第128話 取材映像より一部抜粋
■京都市内 某日某所 元配信者の証言
ええと、もうカメラ回ってるんです?
はい、はい。わかりました。録画ですね。
はい、だいじょうぶです。変な切り取りとかされたらアレですけど、そもそも話してまずいようなこともないので。
あっ、ゼンキお姉ちゃんのインタビューはもう済んでいるんですよね?
そしたら余計な経緯とかは省略した方が――あ、重複してもかまわないですか。むしろ全部話してほしいと。
わかりました。
ええと、自己紹介ですね、はい。
(咳払いをして)ボクは元配信者で、<
京都じゃ一番って言われてて、それなりに名前も通ってたのでご存じの方もいるかもしれません。って、ちょっとうぬぼれかな?
最初は幼馴染のオヅくんと、お姉ちゃんと三人ではじめたチームで。
オヅくんは<陰陽師>で、お姉ちゃんは<くのいち>で、上級職になってたんですけど、ボクは縛りプレイとか好きなタイプだから、ずっと<黒魔術士>だったんです。
基本の攻撃魔法しか使えないですけど、レベルが上がるたびにちょっとずつ威力が上がるんですよ。
私が<
それで、他のメンバーが入ったり抜けたりはしましたけど、順調にレベルも上がって、チャンネル登録者数も増えて、市や県からのお仕事なんかも受けるようになりました。
はい、嵯峨野ダンジョンとかですね。あのトロッコのギミック、最初に解いたのボクたちだったんですよ。懐かしいなあ……あの頃が一番楽しかったなあ……。
(すすり泣き。しばらく撮影中断)
ごめんなさい。取り乱しました。
はあ……ダメだな。もう吹っ切れたと思ってたのに。思い出しちゃうとダメですね。
あっ、もうだいじょうぶです。続けますね。
それで、大江山ダンジョンにも京都府からの依頼で潜ったんです。
新規ダンジョンの難易度調査ですね。そういうのは何度も受けてたので、そのときもいつもと同じだと思ってたんです。油断……は正直していたところがあると思います。モンスターも京都だとよく見かける妖怪ベースでしたし、特別変わったトラップもリドルもなかったですし。
調査は順調に進んで、最深層まで進みました。
最深層はフィールドタイプで、地上の大江山そっくりでした。
山道を登ってると、鳥居が見えてきました。石造りで、緑の苔で覆われてて、お寺さんの写真集なんかに載ってそうな、そんなのです。
その鳥居の上に、男の子が座ってたんですね。
小学校低学年くらいに見えました。すごくキレイな男の子で、離れているのにいい香りがするんです。それでみんなぽーっとしちゃって、あっ、ええ、はい。その子が酒吞童子だったんです。
戦いは……戦いなんて呼べるものじゃなかったですよ。
一方的でした。いい大人がよってたかって、小さな男の子ひとりにあっさり全滅です。何の冗談だって話ですよ。結局、オヅくんが助けてくれて、ボクとお姉ちゃんだけは生かされて……。
そんなことがあったのに、だんだん酒吞童子もいい人なんじゃないかとか、そんな風に思っちゃうこともあったんですね。ストックホルム症候群って言うんですか? そういうやつの一種だと思うんですけど、男の子と一緒にいたイバラって鬼がボクたちに辛く当たることが多くって……まあ、彼らからしてみたらボクたちは奴隷とか、ペットとか、そういうものだったんでしょうね。
イバラにいじめられてると、酒吞童子が止めてくれるんです。
いま思えばうるさいから静かにさせてたってところなんだろうなってわかるんですけど、当時は本当に参ってて、イバラだけといるときより、酒吞童子がいたほうが安心できるなとか、そんな風に感じてたんですよ。笑っちゃいますよね。
それで、あの日です。
イバラがボクらをきれいな着物に着替えさせて、お酒を飲まされて、変な味がして――そこからは、ちょっと記憶が曖昧です。地上に出られて、身体がすごく大きくなって、山を見下ろしながら怪獣みたいにのしのし歩いてる。そんな夢を見ている感覚でした。
<ヤマタノオロチ>って名付けられましたよね。
ボク、いまでも疑問なんですけど、頭が九つなのにヤマタノオロチでいいのかなって。
あとになってわかりましたけど、その生贄っていうか、依代っていうか、そういうものにされてたんですね。ダンジョン医の先生には、あの<ヤマタノオロチ>と精神が半分くっつきかけてたって言われました。
怪獣になったのは夢じゃなかったんですね。
大きな被害が出なくて、本当によかったと思います。あっ、もちろん、被害に遭われた方がいるのも知ってます。そういう人たちを軽く見てるわけじゃなくて……ええ、はい、はい。すみません、ありがとうございます。
それで、夢を見ているような感覚で、ぼんやり、のしのし歩いていたら、空から声が聞こえてくるんです。
『スマイルですかーッッ!?』って。
何のことだかわかるわけないですよ。
こっちは怪獣とくっつけられて、夢の中なんですから。スマイルかって聞かれても(笑)
でも、なぜかわかっちゃったんです。助けが来たんだって。これでボクたちは助かるんだって。
それで上を向いたら、パンツ一枚のおじさんがヘリから降ってきて、びびびびーんってほっぺたをビンタされたんです。もう、泣いちゃうくらい痛くって――でも、あったかくって。
頭だけでも家より大きいのに、どうやってビンタしたのかって?
そんなこと、ボクに聞かれてもわからないですよ。本当にビンタされたのかもわからないし。でも、ボクにはビンタされたって感じられたんですよね。ええ、ああ、はい。お姉ちゃんの同じことを言ってましたか。そう、こういうほかに例えようもないんです。
スキル? 魔法?
いやいや、そういうのじゃないと思います。たしかに起きたことは魔法みたいですけど……そういう次元じゃないっていうか、でももっと生々しい何かっていうか、魂が熱くなるっていうか、震えるっていうか、背筋がしゃんとなるっていうか……。
はい、アトラス猪之崎さんです。
命の恩人ですね。プロレスなんてちゃんと見たことなかったですけど、けっこうファンになっちゃって。猪之崎さんも京都で興行するときは毎回チケットを送ってくださるんですよ。
クロガネ・ザ・フォートレス?
もちろん、知ってます。でもボクはスカイランナー派かな。あんな女の子がすごいですよね。もし昔に戻れるなら、<黒魔術士>をやめてモンク系に転職してたかも(笑)
そういえば、興行って東北限定なんですかね? 一度なまで見てみたいなあって思うんですけど、子どもも小さいんで、東北まで足を伸ばすのはちょっとしんどくって――
(この後、プロレスに関する話題が続く。保育園の迎えの時間が来てしまったとのことで、取材中断)
――報道特別番組 列島迷宮震災十年祈念企画 取材映像より一部抜粋
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