小学生、映画を語る

箱陸利

小学生、友だちのうちはどこ?とSAW2を語る

❝ここは放課後の小学校の教室だ。これは実際の出来事ではなく、普遍的な無駄話である。従ってここで話す子供たちも我々の想像の産物だ。この教室で起きていることはいずれも現実ではない。しかし、どんな世界であろうと、無駄話は普遍なのだ。この子供たちは我々と共通の言語を話すが、彼らの祖国は我々の心の中にしか存在しない。❞


 夕日が差し込む教室。校庭で元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえる。教室にはタケルとモリヤマの二人だけである。


 「なあ、思うんだけどさ、キアロスタミの【友だちのうちはどこ?】って実質【SAW2】と同じだよな?」『嘘だろ、タケル。【友だちのうちはどこ?】はヒューマンドラマの映画で、【SAW2】はサスペンス・スリラーの映画で全然違うだろ』ぼーっと話を聞いていたモリヤマはびっくりして慌てて言い返した。タケルの顔は納得していない様子だった。


 「だってさ、要はどっちも、灯台下暗しって話だろ。それが感動を生むかどんでん返しを生むかの違いじゃん。ストーリーのオチとしては同じだろ」『いや、全然違う。お前も今言ったじゃんか。オチが感動を生むか、どんでん返しを生むかが違うって。その違いがストーリーの違いなんだろ』「うん。それなんだよ。ストーリーは違うよ。でも俺が言いたいのはオチが同じってことだよ。オチが同じなのにこんなにも真逆の印象を与えるんだなってことが言いたくてさ」

 

 『なんだ、そういうことか。お前の言い方はわかりづらい。てっきり、キアロスタミの映画がSAW2と同じクオリティだって言いたいのかと思ったよ。映画はみんな違ってみんないいのにさ』「そんなつもりはないよ。ごめん、ごめん。映画は比べるものじゃないよ。いい映画も悪い映画もあるけど、それぞれどこかにその映画にしかない良さが必ずあるからね」


 『【友だちのうちはどこ?】は主人公が子供で、ノートを返すために友だちの家を探す話だよな。確か、宿題をノートに書かないと退学になっちゃうから、なんとしても返そうって話だったっけか?』「そう、【SAW2】は主人公は父親で、ジグソーに何があっても動くなと言われたけど、彼の子供がゲームをさせられてるのを見せられるって話だよ。でも、どっちの映画も動かなくてよかったんだ。前者は宿題を代わりにやればよかったわけだし、後者は我慢していればすぐそこに監禁されていた息子が解放されたんだ」『なるほどな。タケル、お前の言いたいことはなんとなくわかる。でも、俺はその上でやっぱり全然違うと思うよ。オチが同じとは言うけど、そのオチが持つ意味が全然違うからね』「どういうこと?」


 『【友だちのうちはどこ?】は純粋な子供の視点を通して様々な大人の理不尽を経験する。で、結局家を見つけることもできない。それでも最後のシーンでノートにはおじさんに貰った花が挟んであったよな。あの花がすべてを物語ってるんだよ。つまり、宿題を代わりにやろうという過程そのものなわけだから、意味がないわけじゃないし、もしお前の言うように動かなければ、きっとその考えには至らなかったよ。言い方が悪いけど、優等生の主人公はずるをして大人を騙した。そうした優しさがあることを見つけたわけだよ。友だちの家がどこにあるかが重要なんじゃなくて、探すこと、動くことに意味があったわけだ』「なるほど、じゃあ【SAW2】は?」


 『【SAW2】は主人公が理不尽な大人で悪徳刑事だ。端からずる賢い人間なんだ。道具のように人間を利用することしか考えていない。そんな中で、息子はジグソーのゲームに参加させられる。ジグソーも同様に道具のように利用してやったんだ、主人公のゲームの装置としてね。それで、主人公は(これは父親だから当然だろうけど、)ゲームに参加する息子を助けたいと思うわけだ。しかし、人間の命は皆平等だ、人間は道具じゃない。息子はそれを知っていたけど、主人公は気付けない。結果、彼はゲームに負けることになるんだ。要するに、【SAW2】は動かないことで現実を直視する必要があったのに、自分が犯してきた罪を理解して償う必要があったのに、主人公は動いてしまったんだ。こう考えると、オチの意味が変わってくるだろ?』「なるほどなー。なんかよくわからないや」


 気付くと、校庭で遊んでいた子供ももういなくなっていた。外も少し暗くなり始めていた。「帰ろうか?」『そうだな、もう遅いし帰ろう』それで、教室は誰もいなくなった。

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