小学生、フィンチャーのゲームを語る

❝ここは放課後の小学校の教室だ。これは実際の出来事ではなく、普遍的な無駄話である。従ってここで話す子供たちも我々の想像の産物だ。この教室で起きていることはいずれも現実ではない。しかし、どんな世界であろうと、無駄話は普遍なのだ。この子供たちは我々と共通の言語を話すが、彼らの祖国は我々の心の中にしか存在しない。❞


 夕日が差し込む教室。校庭で元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえる。教室にはタケルとモリヤマの二人だけである。


 「この前、D.フィンチャーの【ゲーム】を観たんだけど、ハラハラして面白かった。でも、実際に自分があんなことされちゃったら人間不信になっちゃうだろうな」『わかるな。ドッキリ大成功で済まされるレベルじゃないからな。勝手なイメージだが、フィンチャーの映画は何とも言えない後味の映画が多い印象があるな。ぱっと思いついたのだと【セブン】、【ファイト・クラブ】、【エイリアン3】とかだけど』


 「あぁ……確かに何となくわかる……【ゲーム】もめでたし、めでたしとはならないだろ!とツッコミたくなっちゃったよ。大どんでん返しがあると言えばそうなんだけど、あのオチは何だか無理やり感がある気がするんだよね」『確かにな。でも、何か理由があって、ゲームをすることで主人公の考え方が変わっていって、最後には自分の考えを改めてハッピーエンドになる、というオチにしたかったんじゃないかな』「どういうこと?」


 『主人公はゲームによって散々な目に遭うよな。それで、ついには棺に入れられ墓に生きたまま埋められることになる。一文無しになって路頭に迷うことになるんだ。墓に埋められた人が蘇る。死んだ人間が蘇る。これって、キリスト教におけるイエスの復活に重なると思わない?』「あまりキリスト教には詳しくないけど、復活したからやっぱり救世主であり神の子であることが証明されたんだっけ?」


 『キリスト教を信仰することは、まさにその奇跡を信仰するようなもので、イエスのように「復活」することが目的なんだ。わかりやすく言うと回心ということになる。こう考えると、【ゲーム】の主人公はイエスの復活になぞられて、回心したととらえることができない?そう考えれば、主人公は回心したからハッピーエンドで終わることができるんだ』「うーん……でも、もし回心していたとするなら、弟を誤って銃で撃つ(実際は撃っていない。弟が血のりで撃たれたかのような演技をしていた)ようなことにはならなかったんじゃないの?」


 『そう言われればそうだな。主人公が本物の銃を持っていたのは予期せぬ出来事だった。もちろん、実際はそれも予期していたわけだけど。とすると、確かに回心していないことになるな。銃が隠してあったのは確か「アラバマ物語」の中だったな。あれってどんな話だったっけか?』「あれは、人種差別の問題をあつかった話だよ。無実を証明するために弁護士が奮闘する内容だったから、その本のなかに銃をしまうというのは、何だか悪趣味な気がするな」


 『「アラバマ物語」のなかには、ブーという人物も出てくる。確か、社会に誤解されていた人が、実は善良で、正当防衛のために暴力をふるうんだ。そう考えれば、ゲームによって社会から疎外された主人公が銃を隠す場所としては適しているのかもしれないな』「うーん……でも、やっぱりもやもやが残るな。そういえば、結局それもゲームの計算のうちだったよね。つまり、『アラバマ物語』の中に隠された銃も偽物だった。そう考えると、また別の意味もありそうな気がするんだけど」


 『言われてみればそうだ。社会から疎外された人の銃による一撃が、正当防衛かどうか、というニュアンスもあるのかもしれないけれど、実際は生きていたわけだもんな。そういえば「アラバマ物語」の原題は「To Kill a Mockingbird」、つまり、「マネシツグミを殺すこと」という意味だけど、これは、無実の人を殺すこと、を示唆しているよね。となると、「アラバマ物語」の中に隠してあった銃で弟を撃つことは「無実の人を撃つこと」を意味していたんだ』「なるほど、そう言われてみると何だか納得できる気がする。つまり、主人公はそこで初めて回心したんだね。無実の人を殺してしまったと理解したときに初めて真に回心したんだ。ゲームの最後の仕掛けは『アラバマ物語』のなかにあったんだ。それによって、ゲームが完成され、主人公は回心したんだ」


 『いや、回心したわけではないと思うな。むしろキリスト教の否定のような気もする。彼は自ら失敗する(弟を銃で撃ってしまう)ことで、自分の考え方を改めることになったんだ』「なるほど、そう言われてみるとそんな気がする。思い返せば、【セブン】、【ファイト・クラブ】、【エイリアン3】もキリスト教のテーマが、しかも、ネガティブな方向でテーマとして扱っているような気もする。それにしても、もしゲームなんかに参加させられたら、自分だったらたまったもんじゃないな」


 『本当だな。もう遅いし、帰ろうか。あれ?おかしいな、教室に鍵がかかってる。こんなところに鍵なんかついてたっけかな?』「ついてなかった気がするけど。あれ?あんなところにピエロの人形が……」『あ……

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小学生、映画を語る 箱陸利 @WR1T3R

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