には、僕からお話しておくよ」
それを手に取り、鏡面を確認して、青年はふっと口角の端を吊り上げた。
「大丈夫だよ、芳野。とりあえず、女房たちには騒ぎ立てないようにとだけ言っておいて」
「ですが……」
「心配しなくても、君らの責任にするつもりはないよ。その気になった紫を止めるのは、僕らだって至難の業だからね。ただし」
銅鏡を手にしたまま、青年は幽かに笑った。
「紫の不在が外に洩れたら、その時は、お喋りの対価を払ってもらうことになるよ」
「か、かしこまりました」
びくっとして平伏する気配の後、報告に来た女房があわただしく戻っていく。
「通行手形が必要。つまりは、関所を越えなくちゃいけないような遠く、か」
どことなく楽しそうに言いながら、青年は、手にした銅鏡を眺め下ろした。
「さあて、一体どこへ何をしに行ったのかな。我が愛しの妹姫は」
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