第12話 自称ダンジョンカメラマン
「イエスイエスイエスイエスイエースッッ!! 今日の今日まで歯ぁ食いしばって頑張ってきた甲斐があったぜ!!」
「あ、あの、喜んでいるところ申し訳ないんですけど……」
「ん? ああ、すまん。つい興奮した。ええと、どうかしたのか?」
どうかしたのはクロガネの方だと内心で思いつつ、女は恐る恐る言葉を続けた。
「残念ですけど、この動画1本でプロレスの時代が来たっていうのは、ちょっと難しいかなあ……なんて思いまして」
「なんでだ? 後楽園ホール60個分だぞ? プロレス史上最大級の客入りだ」
クロガネは、自信満々に胸を張る。
その後楽園ホールに寄せる絶大な信頼は何なのだろうと、またしても女は疑問に思うが、一旦スルーする。
「ええっと、オンラインの視聴者数と、リアルイベントの動員数はそのまま比較できるものじゃないですし。ざっとでかまわないので、コメント欄の反応を見てもらえますか? 反響の多いコメントが上位になってるので、上の方だけで大丈夫です」
「おう、画面の下にぶら下がってるやつだよな」
クロガネは太い指でスマートフォンの画面をなぞり、コメントを確認していく。
「えーと、【伝説のUMAモンスター出現!】【カマプアアって本当にいたんだな】【このモンスター何? はじめて見るんだけど】【パツキンヤンキーざまあw】【レアドロップじゃん。誰か<道具鑑定>よろ】【鑑定乞食乙。ちゃんと金払って依頼しろよ】――なんだこりゃ?」
いくら画面をスライドさせてもプロレスのプの字も出てこない。
「なあ、こいつら何の話をしてるんだ? 10層って初心者向けなんだろ? なんでそんなところのモンスターの話題で盛り上がってるんだ?」
「あー、そこからわかってなかったわけですか……」
女は両手の中指でこめかみを軽く揉む。
それに合わせて黒縁の眼鏡がくいくいと動く。
「何をわかってなかったって言うんだ?」
「あのモンスターはですね、普通、10層やそこらで出てくるレベルじゃないんです。50層のフロアボス級、通常モンスターとしてなら70層から80層あたりが適正です」
「ほーう、そうなのか。初心者向けにしちゃ、やけに手強いと思ったぜ」
クロガネは首の下をかきながら応じる。
50層だの70層だの言われても、初心者のクロガネはまったくピンと来ないのだ。
「つまりですね、今回の動画がバズったのは、7割以上はレアモンスターに対する関心なんです」
「それじゃ、プロレスへの関心は3割以下ってことかよ……」
思わず肩を落とすクロガネ。
眼鏡の女は申し訳なさそうに首を振る。
「いえ、それ以下です。残りのうち、2割は<
「壊滅? あの金ピカならピンピンしてたぞ?」
「仲間がいたじゃないですか。あの日以降、誰も見ていなくて、あのレアモンスターに殺されたんじゃないかって言われてます」
「そうか、それであいつ一人だったのか」
あのときは
その様子を見て勘違いをしたのか、女がフォローを入れる。
「でも、逆に言えば約1割はコースケさんに関心を持ってるってことなんですよ! これはチャンスなんです!」
「チャンス?」
予想外の言葉に、クロガネは首を傾げる。
「数字でいえば、コースケさんは1万人近くから注目を浴びているってことなんですよ。このタイミングでダンジョン配信をすれば、スタートダッシュを決められます! ゼロからコツコツ積み上げるよりも、ずっと有利にはじめられる状況なんです!」
「1万人……後楽園ホール5つ分か……」
クロガネの言葉に力が籠もる。
女にはなぜいちいち後楽園ホールに換算するのかわからなかったが、それについて考えるのはやめることにした。
「いまがチャンスだってことはわかったが……」
クロガネが眉間にしわを寄せる。
「しかし、なんであんたがそんなことを気にしてくれるんだ? ありがてえことだが、不良から助けただけで、そこまで恩に着られるのはちょいと合点がいかねえ」
「ふふふ……それはですね……」
女の眼鏡がキラリと光った。
一眼レフカメラを構え、パシャリとフラッシュを焚く。
「私、
「ダンジョンカメラマン?」
聞き慣れぬ職業に、クロガネは首を傾げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます