君は何の神様?

@murasaki-yoka

君は何の神様?

 田舎には不思議なものが多い。

 僕の家の裏山には小さな祠があった。


「いいかい。この祠を絶対に開けてはいけない。お父さんとの約束だ」


 僕はお父さんに小さい頃からそう言われていた。


 けれど夏休みのある日、小学生だった僕は友達とのイタズラで祠を開けてしまい、それから奇妙な神様に憑りつかれるようになってしまった。


 暑い日差しが降り注ぎ、蝉の大合唱が聞こえる山の中。

 僕は木陰に座ってその神様とお話をしていた。


「一体何の神様なの?」


 僕が尋ねると、神様はしょんぼりとした様子で言った。


「それがわからないんだ」


 神様の大きさは僕の膝丈ぐらい。

 白いまんまるとした体にウサギのような耳が二本ついている。

 きょろっとした丸い目。手はなくて、ぺたっとした足がある。


 ……なんか、小さい頃アニメでこういう生き物を見たことがある気がする。


 子どもの時にしか見えなくて、裏庭の木に住んでいて、どんぐりが好きな大中小の小の方。に、似ている。


「神様はもともと形がないんだ。見た人の願いや想像に合わせて変化する。この形や、君の意識が反映されているんだ」


 神様はそう説明してくれた。


「元々は私は名のある川の主だったんだ。でもその川も埋め立てられてもう存在しない。だから神様だけど、何者でもないんだ」


 しょんぼりとした様子に、僕は可哀想だなと思った。そして良いことを考えた。


「そうだ! じゃあ僕が新しい神様を考えてあげる!」

「本当?」


 神様は丸い目をさらに丸くした。


「でも日本には神様が多すぎるんだ。川の神様、山の神様、物には付喪神がついている。だから大抵のものにはもう神様がいるよ」


「トイレの神様は?」

「やだよ。それにもういるよ。噂によると女神さまらしいぞ。会ったことはないけど」


「うーん、じゃあ夏の神様」

「四季を司る神様はもういるんだよ」


 こう考えるとまだいない神様って結構難しい。


「君は一体何になりたいんだい? 君がなりたいものになるのが一番だよ」


 すると神様はしおしおと耳を垂れた。


「本当のこと、言うよ」

「う、うん」


「正直、神様の仕事したくない」


「え」

「一生引きこもっていたい。働いたら負けだって思ってる! 祠に長い間いて、もうすっかり引きこもりが大好きになってしまったんだ」


「えー……じゃあ、引きこもりの神様やったらいいんじゃない?」


「引きこもりの神様? 天才だね、君は!」


 僕の提案に、神様は目をピカピカと輝かせた。


「それなら大義名分で、堂々と引きこもっていられる。やったー!」


 嬉しいのか、神様はその場でくるくると走り回った。


 そしてはあ、と力を抜いて、それまでぴんとしていた耳が垂れた。

 丸かった体も垂れて、なんだか空気の抜けた風船のような見た目になってしまった。

 神様はにょろにょろとした動きをしながら、僕の足元にやって来た。


「ひとまず君の家に居候させてくれ。まずは君を立派な引きこもりにしてあげよう」


「やだー! 僕は外で友達と遊ぶんだ!」


「一緒に引きこもろう。引きこもりって、一緒に引きこもってくれる人がいると安心するんだ。座右の銘は、ひねもすのたりのたりかな」


「いーから祠に帰れ!」


 僕はお父さんがあの祠を絶対に開けてはいけないよ、と言っていた意味をようやく理解したのであった。



終わり

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