千住博美術館
膳所柚香
千住博美術館
ひまりの目の前には大きな光庭が、目の前に一つ、奥に一つ、両脇に一つづつあった。日光と樹木のあるその景色の中にひまりは駆け出す。
その部屋には千住博の絵画がたくさん飾られていたから、樹木はときに絵画の奥に隠れ、また、絵画はときに樹木の奥に隠された。風に樹木がそよげば、奥の絵画に描かれた鹿が見え隠れする。
そして、現れては消えるその鹿を、ひまりは眺めることにした。三秒現れ、一秒隠れ、一秒現れ、二秒隠れ、、、鹿は点滅し続ける。
そしてひまりが鹿を眺めている間に、
彼女の母は事故に遭い死んでしまった。
ひまりは何でもないことを注視していたことを後悔した。何でもないことを奇妙だと思って注視している間に母は死んでしまったのだ。
もちろん、ひまりが事故の時母と一緒にいても、飲酒運転で突っ込んできたというそのトラックをよけれたとか、そんなことはなかったかもしれない。
それでもひまりは鹿と、その時の樹木が嫌いになった。
千住博美術館 膳所柚香 @miyakenziro
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