唐いも姫

犬時保志

1話

 昔々薩摩さつまと呼ばれた地に、からから芋が伝来しました。

 他の地方では『さつま芋』と命名され飢饉に喘ぐ人達の恵の食物になりました。

 伝わった大元薩摩では『唐芋からいも』と名付けられ人々に親しまれ食されて居ました。


 薩摩のある所でお爺さんとお婆さんが、大きな唐芋を分けて蒸かし芋にしようとすると、芋の中から女の子が出て来ました。

 子供の居ないお爺さんとお婆さんは、大喜びで『唐芋姫』と名付け大層可愛がって育てました。


 唐芋姫はすくすく育ち、大好物の唐芋の食べ過ぎで、少し太目ではありますが可愛い娘になりました。


 ある満月の夜、唐芋姫がしくしく泣いています。

 お爺さんとお婆さんは心配して唐芋姫に聞きました。

「聞いた話じゃと、竹から産まれた『かぐや姫』は満月の夜月からの迎で月に帰ったとか。

 芋から産まれた唐芋姫、月に帰ってしまうのか?」

「お爺さん、お芋の食べ過ぎでお腹が張って苦しいのです!」

「なんじゃ?それじゃぁかわや(便所)に行って、思いっきり屁をこきゃあ治る」

 安心したお爺さんは、何気なしに言いました。


 お爺さんの言い付け通り、かわやに行った唐芋姫。


 やがて凄まじい音が聞こえて来ました。

「ブボボボボーーーーーーーーーッ」

 お爺さんとお婆さんの目の前で、おなら噴射で唐芋姫は月に飛び立って行きました。


 呆然と立ちすくむお爺さんとお婆さん、辺りにはただ黄色い霧が立ち込んで居るだけでした。



 暫く勢い良く飛んで行った太目の唐芋姫、噴射力不足で元の廁に戻って来ました。

 お爺さんとお婆さんは泣きながら唐芋姫が戻って来たのを悦びました。

 お爺さんとお婆さん、唐芋姫の三人は末長く幸せに暮らしたそうです。

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