短歌 徒然

ゆきお たがしら

第1話 へなぶり短歌 

1、へなぶり短歌


ひとに語るべきことではなけれども 詠わずにはおれない俺がいる


賢い人は今すぐ始めるという広告 見ているだけの俺はバカ?


上級国民言ってくれるじゃないか! 下級国民の我、涙、涙、涙


「もしも・・・」は悪魔の手毬唄 妄想世界で踊るいつもの俺


主人公の傲慢さが鼻につく でも・・・、オレ様も似たようなものか⁉


降りそそぐ熱線、熱風 これはトースター? レンジ? わめく吾は拡声機?


するんかい? せんのかい? やっぱするんかい バット片手に迫る俺


ヤバイ ヤバイぞ ほんとにヤバイ テストの下調べが下敷きからこんにちは!


勢いで仕事を辞めた俺の胃の腑のあたり 自家製冷蔵冷凍庫


金箔ならまだしもアルミ箔 議場の隅で吉田も角栄も呆れ顔 


お気に入りの力士がコロコロと 俺と同じでお先真っ暗


日本国民はスケベだというが 老いも若きも出会い系


恒例になった欠席マルの同窓会 今年も出す俺がいた


笑え笑え 天分がなくても 地獄であっても とにかく笑ってやり過ごせ



2、まじめに詠ってもへなぶり?


青い空 白い雲 緑の妖精はヨットと戯れ"ca va" 海の響きを懐かしむ


おおい雲よ何が見えるんだ 大地か宙か 俺は悲しくもお前だけだ


戯れに好きという字を余白に書けば色なき書にも春の雨降る


影ありし さみしき人と語り合う 告白以前の愛とは何ぞ(寺山修司によせて)


君に酔う 吾は悲しきピエロかな 数メートルの距離が幸せの玉手箱


青空に銀魚を放ち見上げれば途方に暮れる我がいる


愛さえあればと君は言うが 青写真描きし僕には仕事も金も必要なんだ


見えない星を見上げる我 孤独という糸を孤独という針穴に通すため


大空のもと俺は一人 いつも一人 見上げるはポポと浮く秋の雲


おおい雲よ、どこまで行くんだ? あてない俺はどうしたらいいんだ


両の手で襟搔き合わせれば 自然と湧きし森進一の「襟裳岬」



3、まじめに詠ってもへなぶり? 2


年ごとに寂しさ増すぞ秋の暮れ 父、母去りて子も去りて


妻と折る さやえんどうの青臭さ 寄する縁をつくづく思ふ(伊藤左千夫によせて)


カップに入りて鎮座せしトマトよ 庶民に手の届かぬ値札を胸に


気がつけばなにもなかった 人より少しうまく仕事こなしていたのに


破壊者となりし十五の俺 マジックでバッテン書いた白きTシャツ


少年と老人の影からいでし一筆の風 一輪の白き梅に春を告げるべし


ゼンマイの切れた時計のごと逝きし父よ 修理士も油も見つけられずに


入道雲背高きがゆえに見られおり吾は地で這いずり回る一匹の蟻



4、ウクライナ


照準を睨みて指はさまよえる されど目には目をと再び指は


帰れるか 帰れないか 言えぬ思いを胸に 戦場の空はどこまでも青く


空を切り裂くミサイルよ 祈り届かぬ顔また顔は文楽のガブとなる


ハイテクの見本市たるウクライナ 通信衛星、ドローンが飛び交う



5、我、原因不明の足の疼痛に襲われて


人の身体は不思議なれ 痛み極まれば真夏の暑さもへっちゃらさ


気温三十五度 カイロはりたる我は熱線、熱風も春のひと時


ビッグバンとなるわが足の痛みよ 時空を超えどこまでも果てなく


彗星のごと骨盤突き抜けし痛みよ 衝突して我を破壊せんことを祈る


「激痛」という二文字ではたりぬ痛みに 我は思わず駄々をこね


立っても座っても寝転んでも逃れえぬ痛みに これが生きている証としみじみ


他人が聞けば夏にカイロ? 洒落にもならぬ身体を我は持て余す


体内で暴れしエイリアン諸君 聞いて驚くな俺の名は「患者」


おや、これは! 右を向いても左を向いても茨となる寝床ありて


座り込む吾はでで虫 体の重みに耐えかねて一メートルが一キロに


地にへばりつきしヒキガエルの吾 跳ねることかなわず天と人を仰ぐ









後姿の素敵な人よ 君に酔う我の肉心を銀魚は蝕む


蜘蛛の巣のごと糸はりめぐらせし理不尽に 生きんがため生きんがために吾は働く


(山牧水によせて)

空の青 海の青にも染まずして 白鳥は今日も漂いし


ながぶれば朝の釜山は金色に 岩また岩よ青き海原


枯葉届けるつむじ風郵便屋さん たまに空缶 レジ袋も


ナナフシはどこから来てどこへ 人は旅人のうたを歌うというが


世は猛暑、猛暑と言いおるが 気づき見上げる空は秋の色


暑さに疲れ何気に日陰に入れば ほっと一息お盆過ぎ


ペン先で追う迷路のごときわが恋よ 来し道は見えれど先は見えず


指切りのさきの唇×唇 本当にあたしでと聞き流した性欲と征服欲


(在原業平によせ母の死で)

ついに行く道とはかねて聞きしかど 医師の言葉に戸惑う我


黄昏の街を歩めば漏れいでし茶碗に皿の音 人声に われは一本の影となる


おおい雲よ、どこまで行くんだ? どこにも行けない俺はどうしたらいいんだ?


思いもしない『ありがとう』 聞いて戸惑いと照れが連れ立つ俺がいた


目があえばにこりと笑う子がおれば 車内よし 車窓もまたよし


狂気は狂人の特権と思いきや ストーカーに独裁と案外身近にいるもんだ


大口を開けるは下品? 若き女性ボーカルは近ごろ腹話術師となりにける


来るんかい 来んのかい やっぱり来るんかい どこまでも気をもます迷走台風


自虐のギャグでへらへら 悲しみの向こうに幸せの国はあるのだろうか


産毛をまとう白き肌 紅く染まりし頬 桃見てスケベまっしぐらな俺がいる


(ココナッツが蚊に有効と聞き)

他人を刺さずになぜ俺を? にっくき蚊よ ココナッツが目に入らぬか


『猛暑』『酷暑』『熱暑』 なんでもいいから涼しくなっておくれ


空気食んで生きていけるのなら どこまでも俺は夢を追いかけるぞ


腕を組まれ驚く俺 青春は二度とかえらないと言うが本当のことだった


臍をかむなんてあまりにアクロバティック でもできない俺が嚙んでいた


歯をくいしばれ 心を決めよ すべては自分と言い聞かせつつ今日も


目標のない人生なんて無炭酸サイダー 刺激も旨味も満足感も水以下


なんとなく俺 何となく就職し何となく結婚 ロビンソン状態はいつまで続く


そむけるな そむけるな 与えられた現実から目をそむけるな いざ行かん


『これがいい』と言えば変身せし妻よ コナンもホームズもとてもかなわず


(盆踊りによせて)

カラコロと下駄の音高く急ぎ足 月が出た出た月が出た ヨイヨイ 


兄は手刀でオリーブの実を落としおり 妹はポポと浮く白き雲と月見ゆ





















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短歌 徒然 ゆきお たがしら @butachin5516

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