参:逢火
「籠を作れるのは、特にその、
「籠はのう……人魂をごちゃごちゃとねぐらに飛ばしていると記憶がごちゃごちゃと流れてきて面倒なので人里に降りて材料を引き換えに貰うことにしたんじゃが……」
長い話しに飽きたのか、それともはしゃぎすぎて疲れたのか、タキの膝の上で二人の童たちはすぅすぅと可愛いいびきをかいてぐっすりと眠っている。
童たちを起こさないように声はひそめているが、目を爛々と輝かせながらタキは身を乗り出してくる。
「わしも暇じゃし……と人に化けて材料を手土産にして作り方を見せて貰っていたら作れるようになったので、まあ、今も山の手入れをするたびに剪定した植物の蔓で籠を編んでるというわけじゃよ」
「こいつは、人間の真似事をして文を書くときと籠を編むときは髪を結うんだ。首が細いからうなじも妙に艶めかしいと人間共に評判でな」
横から
やつも、タキが来る前は里や人間にはほとんど無関心でいると思っていたが、存外くだらないことを覚えているものじゃ。
「髪を解き忘れてそのまま人里に降りたら、男どもがわしを女と見間違えてのう! わしを奪い合って刃物沙汰になったのが懐かしいな。ひっひっひ」
「どこぞの姫様がお忍びで田舎へやってきたと噂になっていたな」
「
人魂を引き連れて飛ぶ様子は、不気味だとか不吉だと言われることはあったが、
人に激しい恨みを持っていながらもそれを抑え続け、
「どうじゃ? やっぱりわしのねぐらに鞍替えせんか? こぶ付きでもかまわんぞ」
「わたくしは、
「……そういうことだ」
「ひっひっひ……お主らがわしより先に死んでも魂は飼えそうにないのう」
人魂たちを籠に入れながら、わしはタキと
「では、子供たちを寝かせてきますね」
そう一言付け加えたタキが一足先に子を担いで部屋の外へ出たのを見計らって、わしは羽織のふところから煙管を取りだした。
指先で灯した炎で火を付けて、ゆっくりと息を吸う。
「
紫煙を燻らせていると、
「あの時、タキを助けてくれたことは感謝している。だから、まあ、気軽に屋敷に来てくれ。それと」
籠の中で揺れる人魂が、白磁のように滑らかで白い
タキと出会う前に足を運ぶことはあったが、冷たく遇われるだけだった。人の娘を生け贄にしていると聞いておもしろいことがあるかと覗きに来ていたわしも悪いのじゃが。
「今日はゆっくりしていくといい」
異変に気が付いた時に、ふらりとからかいに来て本当によかったな……などと思っていると、てっきり帰れと言われると思っていたところに、予想外の言葉が来て思わず動きを止める。
「明日はタキが飯を作るってはりきってるからな。眷属たちに布団を敷かせるからそのままでも、元の姿に戻ってもいいから休んでくれ」
「カカカ……楽しみにしてると伝えてくれ。おやすみ」
ああ、
――完――
夜離れ 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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